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Vol.018 三密を防ぐ方法論:CO2モニターの活用

医療ガバナンス学会 (2021年1月27日 06:00)


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山本百合子

2021年1月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

この一年、世界は新型コロナの話題で始終してきました。国や自治体は連日、陽性者数を発表し、手洗いうがい、三密を避けることを訴えています。

手洗いやうがいは個人の範疇のことであるとしても、「三密を避ける」というのは個人でできることとしては限度があります。そもそもどのようにすれば避けられるのか、どこまでであれば可能なのか分かりません。具体作の提示が必要であろうと思いますが、個人を対象とするだけでは、限度があります。もっと様々なルートでのアピールも必要ではないでしょうか。

昨年、或る産業医の方が経験した、興味深い事例をお聞きしました。新型コロナが大きな話題となって、日本中からマスクが消えた時です。訪問している企業の担当者が、倉庫から6,000枚のマスクを出してきました。2009年の新型インフルエンザの時、社員の数から割り出して、備蓄を行っていたそうです。これがどんなに役立ったかということは、書くに及びませんが、企業がやろうと思えばそれほど大きなことができるということでもあります。ただし、そこには企業ならではのハードルもあります。社内ではたった100円のマスクでも、何に使うかきちんと報告し、領収書をとり、上席の許可をもらわなければなりません。ましてや6,000枚となれば、金額も大きく、稟議書を出さなければならないだけでなく、その管理部門を決め、保管場所をも確保しなければなりません。要するに、企業がやりやすい、企業のロジックにしたがった方法論の提示が必要であろうということです。しかし、それがうまくいけば、企業のできることは、個人のそれとは比較にならないほど、大きな資源となるであろうことは、言うまでも無いでしょう。

国が訴える三密についても、同様のことが言えるはずです。現在、多くの業界団体が、新型コロナ対策へのガイドラインを出しています。膨大な数の「業界」がありますので、その数も相当数です。飲食店関連の業界、運送業界、それぞれの業界の特性にしたがって、書かれているはずですが、しかしその中身はすべて同じです。入り口にアルコールスプレーを置くこと、手洗いをすることなどですが、それほど目新しいことは書かれていません。オフィスや店舗では三密を避けるべしとなっていますが、どのようにすれば、避けたことになるのかも示されていません。

そこで、ひとつ、ご紹介させていただきたいことがあります。産業界で長く提示されてきた方法にCO2モニターの利用があります。建築関連の法律では、オフィスや居室などの換気の基準として、室内の二酸化炭素濃度の上限値を定めています。建物のCO2 濃度を5000ppm 以下を許容限度とし、1500ppm を推奨、目標値としては1000ppm としています。また建築基準法でもシックハウス対策として建築物内の換気設備等が義務付けられていますが、ここで注目したいのは、その数値そのものではありません。一つの部屋の中でも、二酸化炭素濃度にはかなりの差があるということです。言うまでもなく二酸化炭素は人の呼気に由来しますから、人がたくさん集まり、且つ、換気がされない場所はCO2濃度が高くなります。さらに、これを線香などの煙によって確認することもできます。線香を室内の様々な場所に持って行き、その風の方向を確認してみてください。一つの室内の中でも、場所によって風の揺らぎがあるのが観察できます。室内の構造、暖房機や窓の位置によって、一つの空間でも温度差ができ、それが空気を循環させます。その循環の、いわば死角となる場所があるのがわかります。この空気の死角が、「密」であり、換気がしにくい場所であるということと言えるでしょう。これらは、ドアを1センチ開けることによって解消できる場合もありますし、できない場合は、その部分のデスクやテーブルの配置を変えることによって、改善できる場合もあるでしょう。
これは、一つの方法にすぎませんが、企業や組織は、そのロジックにしたがって書類の形にできなければ、動くことができません。単純に「空気が淀んだ気がする」では行動に移せないのです。二酸化炭素濃度の提示は、その形を作りやすくするでしょう。また、測定のための装置、CO2モニターは現在通販などで、数千円から販売されていて、入手は容易ですから現実的でもあります。

このような趣旨の内容を書きました実用書として、本を上梓いたしました。

新型コロナの参考書
伊藤 博澄 著
企画デザイン 山本百合子
創流出版

組織が使用しやすいよう、図表を多く使い、最新資料へのアクセスがしやすいよう、QRコードなどもいれています。多様な理解力に対応できるよう、オールカラーで、漫画なども入れ、知性だけでなく心に響く形にした項目もあります。
ご笑覧いただけましたら幸いです。

山本 百合子
グラフィックデザイナ
多摩美術大学卒
東京大学 大学院総合文化研究科 修士

日本ロービジョン学会会員

参考:
事務所衛生基準規則 第二章 事務室の環境管理(第二条-第十二条)中央労働災害防止協会

https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-2/hor1-2-36-2-0.htm

(抜粋)事業者は、室における一酸化炭素及び二酸化炭素の含有率(一気圧、温度二十五度とした場合の空気中に占める当該ガスの容積の割合をいう。以下同じ。)を、それぞれ百万分の五十以下及び百万分の五千以下としなければならない。2020 年12 月27 日閲覧

ACGIH、日本産業衛生学会許容濃度部会の勧告値、ソ連の許容濃度、 日本公衆衛生協会の公害問題に関する答申(1956 年)、 日本薬学会協定試験法における普通室内空気試験成績判定基準、文部省学校環境衛生基準を勘案
Ref. 小林陽太郎 , 他(1966)ビルディングの環境衛生基準に関する研究 . 昭和 40 年度厚生科学研究報告書

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