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Vol.246 日本における新型コロナの現状と対策

医療ガバナンス学会 (2020年12月9日 06:00)


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医師 二木久作

2020年12月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

新型コロナが世界的に流行しだしてから約10カ月が経過した。当初はどんなウイルスでどのような特性を持つかもはっきりせず、試行錯誤の中で各国がそれぞれに対策してきた感があるが、だいぶウイルスの特性も分かってきて、何をすべきかも明らかになりつつある。
ここでは日本における新型コロナの現状を考察し、今後の対策を考えてみる。

目次
1.現状の考察
(1)なぜ日本で新型コロナはピークアウトしたのか
(2)無症状者にPCRを行うことは有効か

2.対策
(3)「新しい生活様式」が有効
(4)イソジンうがいは有効か
(5)高齢者を守る必要がある
(6)重症者急増に対する備えを
(7)いざとなれば緊急事態宣言も考慮を

3.まとめ
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1.現状の考察

(1)なぜ日本で新型コロナはピークアウトしたのか
日本を含む東アジアでは、欧米に比し圧倒的に新型コロナの感染者数も死者数も少ない。この原因をノーベル賞学者の山中伸弥教授はファクターXと呼び、遺伝子の違いや、BCG、日本脳炎ワクチン、似たタイプのウイルスの既感染などがその候補に挙げられている。その解明は他にゆだねるとして、ここではなぜ日本で第一波も二波もピークアウトしたのかを考えてみたい。第一波の時は緊急事態宣言が出たのは4月7日で、新規感染者数のピークは4月10日、すなわち接触から発症のタイムラグ(平均5~6日)を考えれば、感染伝播のピークは緊急事態宣言前だったことになり、緊急事態宣言によりピークアウトしたわけではないといえる。第二波の時は緊急事態宣言も出されなかったし、あまつさえ感染拡大の真っ最中の7月22日にGoToトラベルキャンペーンが開始されたが、それでもピークアウトした。
一部の専門家はピークアウトの原因が集団免疫によるものだと主張しているが、その後の経過、すなわち第二波が来たこと、第二波が中々収束せず、収束しきらないまま第三波が来たことを考えれば、集団免疫を獲得したわけではないことは明らかだ。
では何が効いたのか。私は結局「空気」なのだと考えている。後述するが、「新しい生活様式」が非常に有効であり、多くの人が危機感をもって「新しい生活様式」を遵守するようになったために第一波も第二波もピークアウトしたのだと考えられる。
現在、第三波の真っ最中ではあるが、11月の第3週と第4週では新規感染者数は大きく変わらず、近々ピークアウトすることが期待できる。これもまた、多くの人が危機感を持ったことが影響しているのだろう。
ちなみに感染拡大防止よりも経済を重視する人たちの一部が「新型コロナはただの風邪」などと言い、感染防御策をとることを否定するようなことを言っているが、むしろそうした行動が感染拡大に寄与し、結果的に経済にも悪影響を与えていることを大いに反省していただきたく思う。

(2)無症状者にPCRを行うことは有効か
キャパシティーの問題で検査件数が限られていた春先ならいざ知らず、現時点で検査を抑制する意味はない。しかしながら兎に角PCRを増やせばいいものでもないことは、欧米の流行状況を見れば明らかだ。
11月30日時点で、日本ではトータルのPCR件数が人口100万人あたり2.8万件程度であるのに対し、アメリカでは同58万件、イギリスでは同63万件、フランスでは同31万件、ドイツでは同33万件であり、欧米では日本より10倍以上検査をしている。しかし、死者の数は日本が人口100万人当たり17人であるのに対し、アメリカでは同823人、イギリスでは同856人、フランスでは同801人、ドイツでも同197人と桁違いに多い。
しかもこれは初期の問題だけではなく、日本では現在第三波の真っ最中だが、欧州でも第二波と呼ぶべきか、日本より遥かに多く検査しているにもかかわらず、最近になって大きく感染者数も死者数も増えた。
また「いつでも誰でも何度でも無料で」検査できるニューヨーク市でも、現在第二波の真っ最中である。兎に角検査数を増やせばいいものではないことは明らかだろう。
では無症状例に検査しても無駄かというと勿論そんなことはない。中国では感染が広まってくるとすぐに都市閉鎖し、域内の全員にPCRを行い、陽性者を隔離するというやり方で迅速に感染を抑え込んできた。いわば超大規模のクラスター対策である。ここまでやるのなら無症状者に検査することも有意義といえるだろうが、既にかなり感染が蔓延している日本では、もはや現実的対策ではない。

2.対策

(3)「新しい生活様式」が有効
新型コロナは飛沫感染、接触感染およびエアロゾル感染を起こすことが分かっている。飛沫感染を防止するにはマスクや社会的距離を開けることが有効で、接触感染予防には手洗い、手指消毒が有効で、エアロゾル感染防止には密閉空間を避けること、換気を良くすることが有効である。すなわち「新しい生活様式」にある三密を避ける、手洗いをする、マスクをするというのは非常に理にかなった感染予防策といえる。アメリカの研究でも、今はアメリカではきちんとマスクをする人は半分程度らしいが、95%の人がマスクをするようになると今後の死者が1/3になるという研究もある。今後の感染予防を考える面でも、まずは「新しい生活様式」の徹底が第一であることは論を待たない。

