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Vol.019 日本専門医機構は言い逃れ会見をしている場合か。ただちに全情報を開示せよ!

医療ガバナンス学会 (2018年1月29日 06:00)


仙台厚生病院 医学教育支援室
遠藤希之

2018年1月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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日本専門医機構(以下「機構」)の山下英俊、松原謙二両副理事長が1月19日に記者会見を開いた。その内容は m3.com の記事に詳しい。

M3.com「大都市集中、内科激減は間違い」、日本専門医機構

https://www.m3.com/news/iryoishin/581029

この記事を読み、両氏の発言が支離滅裂である点に驚いた医師も多いであろう。本稿でも、どう考えてもおかしいと思われた発言内容について私見を述べる(以下、両氏の発言内容は上記 m3.com の記事による)。

●厚労省が実施した「三師調査と比較し(大都市圏に)専攻医が集中したというのは誤解であり、論理的に間違い(山下氏)」

彼らの主張をまとめるとこうだ。三師調査はその時点の勤務地の医師数である一方で、今回の専攻医登録数は「施設の本籍地」であるため、東京などの数がびっくりするほど増えてみえる。ただし、本籍地以外の都道府県に専攻医を送っているから、医師がいる現在地のデータをみないと「どこにどんな医師がいるかを言うことはできない」のだそうだ。

しかし、である。そもそも機構がこしらえた整備指針では、基幹施設から「専攻医を循環させる連携施設」は、基本的に「同じ都道府県内」という大方針、つまりしばりがあった筈だ。つまりプログラム認定の要件の一つに、同一自治体内での研修があったのだ(一部の例外は認められていた)。例えば、東京の施設のプログラムなら専攻医は都内で循環研修を行うのが基本ということだ。だからこそ、厚労省も当該自治体の医療整備局や医学部などと密な連携の上、自治体内の医師偏在を生まないよう協議会を設置せよ、といった通達を出したのだ。

ひるがえってこの両氏の発言は、自分達が決めた大方針を無視(または方針転換)し、連携施設はどこの自治体にあっても良いことにした、とも聞こえる。例えば、外科志望者が一人しかいない群馬県や山梨県に、東京から外科専攻医を送っても問題はない、と機構内部での方針転換があったと勘ぐられてもしかたないだろう。実際、昨年夏から秋にかけての総合診療科問題では情報の透明性、公平性が非常に欠けていた、とされる(※)。
大都市圏を中心にアリバイ作りの方針転換を行った、と言われれば、これまでの機構のやり方からすればさもありなんと感じる読者も少なくないであろう。しかし仮にそうだとすれば、律儀に県内の施設だけで研修施設群を作った基幹病院はみな馬鹿をみたことになる。

あるいは機構の独自判断で、東京都(または大都市圏)のプログラムであれば連携施設は同一自治体外にあっても構わない、といった基準のすり替えがなされたのかもしれない。これらについては憶測に過ぎないが、今後、東京の施設のローテーション先が具体的に明らかになればおのずと実態がみえてくると思われる。

そしてその結果次第では、上述の総合診療科の制度設計・施設認定基準問題(※)と同様、機構の公平性・透明性といった点に関するガバナンスがまたぞろ追求される事になろう。

いずれにせよ、東京から多数の専攻医が他県にローテートする事態が起きてくるとしたら、東京一極集中どころか、東京の施設による地方医療の支配という図式が定着する可能性もありえるのだ。

「大都市圏に専攻医が集中したのは誤解だ」だの「三師調査を使うのは論理的に間違いだ」などと言う前に、機構は持てる正確なデータを全て公表するべきであろう。とにかく機構のガバナンスで最も貧弱、劣悪な領域は「情報開示」なのだ。もう逃げ回っている暇はない。

