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Vol.043 地元の医学部に進むということ、そして、東京・福島体験記

医療ガバナンス学会 (2021年3月2日 06:00)


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広島大学医学部2年生
溝上希

2021年3月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
大学に入学してから「早く外の世界に行かなくてはいけない」という漠然とした焦りを感じながら、大学2年生を終えようとしていました。そんな中、12月23日、私の所属している学生団体MNiST(画像診断センターMNESご後援のもと、「学生の目線から医療、そして世界をより良いものにしたい」をモットーに活動している学生団体)が初めて講演会を主催しました。テレビにもたびたび出演されている上昌広先生が講師の一人として東京から広島に来てくださるらしい、と聞き、ワクワクしながら講演会に参加したのが、今回の医療ガバナンス研修所への短期インターンシップのきっかけでした。

私は、広島で生まれ、広島大学附属小学校、中学校、高等学校、一年浪人を経て、広島大学医学部医学科へと進学しました。中学・高校時代は、「学校以外のもっと広い世界に早く近づきたい」という気持ちが強く、さまざまな課外活動を行なっていました。学校生活も、体育祭局長(実行委員長)や文化祭副局長をしてみたり、国際交流をしてみたり、と、本当に環境や周りの方に恵まれて、国内外問わず、充実した活動をさせていただきました。

そんな中、小さい頃から広島大学医学部への入学が正しいと信じ、大学に期待してきましたたが、大学に入り、ふと「なぜこの大学を選んだのだろう」と考える様になったのです。初めて、自分の進路に疑問を持ちました。もちろん、両親に志望大学を強制されることもなく、自分の意思で決めた大学でした。志望動機も自分なりにしっかりと考えていたつもりでした。

広島大学は、決して悪い大学ではありません。2020年、イギリスの高等教育専門誌Times Higher Educationによる「THE大学インパクトランキング2020」では総合スコアが北海道大学、東京大学、東北大学に次ぐ国内4位、2019年度国立大学運営費交付金ランキングでは9位であり、県の規模を考えるとかなり高い位置にいると思います。

しかしながら、大学生活はなぜか焦りと絶望感でいっぱいでした。この焦りの最大の原因は、もっと広い世界に早く近づきたいと人一倍感じていたにもかかわらず、今までとは違う文化圏に飛び込まなかったことにあると思います。

広島に残り、身につけてきた価値観、聞いたことのある情報、なんとなく知っている方達に囲まれて過ごすことは、楽ではありますが、知的好奇心を刺激させるものではなく、自分の更なる成長につながる気はあまりしませんでした。さらに、地方特有の同調圧力と閉塞感があることも否定できません。多くの友人は上京し、「人脈が大切だよ。」「新しく自分の世界が広がったよ。」というけれど、自分は高校時代と生活はさして変わらず、取り残されたという気持ちだけが膨らんでいきました。

そして困ったことに、医学部に進むということは、6年間きっちりと学習し、そのまま大学の医局に入局し、関連病院へ派遣され、広島大学でいうと広島県やその周辺の中四国地方で医師生活を全うする人生を意味します。もちろん、他にも選択肢はたくさんあるのかもしれませんが、正直なところ、他の将来像は実感として大学側からはあまり提示されず、現実味がありませんでした。医局制度は、それはそれで幸せであり、長年構築されてきた医学界の「ルール」なのかもしれませんが、私にとってはさらに追い討ちをかけるものでした。

悶々と悩む気落ちとは裏腹に、大学生活は考えさせる暇も与えられないほどすごいスピードで過ぎていきます。解剖学実習から始まり、テストだらけの大学2年生。試験を目の前に控えながら、それでも「憧れの東京の偉い先生」という半ばミーハーな気持ちを持ちつつ、上先生の講演会に参加しました。上先生のご講演によって、自分の人生に少し希望を持つことができたこと今でも覚えています。「異なる文化に触れなさい、優秀な人の元で学びなさい。」という上先生のお言葉は、その時の私に強く刺さるものでした。

