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臨時vol 13 高久通信「乳がんをめぐる最近の話題」

医療ガバナンス学会 (2006年4月30日 14:55)


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2006年4月30日発行

乳がんは、欧米諸国では女性のがん死亡の主要な原因となっている。また乳が
ん治療の経験を持っている女性の数は、近年の乳がん治療の進展に伴い、急速に
増加している。したがって、乳がんの研究を支持する団体の数も多い。当然のこ
とながら、乳がんに関する研究は極めて活発で、新しい発表を目にする機会が多
い。今月は、この中で重要と考えられる研究を少し専門的であるが、あえてご紹
介したい。
まずはアメリカの50歳以上の健康な閉経後の女性を対象にした大規模な疫学研
究の結果で、19,000人以上の人を、1日の総摂取カロリー中の脂肪分の割合を20
%にする低脂肪食に加えて、できるだけ多くの果物、野菜、穀物を取るように振
り分ける食事介入群とし、対象群として29,000人の今までどおりの食事を取る同
年代の女性を選び、8年間にわたって、この二つの群の間で進行性乳がん、大腸
がん、並びに心血管障害の発症に相違があるかどうかを調べている。食事と疾患
との関係を5万人近くの人たちを対象とし、しかも、8年間という長い期間調べ
るという誠に壮大な疫学研究である。対象となった乳がん、大腸がん、心血管疾
患はいずれも以前から脂肪の過剰摂取や肥満がその発症に密接に関与することが
報告されている疾患である。

 

当然のことながら、厳格な食事の制限を長期間続けることは困難で、脂肪制限
群の人たちの脂肪摂取量は、年月を経るにしたがって少しずつ増加しているが、
それでも最後まで対象群よりも低い値となっていた。この疫学研究の結果は予想
と異なり、脂肪制限群が対象群よりも発症の頻度が低かったのは乳がんだけで、
大腸がん、心血管障害の発症には両群間で相違がなく、その乳がんでも両群間の
差は9%と有意でなかったと報告されている※1。ただこの研究に関しては、食
事と疾病の発症との関係を調べるのに、8年間はまだ短すぎるのではないかとい
う議論がある。事実、この研究でも経過を追うにつれて乳がんで両群間の差が広
がっている。またこの研究のように閉経後の女性ではなくて、もっと若い女性を
対象にしたら、この差がもっと大きくなったのではないかという意見もある。
もう一つの研究は、乳がんを起こしているもともとの細胞は、乳腺の幹細胞と
いわれているあまり分裂をしない未分化な細胞であるという報告である。その結
果、治療によって乳がんが治癒したように見えても、その未分化ながん細胞はな
お残存しており、そのようながん細胞が乳がんの再発や治療後、数年も経って発
見される転移の原因となっているという癌幹細胞説である。このような癌幹細胞
は乳がんだけでなく、白血病を始め、様々ながんで存在していることが最近証明
されている※2。
※1 Prentice, RL., et al.. JAMA 275:629, 2006
※2 Huntly, B.J.P. Nature 405:1169, 2005

 

■著者紹介
高久 史麿(たかく ふみまろ)
自治医科大学内科教授、東京大学医学部第三内科教授、国立病院医療センター院
長、国立国際医療センター総長を歴任後、平成7年5月東京大学名誉教授、平成
8年4月から現職(自治医科大学 学長、日本医学会 会長)

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