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Vol.064 ダイヤモンド・プリンセス号の経験と教訓を踏まえ東京オリ・パラでは新しい検疫の運用をすべき

医療ガバナンス学会 (2021年4月5日 06:00)


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井上法律事務所 弁護士
井上清成

2021年4月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.変異株の猛威下での検疫のあり方

新型コロナが一般国民に認識されるようになったのは、やはりクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の臨船検疫が最初であったように思う。あれからもう1年が経過した。しかし、今もって新型コロナの猛威は続いていて、特に最近は変異株の発生と蔓延が抜本的な対策強化を促している。そのような中、間近に東京オリ・パラも迫り、結局、海外からの一般観客無しでの開催方式に決定されたらしい。

とは言え、来日する各国のオリ・パラの選手・関係者の総数はやはり多数にのぼるであろう。そこで、新型コロナ変異株の猛威に対抗するためには、オリ・パラに向けて新しい厳格な検疫の運用が望まれる。

ところで、現在まで、全ての国・地域から入国する全ての人に対して、徐々に検疫が強化されて来た。しかし、最も厳格な運用(検疫所の確保する宿泊施設等で入国後3日間の待機をし、3日目〔場合によっては6日目〕に検査を実施する方式)をしているのは、「新型コロナウイルス変異株流行国・地域(今は24ヶ国・地域程度らしい。)に過去14日以内の滞在歴がある人」に限定されている。

そこで、オリ・パラの選手・関係者や全ての入国者について、せめてオリ・パラ開催期間中くらいは、変異株対策と同様にこの最も厳格な運用を試してみてはどうであろうか。
2.クルーズ船の検疫の経験と教訓

2020年2月3日にクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港沖に到着後、直ちに臨船検疫が開始され、当時の厚労副大臣や政務官、審議官らも2月11日以降に乗船して、ほぼ3週間にわたって対処が続いた。それは検疫法に基づく検疫ではあったが、その約10年前の新型インフルエンザ騒動の際の強制措置(検疫法第16条所定の「停留」)による人権侵害の反省の下に、今回は「停留」措置は採らずに任意の検疫に留めたらしい。

クルーズ船の乗員・乗客計3711名、うち2666名が乗客で、約2000名が基礎疾患を有しているところへ、新型コロナが発生したという大変に困難な状況での検疫であった。当初はPCR検査の能力がまだ不十分であったため、全員への検査が間に合わずに遅れが目立ったところだったのである。(そんな状況のところ、担当審議官は「全員へのPCR検査ができません。」と言うべきところを「全員へのPCR検査はしません。」などと開き直ったかのような態度で記者発表をし、その情報提供の態度がひんしゅくを買ったりもした。)ただ、確かに時間は要したものの、全員へのPCR検査も完遂し(陽性者は700名以上)、少なくとも船内や搬送中での死者は出さずに3月1日に全員の下船に至ったのである。

クルーズ船の経験が、その後の国内の感染対策、新しい生活様式の実践、医療体制・感染者情報の一元化システム構築などに役立っていった。そして、その中でも最も大切な教訓は、「ケチケチせずに、全員へのPCR検査を実施」ということであったと思う。

確かに、当初は新型コロナの特徴と感染拡大の有り様が分からなかったのであろうから、「全員へのPCR検査はやりません。」などというツッパリをせざるを得なかったのであろうと同情はする。しかし、少なくとも船内や搬送中での死者は出さず、下船後も船由来のクラスターが起きなかったのは、結局、やはり全員へのPCR検査を実施したことが大きかったと思う。つまり、教訓は、サッサと「ケチケチせずに、全員へのPCR検査を実施」すれば、自然と事は成就するということなのであった。
3.検疫法の仕組みと法改正

検疫法は、一般には余り馴染みのない法律であろう。「国内に常在しない感染症の病原体が船舶又は航空機を介して国内に侵入することを防止するとともに、船舶又は航空機に関してその他の感染症の予防に必要な措置を講ずることを目的と」され(第1条)、「1類感染症」や「新型インフルエンザ等感染症」がその対象たる「検疫感染症」(第2条)とされている。新型コロナについては、「新型コロナウイルス感染症を検疫法第34条の感染症の種類として指定する等の政令」によって、いわゆる指定感染症とされ、患者や疑似症の者だけでなく無症状病原体保有者もその対象とされたのであった(検疫法第2条の2第3項をも政令で準用。その後、同法同項自体も改正されて充実)。

当然、検疫法には、入港等の禁止(第4条)、交通等の制限(第5条)、書類の提出及び呈示(第11条)、質問(第12条)、診察及び検査(第13条)、隔離(第15条)、停留(第16条)などといった定めも網羅されている。それらの定めが、感染症法や出入国管理及び難民認定法などの関連法令と一緒になって運用されているのであった。

なお、前記のクルーズ船の検疫の時には存しなかったが、その後に検疫法が改正されて、今までは隔離が医療機関への入院だけであったものが、法的位置付けが追加されて宿泊療養や自宅療養の法的根拠が明確になったのである(第16条の2)。ただ、極く稀にではあるが、検疫所長の指定した宿泊療養施設において軽症者の死亡も発生していることに鑑み、今後は宿泊療養施設への医療提供体制も充実させて行かなければならないであろう。
4.東京オリ・パラに向けた検疫体制の実施

東京オリ・パラも目前に迫っている。国内での聖火リレーも始まった。海外からの一般観客が来ないのは残念であるが、その分、入国者の総数もしぼられるので新しい厳格な検疫の運用のチャンスでもある。

各国のオリ・パラの選手・関係者のみならず、その開催期間中は全ての入国者に対しても、検査証明書や空港等検疫での全員への最初のPCR検査だけでなく、検疫所の確保する宿泊施設等で入国後3日間の待機をし、3日目〔場合によっては6日目〕にもPCR検査を再び実施する方式を追加するとよいと思う。クルーズ船検疫で得た経験と教訓を、さらに一層、東京オリ・パラにおける検疫で進化させていくことが望まれる。
〈今までの新型コロナ関連の論稿〉

Vol.047「既感染者へのワクチン接種で重篤な副反応が生じた時は禁忌者と
推定されかねない」
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Vol.031「自宅療養等も含めた行政の医療提供体制確保措置義務」
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Vol.012「感染症法の適用対象である無症状病原体保有者の存在を数多くの
PCR検査によって把握すべき」
(2021年1月19日)

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(2021年1月12日)

Vol.244「すべての医療機関に前年対比の収入減少額を補填して医療崩壊を防ぐべき」
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Vol.235「一般市民法的センスを込めてPCR検査の議論を」
(2020年11月19日)

Vol.201「新型コロナワクチンには手厚い健康被害救済と医療免責を」
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Vol.187「新型コロナ対策特措法を新型コロナ専用に新たに制定すべき」
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Vol.186「感染症法による新型コロナ過剰規制を政令改正して緩和すべき」
(2020年9月16日)

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(2020年8月12日)

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(2020年6月23日)

Vol.127「新型コロナ流行の再襲来に備えて~新型コロナ患者は「状況に応じて入院」になった」
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Vol.095「新型コロナ感染判別用にショートステイ型の「使い捨てベッド」を各地に仮設してはどうか」
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Vol.080「善きサマリア人の法~医師達の応招義務なき救命救急行為」
(2020年4月23日)

Vol.070「医療崩壊防止対策として法律を超えた支援金を拠出すべき」
(2020年4月9日)

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(2020年3月18日)

Vol.031「新型コロナウイルス感染症が不安の患者に対して応招義務はない」
(2020年2月18日)

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