次の日すぐに上先生に「研究室に伺いたい」との旨を伝え、快く承諾していただき、医療ガバナンス研究所への短期インターンシップが決定しました。

約5年ぶりの東京です。家族と観光で行った5年前とは違い、今回は一人での移動ばかりでした。普段自転車暮らしの私にとって、最初の困難は、何個もある駅の出口の正解を探すことでした。iPhoneの地図アプリ片手に、駅にある地図と何度も照らし合わせつつ目的の出口を見つけるのは意外と時間がかかるもので、北と南の2つしか出口のない広島駅との違いを痛感しました。また、東京の人の歩くスピードは随分と速く、人の流れができています。私はいつも通りゆっくり歩いたり、途中で立ち止まったりするのにも緊張してしまい、「なるべく同じように歩かなくては」と、歩くことさえ焦ったことを覚えています。そして、出会う方ほとんどが標準語で話されるので、広島弁を出すことは恥ずかしい気がして、なるべく出さないように意識するのも大変でした。

今回のインターンシップは、1週間という短い時間でしたが、濃密で、忘れられないものとなりました。上昌広先生をはじめ、元厚生労働大臣である衆議院議員の塩崎恭久先生、郷原総合コンプライアンス法律事務所代表の郷原信郎先生、マッキンゼー・アンド・カンパニー元東京支社長である横山禎徳先生などさまざまな分野における「一流」の方々にお会いし、それぞれの分野で、日本や世界の変化や流れを担うための「いろは」に触れさせていただきました。

今までは、私の知らない遠くの東京という街で、なぜかわからないけれど国は動いているのだと思っていました。しかし、このような一流の方々にお会いし、実際に活躍されている姿を目の当たりにすると、自分の教養や知識がいかに不足しているかを思い知らされるとともに、自分が社会の一員になるためのビジョンが今までよりもクリアに、そして、自分も「社会と繋がっている」と実感でき、これからに対するワクワクが止まりませんでした。大学では学ぶことのできない、社会人となるためのもっと大事な教育をしていただきました。上先生には、「学術誌のメールアラートを設定し、見出しだけでも毎週チェックすること」「本や映画などで教養を身につけること」と具体的でかつ場所にとらわれず、社会を取り残されないためのアドバイスもいただきました。

また、医療ガバナンス研究所でインターンをしている学生の方からも大変多くのことを学びました。東京大学法学部4年生の田原大嗣さんには、東京大学周辺を案内していただきました。本郷キャンパスの位置する地形や歴史のお話を織り交ぜなら東大について様々な解説していただき、非常に興味深く面白かったです。私と同じ時期にインターンを開始し、2月いっぱい医療ガバナンス研究所にお世話になられる帝京大学5年生の遠藤通意さんにもとても気さくに話していただき、東京の医学生ライフについてたくさん教えていただきました。広島でのんびりと過ごすのも悪くはないけれど、遠藤さんのお話を聞くと、やはり、各分野で活躍されている人に出会える機会とその情報が多い東京での大学生活に憧れを抱かざるをえませんでした。

医療ガバナンス研究所の研究員の方をはじめ、多くの方にお世話になり、さまざまな生き方を学びました。そんな中でも、今回のインターンシップで特に心に残ったのは、福島県いわき市のときわ会常磐病院の見学でした。1週間の医療ガバナンス研究所のインターンシップでしたが、上先生のご紹介で、そのうちの2日間は福島に行きました。

