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Vol.039 神奈川県学校現場における積極的疫学調査について

医療ガバナンス学会 (2021年2月24日 06:00)


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神奈川県議会議員
小川久仁子

2021年2月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

令和3年1月8日、神奈川県は新型コロナ感染症の積極的疫学調査の重点化、すなわち、重点対象以外は積極的疫学的調査を行わない方針を発表した。感染まん延期においては、感染経路不明が6割を占めるようになり、積極的疫学調査を行う意味がない、また、保健所業務がひっ迫しており、積極的調査をおこなうゆとりがない、という知事の発言が報道された。これは、実は令和2年11月20日の神奈川県新型コロナ感染症対策会議において方向性が決定されたのであった。

積極的疫学調査の重点化とは、高優先として医療機関、高齢者施設、福祉施設は積極的疫学調査を行う。中優先として、学校、保育園、幼稚園なども含め教職員の積極的疫学調査を行う、という意味である。

私はこの発表を知り、すぐに県教育委員会に問い合わせをした。変異株感染が国内でも発見され、若い世代にも重症化をもたらすのではないか?と懸念されている時期に、児童・生徒を疫学調査の対象からはずすなどとはもっての外、という怒りを秘めての問いあわせであった。

しかし、神奈川県の桐谷教育長の話は、以下のようであった。県教育委員会は、学校現場は教職員のみ中優先として行い、児童・生徒への積極的疫学調査は行なわないという県の方針にも関わらず、児童生徒に対しても疫学調査を積極的に継続して行っていた。児童生徒に感染者が出現した場合は、感染者の席次、周辺の名簿、行動履歴など学校内の行動や感染予防体制に関して詳細を、保健所に報告し、保健所業務が軽減されるように工夫しながら、保健所・学校医・校長(所属教育委員会)3者が判断し、積極的疫学調査を継続している。

もともと、学校現場では、保健所長、学校医、校長(所属教育委員会)の3者が相談して、感染者が出た場合の対応を行ってきた。5人以上の感染者がでた場合はクラスター発生ととらえ、場合によって全校PCR検査を行ってきている。積極的疫学調査の重点化宣言が出された後にも、PCRの学年検査や学級検査などを行った例が、県立学校では、18件報告されている(2月19日現在)

実態はこうであるにも関わらず、県からの発表は、前掲の通り、積極的疫学的調査は重点化され、コロナ感染が発生した場合、学校現場における生徒の調査は行わない、ととらえている人が多い。これでは、実態が県民に伝わらないのではないか?と私は考えた。

新型コロナワクチンは16歳以上が対象である。理由は15歳までのワクチン治験がないからという事だが、15歳以下の児童生徒に感染者数が非常に少ない、重症者がほとんどいない、無症状が非常に多いという事も大きく影響しているだろう。

また高校生の感染者数は小学生、中学生に比較してはるかに多い。

学校現場といっても、幼稚園・保育園から、小学生、中学生、高校生と幅広い。(大学や専門学校などは成人扱いと考える)一言で学校現場とくくるのは余りにも安易にすぎないか?

一方で、県教育委員会の実際の疫学調査への対応―すなわち、詳細にわたる調査項目は学校側で用意し、保健所長・学校医・校長(所属教育委員会)が相談して、積極的疫学調査を行い、場合によっては全校PCR検査も行うという対応は、大変すばらしいものであったと考える。児童生徒の命を守るために、全力でむきあう県教育委員会の姿勢が表れている。

このことについて、私は神奈川県文教常任委員会閉会中審査(令和3年2月1日)において質疑し、実態を答弁によって明らかにした。そして、児童・生徒の命を守る体制が継続されている事に安心感を得ることができた。そのうえで、公立小中学校を所管する各市町村教育委員会での判断が均一であるように情報共有が重要であると指摘している。

