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Vol.002 在宅医療における災害対策 ~平成30年豪雪が訪問診療に与えた影響~

医療ガバナンス学会 (2021年1月4日 06:00)


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オレンジホームケアクリニック
宮武寛知

2021年1月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は、福井県福井市の在宅医療専門クリニック「オレンジホームケアクリニック」の院長である。今回、2018年2月に発生した「平成30年豪雪」に際しての当クリニックの診療の状況をまとめた論文が、Disaster Medicine and Public Health Preparednessという医学雑誌に掲載された。つい先日にも、新潟で降雪に伴って関越道の立ち往生が起こったばかりであり、雪害への備えは温暖化が進む中でも極めて重要である。このような状況を踏まえ、在宅診療の雪害対策をより良いものとするためにも、今回の論文の概要を説明する。

まず、平成30年豪雪が福井市にどのような被害をもたらしたか振り返ってみたい。この年、福井市においては2月7日の積雪が147cmに達し、1981年以来37年ぶりの記録となった。国道8号線が約10kmにわたって車1500台が立ち往生した様子をテレビで目にした方もいるのではないだろうか。鉄道の運休も相次ぎ、物流もストップしていたため、スーパーマーケットなどでの欠品や品薄が目立ち、ガソリンスタンドでは給油制限が行われた他、中学・高校や大学の休校が2月6日から13日まで続き、高校受験が延期となった。一方で、電気・水道などの生活インフラは保たれており、また、選り好みをしなければ食料調達も可能であったため、生活自体はなんとか可能な状況であった。

では在宅診療への影響はどうだったか。結論から言えば、訪問への影響は甚大だった。下のグラフを見て欲しい。予定訪問件数326件のうち実際に実施できたのは121件に過ぎなかった。最大の理由は大雪による交通インフラへの影響であり、積雪状況から訪問自体が物理的に困難だったケースが多かった。加えて、マンパワー不足とリスク管理から訪問数を絞ったという側面もある。大雪による交通網の麻痺や子どもの休校などから、出勤可能なスタッフが半数程に限られた他、訪問時におけるスタックなどの雪によるトラブルの対応を考慮し、3人1組のチームで訪問を行ったのである。これは普段の医師とクラークの2人1組のチームから増員した形である。その結果、診療チーム数は普段の3〜5組から、1〜2組に減らさざるを得なかった。

一方で、注目すべきは、このような在宅診療への影響にもかかわらず、体調を崩した症例がごくごく少数だったことである。熱発や肺炎疑いなど救急搬送を受ける症例はいたものの、それらのケースも幸い深刻な病状ではなかった。なぜだろうか。まず一つは適切なトリアージである。在宅患者は病状が安定していても容易に悪化しやすい。そのため、まずは病状がそもそも不安定な方を最優先にし、次いでこれまでの経過から病状悪化が予想される方や独居高齢者など生活全般にサポートが必要な方を優先的に選んでいった。状況に関しては、患者家族や訪問看護などのサービス提供者とその都度連絡を取りながらを把握し、訪問診療の有無を決定した。普段の定期訪問の際に病気のことだけでなく、訪問介護・訪問看護などの在宅サービス利用状況、同居家族の有無や本人・家族の生活能力など社会的背景も含めて包括的に理解していたことがトリアージの助けとなった。

また電話での状態確認やインターネットを利用した遠隔診療の活用も有利に働いた可能性がある。実際、ある小児患者の管理においては、遠隔診療が有効に働いた。その子は中心静脈カテーテルを使用しながら、先天性心疾患の管理をしていたが、2月7日にカテーテル刺入部の感染が疑われたため、患者宅近くの訪問看護師を交えてテレビ電話で遠隔診療を行った。抗生剤処方を行った他、その後もフォローアップの遠隔診療を行うことで、搬送を防ぐことができた。なお、このケースについては、別途症例報告( https://doi.org/10.1002/ccr3.2633 )としてまとめているので、ご覧いただければありがたい。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2021_002.pdf

以上から言えることは、普段の診療において、病気だけでなく生活背景を含めた患者さんの状況を包括的に理解することや電話やインターネットを利用した遠隔診療を活用することが結果的に雪害対策となっていたということである。現場では、これらの基礎情報に加えて、災害に直面した際に、その時の状況や使用可能なリソースを見極めることで、臨機応変な対応を行うことができたと考えている。

今後の課題としては、訪問ができず、加えて、連絡もつかない場合にはどのように対応すべきかという問題がある。実際このようなケースでは一クリニックレベルでできることは限定的である。行政とのホットラインを普段の診療から確立するなどして、災害時には行政を巻き込みながらの対応を行えるようにする必要があるだろう。また、今回雪害に対応する中で、在宅診療に対して雪害以上に甚大な被害を起こしうる他の水害の存在にも気づくこととなった。例えば、現在最も警戒しているのは水害である。なぜならば、その頻度が増加傾向であることに加え、水害においては、ときに避難が必要となり、在宅診療では迅速な避難が難しい患者が少なくないからである。そのような背景もあり、現在、在宅診療を受ける患者において、水害に関わる意識調査を進めている。その結果も生かしながら、在宅診療におけるより質の高い災害対策を提案できるようになりたい。

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