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Vol.074 裁判を戦う意味

医療ガバナンス学会 (2021年4月20日 06:00)


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医師
井手節雄

2021年4月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は、イーライ・リリー社と薬害裁判を戦う中で、裁判することの意味が変わっていきました。ビッグファーマと戦うに当たり、最初のうち私を支えたものは副作用を隠蔽しようとするイーライ・リリー社と日本新薬株式会社の不条理に対する怒りでした。

しかし、裁判を戦う中で、一部の人間の欲望にかき回されている医療の現況に気付くことになりました。これでは日本の医療が駄目になる。50年平凡な医師として生きてきた私にできることは何かを考えるようになりました。

私の薬害裁判が公になり、患者の犠牲を無視して「利益追求に走る」薬品メーカーの実態をみんなに知ってもらうことが、正しい医療の在り方をみんなが考える糸口になるのではないだろうかと思うようになりました。
医療に貢献するために医学の道を志す若者、使命感を持って日夜患者のために頑張っている医師は沢山います。
誠実で真摯な医療を守っていきたい。このことが裁判を戦う気力になって行きました。

私の排尿障害治療薬ザルティア(タダラフィル)による副作用は、薬を服用し始めて1年くらいしてから脳貧血発作という形で発症しました。その後、血圧低下(30~40mmHg)と起立性低血圧の後遺症が残りました。
血圧低下によって組織の酸素不足が生じ、易疲労性、倦怠感など体調不良に悩まされることになりました。
タダラフィルの薬理作用によって“血管平滑筋の廃用性萎縮が起こり血管平滑筋がリストラ”されてしまうことが原因の副作用でした。

私は、製造元の日本イーライ・リリー社と、販売会社の日本新薬株式に排尿障害治療薬ザルティア(タダラフィル)の副作用の危険性について詳しく報告しました。(2019年5月より日本新薬株式会社が製造販売しています)
しかし、副作用報告に対する両社の対応はのらりくらりしたもので、真剣さの感じられないものでした。「アメリカのリリー本社で情報収集中!」の回答が繰り返されました。
副作用報告から半年たって、やっと、イーライ・リリー社の回答がありましたが実にいい加減なものでした。
それっきり副作用の件についての対応もなく、うやむやにしてしまおうとする意図を感じました。
話し合いも打ち切られ、私が取りうる手段は裁判しか有りませんでした。私は今までの人生で裁判などには全く無縁の人間でした。しかし、“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”という前代未聞の副作用に気付きながら口を噤んでしまったら人として、医師として死ぬまで後悔すると思いました。

薬害裁判を通じて嫌というほど見せつけられたのは、イーライ・リリー社の製薬会社としての倫理の欠如でした。私が訴えた副作用は、その薬の薬理作用によって引き起こされる副作用であって、メカニズムベースの副作用といわれるものです。この薬を製造しているイーライ・リリー社は当然、起こりうることを知っている副作用でした。

しかし、イーライ・リリー社の取った態度は、副作用の事実を争うという裁判ではなくて、言いがかり、誤誘導、詭弁、嘘、難癖、挑発などあらゆる裁判テクニックを弄して原告の説明責任を追及し、副作用の事実を隠蔽しようとするものでした。

裁判官の誤誘導を図り、裁判さえ冒涜するものでした。イーライ・リリー社の裁判準備書面には嘘が並べ立てられ、裁判に勝ちさえすれば何でもありというもので、患者の副作用被害を慮る気持ちなどはひとかけらも感じることはできませんでした。

裁判を戦う中で、製薬会社の莫大な利益、意図して作り上げられる年商1000億円以上というブロックバスター(超大型商品)、製薬マネーがもたらす「副作用の隠蔽」という医療の汚染に気付くことになりました。

製薬マネーに蝕まれる医療に大きな危機感を抱きました。「薬は患者のためにある」という薬に対する私の信頼は、妄想といえるぐらい現実とは大きくかけ離れたものだったということに気付かされました。

製薬会社は「利益の追求のためにだけ」薬を作っているという事実を突きつけられました。
薬の副作用の危険性を無視し、利益追求に走る薬品メーカーの態度に震撼させられるものを覚えました。

タダラフィルの副作用は生命にかかわる重大な薬害です。タダラフィルはアドシルカという商品名で、難病の肺動脈性肺高血圧症(PAH)の患者さんに使われています。タダラフィルの副作用の血圧低下はPAHの患者さんにとっては突然死、右心不全に繋がり、アドシルカはPAHにとってはむしろ絶対禁忌と言える薬です。
肺高血圧症治療ガイドラインの作成にあたっている指導的な立場の医師にアドシルカの副作用の危険性を訴え、患者を守るための善処をお願いしましたが十数人の医師の誰からも返事はありませんでした。

そういうところでワセダクロニクルが作成した製薬マネーのデータベースの存在を知りました。
製薬マネーが横行し、一部の指導的な立場にある医師が講演料、顧問料という名目で年間、数百万から数千万というお金を製薬会社から貰い、商品の販売促進活動に加担している姿に唖然としました。
私自身、医師であることが恥ずかしくなるような製薬マネーの横行がありました。
何の効果もない薬が副作用をまき散らしながらブロックバスターに仕立て上げられ、世界中で売りまくられ副作用被害が表ざたにならない仕組み、製薬業界にはまさにパンドラの箱がありました。
研究者により、うつ病の薬のSSRIの危険性が問題にされる中で「うつは心の風邪」というキャッチコピーに乗って、自殺の増加の危険性を無視して“SSRI旋風”を巻き起こしながら売りまくられた「うつ病の薬のSSRI」にはかねてからやり場のない怒りを感じていました。

裁判を戦う中でワセダクロニクルの存在を知ったわけですが、ワセダクロニクルはフリーのジャーナリストやジャーナリストを志す早稲田の学生によって結成された探査ジャーナリズムです。
ワセダクロニクルの存在に、製薬マネーから医療を守る若者の心意気を感じました。「日本はまだ腐っていない!」ワセダクロニクルの若者の姿に清々しさを感じました。
上昌広先生とワセダクロニクルによって製薬マネーのデータベースが作られました。医師が製薬会社から貰っている製薬マネーの実際を一般の人が簡単に知ることが可能になり、闇営業に精を出す医師の行動にブレーキが掛かることが期待され、製薬マネーによる医療の汚染を防ぐことになります。
ドイツにおける製薬マネーのデータベースはFinde Dienen Arzt.(あなたのお医者さんを見つけよう)という名前だそうです。
「あなたのお医者さんの製薬マネーをチェックしてください。そして、あなたのためのお医者さんを見つけましょう。」

私の裁判は、いよいよ鑑定に入ることになりました。裁判においてはイーライ・リリー社の執拗でのらりくらりした裁判戦術に対して、原告としての説明責任を果たし堂々と渡り合うことは出来ました。
しかし、鑑定になった場合、鑑定人に私の主張する副作用のメカニズムを理解していただけるか不安があります。
日本で真剣に副作用問題に取り組んでいただけるのは上昌広先生しか思い当たりませんでした。20000字を超す長いお手紙を差し上げました。直ぐに対応していただいたことに心から感謝しています。
年寄りの田舎医者ですが、この薬害裁判は医師としての50年の人生の総決算と思っています。健全な日本の医療のために皆様のお力を貸していただけることを心からお願い致します。

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