県の学校現場におけるコロナ感染症に対する姿勢を、正しく、保護者に伝え、安心感を持ってもらう事の重要性を私は痛感している。変異株が潜在しているのではないか?という危惧がもたれている現在、神奈川県教育委員会所管の学校では、生徒たちの命を守るための積極的疫学調査を県の方針とは別にしっかりと行ってきた事を、金字塔として、記録に残しておきたい。

ちなみに、神奈川県は新型コロナ感染者数減に伴い、ステージ3相当に感染状況が改善したという理由で、積極的疫学調査を再開することを、令和3年2月16日本会議において、立憲民主党代表質問に対して、黒岩知事が答弁している。

しかし、積極的疫学調査を、1月8日に高優先、中優先のみに重点化すると発表される前から、前掲の11月の決定通り、実態は、消極的疫学調査になっていた事を私は承知している。

私の主人が運営している小規模多機能型高齢者施設で、12月28日に新型コロナ感染者がでてしまった。Aドライバーが、同日発熱し、PCR検査陽性となり入院したのが、12月31日。保健所から施設の管理者に連絡があり事情をきかれたのは、大晦日の夜9時ころであった。26日にAドライバーと接触したのはだれか?マスクは着用していたのか?などと発熱2日前である26日のAドライバーの行動を聞かれた。26日に、車中で15分以上一緒であった利用さんについては、ドライバーも利用者さんもマスクを着用していた、という説明を聞くと、その利用者さんのPCR検査には何も言及がなく、様子をみてほしいという事のみであった。
Aドライバーを心配して、2つの医療機関に同行した、施設ケアマネは濃厚接触者として14日間の自宅待機を要請され、数日後にPCR検査キットが送付されてきた。毎日、体温を報告していたらしいが、検査キットを返送し、陰性結果がでると、その後は何の確認も連絡もなかったと聞いている。

この身近な経験だけではなく、他の高齢者施設や障害福祉施設でも、施設内部から感染者が出ても施設内消毒もしないし、行政検査もしないが、これで大丈夫なのだろうか?という心配の声を聴いていた。
こういう事実から、県が発出した積極的疫学調査の重点化―一部化―は、保健所業務の現状追認に他ならなかったのではないか?と推測できる。保健所の業務ひっ迫は新型コロナ感染症が発生してから叫ばれ、1年経過している。これは昨日や今日始まったことではない。業務の外部委託化や人員増は失業者数が増加している状況からすると、失業対策にも資する施策にもなるものを、神奈川県は、感染症の野放しにつながるような、積極的疫学調査のレベルを下げる道を選択したのである。
しかも、知事も担当課長も、感染蔓延期には積極的疫学調査の意味がないなどと、発言していた。その舌の根の渇かない内に段階的に人手が充足してきた地域から積極的疫学調査を再開していたというのである。びっくり仰天である。1月8日の記者発表の折に、保健所業務のひっ迫を謝罪し、「やむを得ず一時的に積極的疫学調査を重点化せざるを得ない、なるべく早く再開するよう努力する」というような内容であったのなら、うなずけるのだが。全く承服できない経過である。勿論、積極的疫学調査を重点化したことへの議会や県民からの批判はかなり強かった事は当然である。
英国が、コロナワクチン接種を行う人員確保のために、医療者以外にも研修を行ったという考え方とはま反対の行為である。埼玉県は、国の方針には同調せず、積極的疫学調査を継続してきたと聞くが、大野知事の見識には頭が下がる。

1月8日の記者発表から約ひと月、積極的疫学調査を再開したと、本会議場で知事があっさりと答弁した。ここでも、津久井やまゆり園事件を起こした社会福祉法人共同会に対する知事の対応がコロコロと変化したと同じ、定見の欠如が表れている。

一方で、県の方針とは別に、実態として学校現場において、生徒に対しても、積極的疫学調査を継続してきた県教育委員会、教育長の英断には頭が下がる思いである。神奈川県にも、命を守る信念を貫く人がいる、という証である。ありがたいことである。ここに経過を報告することによって、感謝としたい。

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