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Vol.065 40代になっても「英語論文」を書き続ける医師…そのワケは?

医療ガバナンス学会 (2021年4月6日 06:00)


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この原稿は幻冬舎ゴールドオンライン(2020年12月26日配信)からの転載です。
https://gentosha-go.com/articles/-/30948

谷本哲也

2021年4月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●「40歳以上の医師こそ、英語論文に取り組むべき」

2019年5月に発売された拙著『生涯論文!忙しい臨床医でもできる英語論文アクセプトまでの道のり』(金芳堂)は、おかげさまで第3刷が決まりました。論文執筆のハウツー本はすでに数多く出版されていますが、類書には見られない特徴として拙著のなかで強調したことがあります。

それは何かというと、中高年層になっても英語論文の発表に取り組んでみてはいかがでしょうか、という提案です。

積極的に論文を書くのは、研修医や大学院生など、20代、30代の若手医師の世代が中心になるのが普通です。しかし、大学病院や研究センターなどで研究職に就いている場合は別として、筆者のように普通の臨床医で40歳も過ぎてくると、論文執筆とは縁遠くなることは珍しくありません。

その理由はさまざまあるでしょう。まず、学術機関を離れて一般の診療所や病院ではたらく立場だと、英語論文を発表しても昇給や出世に直結することはほとんどありません。日常の臨床業務をこなすだけでも結構大変なので、わざわざ論文に取り組む価値を感じない医師も少なくないと思います。

また、書きたいと思っていても、残念ながら気力体力の衰えも無視できません。論文執筆は集中力や根気がいる作業なので、若いときと同じように力技で進めるのは難しくなってきます。さらに人生の後半に入った年齢層では、自分に残された時間も考えて、論文よりも趣味や余暇を充実させたいという希望も出てくるでしょう。

当然ながら、子どもや老親の世話など、家族のためにも時間や労力を割かねばなりません。普通の中高年の臨床医にとって、論文発表の優先順位が下がってくるのは仕方がないことですし、アラフィフの私自身もそのことは常々感じています。
●英語論文が「最強の生涯学習」になるワケ

それではなぜ私は、中高年になっても論文を書こう、という逆張りの提案をあえてしているのでしょうか?

一つには、英語論文に取り組もうとすること自体が、生涯学習の最強の方法になることが挙げられます。いうまでもなく医療技術は日進月歩ですから、中高年医師の生涯学習は重要な課題です。もちろん、国内の講演会や学会に参加したり、日本語の医学書や医学雑誌を読んだりするのも、臨床医の勉強方法として有益です。ただし、日本語の情報ばかりでは、世界の潮流が見えてこない可能性があります。

それではニューイングランド医学誌(NEJM)やランセットなどの英文誌を読めばいいのでは、となるでしょうが、それだけでは不十分だと私は考えています。母国語でない情報を取り入れるのは、多少英語が得意でもかなりのハンデを背負っています。ただ漫然と英語を読んでいるだけでは、受け身になって表面的な理解にとどまり、興味も長くは続かず身になりません。

また、医学・医療に関する自分の意見や見解を手軽に世間に発表する手段として、ツイッターやフェイスブック、ブログなどでの発信に取り組んでおられる医師も最近では少なくありません。しかしそれだけでは、意見の質や水準を必ずしも担保できませんし、独りよがりな内容に陥ってしまう危険性もあります。その主な読者も仲間内に限られてしまいます。

そこで能動的に情報を取り入れ、積極的に最新の医学情報に関わり、かつ、品質が保証された発信を広く世界に向けて行う手段として、英語論文の執筆が出てくるわけです。

英語論文を発表するためには、まず最新の医学水準を押さえる必要があります。さらに発表するに足るテーマを見つけ、根拠と論理を持った知見や主張を考えなければなりません。それを一定の構造を持った文章にまとめ、海外の専門家にも通用する形に仕上げます。その内容が一定以上の水準をクリアすることで、初めて英語論文を発表することが可能となります。

学会に参加したり気軽にツイッターでつぶやいたりするのとは、一段違った労力が必要になるわけです。けれども、まさにそのようなプロセスを経るからこそ、英語論文の発表は絶好の生涯学習の機会になりうるのです。
●専門分野や国境を越えたソーシャル・キャピタルを形成

英語論文に取り組むことのもう一つの効用は、ソーシャル・キャピタル、すなわち社会関係資本の形成にも役立つ面があることです。ご存知のように、英語の医学論文は著者が自分一人だけ、ということは珍しく、通常は複数の著者がグループになって執筆します。そのグループは、大学の医局や研究室をベースにするのがよくある形です。

しかし、私の場合は、共通の課題を見つけることができて論文に興味がある方であれば、共著者として幅広く一緒にやる方針としています。専門分野や所属にこだわらず、臨床医だけでなく学生や看護師など、いろいろな方に参加していただいています。時には、中国やネパールなど海外の専門家と一緒に論文を書くこともあります。

そのベースとなっているのが、週1回の医療ガバナンス研究所内で行っている勉強会です。通称、「谷本勉強会」と呼ばれています。

勉強会といっても、一日の診療業務が終わった夜に数人で2時間集まる程度の、こじんまりとした形です。本業が忙しい人が多いので自由参加としており、誰も集まらないことも珍しくありません。そのためリアルで集まる勉強会の他に、数十人のSNSのグループをFacebookメッセンジャーで作っています。メッセンジャー上では、最新の論文の紹介や意見交換、推敲原稿のやりとりを時間があれば随時行っています。

大した活動ではありませんが、それでも、かれこれ10年近く続けています。そのおかげで、専門分野や所属施設、年代や国境を超えた人間関係を形成するのに大変役立っています。もし英語論文の勉強会をせず、日常の臨床業務だけやっていたら、私の社会関係はずっと狭いものになっていたでしょう。英語論文の執筆を通じてできた勉強会の仲間が、私の重要なソーシャル・キャピタルになっているのです。

論文を書くのは、医学部教授とか研究者など一部の人たちだけが行うことではありません。一般の臨床医も含め、もっと多くの人が論文を書くべきです。野球やサッカーがトッププロ選手のものだけでなく、近所の素人や子どもまでプレーし裾野が広がることでレベルが向上するのと同じでしょう。私の活動の詳細は『生涯論文!』に記しましたので、ぜひお読みいただければと存じます。

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