(※総合診療科の情報の透明性・公平性が欠けていた問題については、「日経メディカルオンライン「専攻医募集で総合診療が「惨敗」、その理由は?」」に詳しい(1))。
●「厚労省が実施した「三師調査」はきちんとした数とは言えない。だから内科は減っていない(主に松原氏)」
彼らは、三師調査には全ての医師が回答しているわけではないため、調査数に比べると実際の専門医取得医師数はもっと多いという。つまり三師調査の数は過少である、だから「きちんとした数字ではない」とまで言い切っている(厚労省さんへ。ここは激怒するところですよ)。ただ、この点については、筆者も一部は同意せざるを得ない(http://medg.jp/mt/?p=8090).
この、三師調査、平成24年~26年の後期研修科ごとの具体的なデータは、厚労省のHP 「新たな専門医の仕組みに関する説明会(平成29年3月15日)、資料2」4, 5ページにある(limitation はあるものの、曲がりなりにも先進国の省庁が作製した正確なデータとして扱うべきだろう。少なくとも機構データのような脚色は、ない)。https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/323.pdf

一方、機構が独自調査した専攻医数ベースは、例えば内科の場合、過去5年の採用実績として「認定内科医の資格認定受験者数」から、複数回受験した医師や他領域で専門医を取得した医師を除いた数なのだそうだ。従ってよりきちんとした数である、と言いたいのであろう。実はこれも、上記の厚労省 HP で見る事ができる。ここには機構調べの、平成22年~26年の各科後期研修医採用数(5年の平均)が載っている。この表によれば内科の後期研修医数5年平均は3147人である。

ところがおかしな事に、彼らは独自調査の数を使わずに「内科志望者数」は減っていないと強弁しているのだ。松原氏は内科の現時点での専攻医予定数は2658人、「三師調査(!)」による内科の一年次の医師数は2650人で、8人も増えた、と胸を張っている。三師調査は、医師数を少なく見積もっているのではなかったのか。彼らが言うところの「きちんとした数ではない」人数から8人増えた、というのは苦し紛れの言い逃れにしか聞こえない。

さらに松原氏は、外科志望者数807人も三師調査数763人からは増えているという。ところが機構調べの上記資料、5年平均では外科は820人だ。自分達が調べた数がより正確だ、と示唆しながら、都合が悪いために三師調査数で比較するのは、その場しのぎの姑息な手段と言わずなんというのか。正直、内科、外科の数が減っている事実をなんとか誤魔化そうとする悪あがきにみえる。

記事から察するに、この点に関して会場からも質問があったとみえ、松原氏が答えている。これも仰天する内容だ。「内科に専攻医が来なかったのは事実だが、内科は減っていない(!)」のだそうだ。なんとも自己矛盾を含んだ発言ではないか。というよりもしどろもどろの弁解と言ったほうが正確か。

この後にまた首をかしげざるをえない発言が続く。「総合診療専門医は183人の予定であり、そこに内科から流れて、相殺された可能性がある」とのこと。言うに事欠いて、ついに総合診療科は内科の一部としてカウントすることにしたらしい。

ところがまだまだ矛盾をはらんだ発言が続く。専攻医には医学部地域枠(自治医大卒の医師も含まれるのであろう)が400人おり、総合診療科200人前後は当初からの予想通り、なのだそうだ。地域枠のため総合診療科に進まざるを得ない医師が200人程度いる、という説明は非常に納得できる。しかしこの事実・説明は「内科から流れた」というご高説との整合性がとれない。あくまで内科志望者数は減少していない、と言い張る材料としては逆効果だ。実に往生際が悪い。

機構が今すぐ行うべきことはこのようなのらりくらりとした言い逃れ会見ではない。従来、何度も指摘されてきたように、全情報の早急な開示だ。そしてそれらを土台とし、公開討論も含めたオープンな議論が必要なのだ。無理だと言うなら、機構は即刻解散、新専門医制度は白紙に戻し、再設計すべきであろう。
(1)日経メディカルオンライン「専攻医募集で総合診療が「惨敗」、その理由は?」

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/eye/201801/554415.html?n_cid=nbpnmo_mled

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