東京駅から常磐線ひたち号にて、福島県の湯本へと向かいました。ときわ会常磐病院乳腺外科の尾崎章彦先生が直々迎えに来てくださり、そのまま先生のお仕事の都合により、南相馬まで行きました。南相馬まで行く間、2時間ほどの道中で車から見た景色は、5年前福島に訪れた時と比べてかなり変化していていました。(2016年、私が高校一年生の時、地元の中国新聞社のジュニアライターとして、福島の高校を取材しました。)5年前は、除染作業による土や廃棄物をまとめた「黒い袋」が福島の至る所に置いてありましたが、その数は激減したように感じました。被ばく線量測定器が一定の間隔ごとに設置してある高速道路はきれいに整備されており、復興のための工事用トラックが行き交っていました。そしてこの道中では、尾崎先生から多くのことを学びました。好きな映画の話から、将来診療科を選ぶ時のアドバイス、尾崎先生が実際どのような働き方をしているかなど、普段お忙しい尾崎先生と少し長い移動時間にお話しし、先生の価値観や物事の見方のエッセンスを知ることができたのは、非常に貴重であったと今振り返って改めて感じます。

また、ときわ会常磐病院事務部部長の安藤茂樹さん、事務部副部長の杉山宗志さんにも大変お世話になりました。はじめは一人で福島に行き少し緊張していたのですが、お二方が、ただ見学するだけの私にも優しく接していただいたおかげで、緊張が和らぎました。優しくて面白いだけでなく、お仕事に対して熱く、真剣だからこそ、強い信頼関係が築かれており、お二人の関係性がとてもかっこよかったです。

また、2日目の病院見学では、朝8時から、外科の回診について回りました。患者さんにお話を聞きながら、ガーゼを取り替えたり、処置をしたり、また、医学生2年目の私にとっては痛そうで目を伏せたくなるような場面でも、明るい雰囲気で仕事のスピードは非常に速く、感動しました。その反面、私が将来現場に出た時使える人材になるだろうかと不安にもなり、座学で勉強しているだけではダメだなと改めて感じる瞬間でもありました。

その後、外科の澤野豊明先生にどんなことをしているのかを丁寧に教えていただきながら悪性リンパ腫摘出の手術見学をし、乳腺外科尾崎章彦先生の外来見学、血液内科森甚一先生の外来見学(外来と外来の間に病院内のラボに行き、研究をされておられました!)、そして、院長新村浩明先生による内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った前立腺癌摘出の手術見学をさせていただきました。

ときわ会常磐病院は、全体的に若い医師やスタッフが多く、活発で勢いのある病院だと感じました。福利厚生も厚く、こんな病院で働きたい!はやく医者になりたい!とこんなにも強く実感したのは初めてでした。そして、ひとくちに医師と言ってもいろんな働き方があるのか、と私にとって発見の連続の病院見学でした。

広島で過ごしていると、出会う人は基本的に広島出身ですが、この東京・福島でのインターンシップでは、出会う人皆様がバラバラのご出身で、異なる文化、バックグラウンドをお持ちでした。上先生と出会った時にいただいた「異なる文化に触れなさい、優秀な人の元で学びなさい。」の言葉通りに経験させていただいた今回のインターンシップで、私は1つ大事なことに気づきました。自分の生まれ育った地域の歴史・文化をもっと知らなくてはいけないということです。今まで、「外の世界に早く出たい」と、焦りばかりが大きく、肝心の自分自身の世界がうまく形成されてなかったと気付きました。また、医療ガバナンス研究所へお世話になるときまでには、教養や世界の常識を蓄え、故郷広島のことをもっと知り、自分がどんな人間で、何がしたいのかの判断を自分の頭で考えられるよう、パワーアップしたいと思います。

最後になりますが、このような貴重な機会を与えてくださった上昌広先生、何もわからない私を優しく迎え入れてくださった医療ガバナンス研究所の研究員、インターン生の皆様、このような時期に病院見学をさせてくださったときわ会常磐病院の先生方、スタッフの方、そして、私が学生であるにもかかわらず本当に気さくに接していただき、そして一流の世界を見せてくださった塩崎恭久先生、郷原信郎先生、横山禎徳先生に心より感謝申し上げます。

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