(4)イソジンうがいは有効か
8月初めに大阪の吉村知事がイソジンを大々的に薦める会見をしたが、非常に評判が悪かった。以前に京大でイソジンうがいと水道水によるうがいを比較した研究があり、それによると風邪予防には水道水うがいの方がイソジンうがいよりも有効で、イソジンうがいではうがいしないのと大差ないという結果だった。その理由として、イソジンにより常在菌叢や粘膜が破壊され、ウイルスの侵入を容易にするためではないかと考察されていた。
しかしながら、新型コロナウイルスが唾液に多く含まれることと、イソジンにより容易に失活し、少なくとも一時的には、イソジンうがいで口腔内の新型コロナウイルスが激減することが示されている。イソジンうがいをしても自分の感染予防にはあまり効果がないだろうが、使い方によっては無自覚無症状の感染者が他人にうつすリスクを減らす効果は期待出来るように思う。例えば会食や宴会前に参加者全員にイソジンうがいをさせるとか、夜の街では客は来店時に、従業員は就業中は3時間ごとにイソジンうがいをすれば、クラスターの発生をそれなりに予防できる可能性はあるだろう。また首都圏や京阪神、北海道などの流行地域では、介護施設職員なども就業中は3時間おきにイソジンうがいをしてもいいかも知れない。
副作用も知れているのだから、私としては、少なくとも上記のようなシチュエーションで、イソジンうがいを試してみる価値は十分にあると考えている。

(5)高齢者を守る必要がある
新型コロナ感染症の特徴として、高齢者や基礎疾患のある方の予後は非常に悪いが、若く基礎疾患もない人では、少なくとも生命予後は決して悪くはないということがはっきりしている。特に春以降は治療も進んで、日本では若い人では新型コロナで亡くなることは殆ど無い。
それを考慮すれば、若い人と高齢者と同様に扱うことにはもはや合理性はないといえる。高齢者や基礎疾患のある方は出来るだけ外出を控えていただき、また高齢者と同居している方などもウイルスを持ち込まないよう細心の注意をしていただく必要はあるが、そうでない若者まで行動を厳しく制限する必要は必ずしもないように思う。
大切なのは感染者数を抑えることではなく、死者数を抑えることである。

(6)重症者急増に対する備えを
第一波の時は新規感染者数のピークは4月10日で、その時の重症者数は122人だったが、4月30日には重症者数は328人と、3倍近くまで増加した。第二波の時も新規感染者数のピークは8月7日で、その時の重症者数は140人だったが、8月23日には259人まで増加した。発症後しばらくしてから重症化し、その状態が一定期間続くことを考慮すれば、新規感染者数から2~3週間遅れて重症者のピークが来ることは自明である。またこれまでの経過を見ると、重症者数は新規感染者数のピーク時の数倍にまで増えることを予想すべきである。仮に今ピークアウトしたとしても、数週間後には重症者数が今の数倍になっている可能性は極めて高い。
大阪などの一部の地域では重症病床使用率が5割を超えてきており、今後逼迫することは目に見えている。新たな重症病床の確保や他地域へ搬送することなども考慮する必要がある。
欧米では日本の数十倍の感染者数があるが、病床を有効に利用することにより、春以降はオーバーシュートしていない。欧米のやり方をまなび、重症者急増に備えることが急務である。

(7)いざとなれば緊急事態宣言も考慮を
以上のような対策を徹底してもなお、感染が抑えられなかったらどうするか。
英仏独では第二波を受けて再びロックダウンに踏み切り、そのおかげもあってピークアウトしつつある。ロックダウンが有効であることは明らかだが、経済的悪影響が甚大であるため、出来ればやりたくないということは理解できる。
しかし、次の手を考えておくことは絶対に必要である。上記の手を尽くしてもなお、感染の急拡大を抑えられなければ迷わず緊急事態宣言を出すべきだろう。オーバーシュートして本来助けられるはずの命を無くすことは絶対に防がなくてはならない。

3.まとめ

・日本で新型コロナがピークアウトしたのは、多くの人が危機感をもって「新しい生活様式」を遵守したことが大きい。
・無症状の希望者にPCRをしても感染拡大防止効果は乏しい。中国式に都市閉鎖し、域内の全員にPCRをして陽性者を隔離すれば効果はあるだろうが、今の日本では現実的ではない。
・「新しい生活様式」を遵守することが極めて大切である。
・イソジンうがいは他人にうつすリスクを減らす効果はあるかもしれない。
・高齢者と基礎疾患のある方は重症化のリスクが高く、感染拡大期には出来るだけ外出を控えていただくことが望ましい。
・今後重症者の急増が予想される。重症病床の確保や隣接地域の連携などを迅速に進める必要がある。
・オーバーシュートさせないことが極めて重要。そのためには緊急事態宣言も頭においておく必要がある。

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