最新記事一覧

Vol.084 コロナ禍、その対処方法の誤り 4-1

医療ガバナンス学会 (2021年5月6日 06:00)


■ 関連タグ

一般社団法人医療法務研究協会
副理事長 平田二朗

2021年5月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

昨年7月27日私はMRICに「前年度の診療報酬対比での収入減少額をそのまま医療機関に補償すべき」というタイトルで投稿させていただいた。その時に指摘した新型コロナウイルス感染症対策の問題点や、そのまま進めば医療崩壊と国民の医療を守るべき様々な組織が機能しなくなるという懸念を表明した。そして現在、危惧していたことが現実となっている。医療法務研究協会は医療制度にかかわる法的な問題を検討・研究する組織であるが、対象である医療体制が崩壊の危機を迎えようとしている現在、医療界の危機として考え、個人として提言させていただく。かなり長文となるので4回に分割した。

1.コロナ発生の原因

歴史的には疫病や自然災害はあらゆる時代に発生している。その都度何らかの方法で乗り越えたり、終息をむかえたりして今日に至っているが、現在の疫病や自然災害は世界的な規模でかつ根源的な打撃を与える事態である。社会制度が封建制度や専制君主制度、資本主義や社会主義などの歴史的変遷を経て今日の世界は「市場原理主義」「新自由主義経済」が制度の根幹をなしている。国により背景にあるものが資本主義であったり専制支配的な社会主義であったりしているが、根源的には「市場原理主義」と「新自由主義」がグローバルな形で支配している世界である。世界的規模で「富める者はますます富み」「貧困者はますます貧困に」陥り、富や財産の集中が極端に行われている。富を生み出す自然資産が世界的にそれも急激に削り取られ、地球温暖化に伴う自然災害、疫病の蔓延がいつでもどこでも発生する事態となった。10年ほど前は大災害があると50年に一度とか100年に一度とかいう形容詞がついていたが、現在は毎年それも1年内にたびたび発生する事態となった。
2.コロナ対策の担当者

まずは専門家である厚生労働省健康局結核感染症課と公衆衛生を担う官僚たちがあげられる。大くくりでいうと医系官僚(技官)である。言い方は悪いが官庁街にあって二流官庁である厚生労働省のそのまた二流である医系官僚が今回の対処方針を立てる専門部門である。新規ウイルス感染症対策について、基本施策を考えうる部門はこれ以外にはない。この医系官僚たちは新型コロナ感染症に対応するために、OBや感染症や公衆衛生の仲間たちを呼び寄せ「専門家」集団を形成した。医学会では日頃注目されることもない感染症の学者たちと国立感染症研究所や感染症指定病院のメンバーたちが入った集団が出来上がった。

彼らのこれまでの経験は、この20年ではサーズやマーズ、新型インフルエンザ対策と院内感染対策が主体で、それぞれが国を揺るがすほどの大事件ではなかった。そのため今回のコロナによるパンデミックの事態に対して、一定の予測と準備をしていた訳ではない。

国内の医療や公衆衛生の分野で感染症が国の根幹を揺るがすほどの事態になった場合でも、対応できる体制など構築されてきていないし、政府・厚生労働省は医療費抑制の一環として感染症や公衆衛生の分野も一般医療と同様に削減と抑制の対象にしてきていた。この30年以上のあいだ医療費の増大に対して「医療費亡国論」なる考えでもって強烈な医療費抑制政策を取ってきた。歴代の官僚と政権の基本政策であった。

これらの背景のもと抑制され続けてきた感染症や公衆衛生部門が、今回の新型コロナ感染症対策の担当部門となった。

医系官僚が支配する部門にはこれ以外で健康局の他部門や医薬・生活衛生局(PMDAを管轄している)、医政局などがあげられる。なお内閣府の中にも同様の部門がある。
3.政治と経済と政権

2011年東北で発生した東日本大震災時の政権は民主党政権であったが、震災当時や震災後の対処の仕方が国民の不興を買い、かつ最後の首相は財務省の薫陶よろしく消費税増税に向けて自民党と手を組む手段を選び、自己崩壊した。2012年安倍政権が誕生し日銀と一体化した金融経済政策を基本にし、実体経済が向上しているわけでもないのに、見かけでは好況を維持してきた。貨幣の供給量を極端に増大させ、富の集中を容易にし、一般国民の実質所得は変わらないか減り続けるのに、大企業や資産家には富が集中する事態となった。

これは日本だけの問題ではない。新自由主義経済と市場原理主義が世界中に蔓延し、社会主義と称する国々もこれを基調に経済に取り組んできた。この原理は、世界から国境をなくし富や労働力、資源を効率のいい形で流動化させ集約し、「富める者はより富み」「貧しきものはより貧しく」なる仕組みをほぼ完成させた。

現在の政権が「まずは自助努力、次に共助、最後に公助」と言っているが、その考えの根幹には「市場原理」がある。政治と経済が「市場原理」と「新自由主義経済」を原則にしながら動き始めて30年近くになるが、歴代のどの政権もこの呪縛から逃れることが出来ずに今日に至っている。この流れの中で自然災害やパンデミックが続発し始めた。

グローバルに金と労働力と資源と商品の移動の「自由」を展開してきた結果であり、何が原因であるか誰でも想像できる。社会主義を標榜する中国の「武漢」から発生したという今回のパンデミックは、経済の在り方を象徴する事例として歴史に名を遺すであろう。発生とともにまたたく間に世界中を駆け巡り、いまだにガバナンスが効かない状況が続いている。

ただ、この新型コロナウイルスの感染に対する対処方針は国によって違う。また、世界における地域や人種の違いにより、感染の態様にも違いがある。新型コロナに対応する日本の政権は当然ではあるが、医学医療とは無縁であり素人の政権である。ただ官僚機構の人事権はもっているので、誰をどう使うのかでその管理能力が問われていた。
4.基本戦略の間違い

もともとパンデミックに対応できるだけの能力のない感染症専門の官僚機構と専門家たちに全体の戦略を任せてしまったことが誤りの始まりであった。彼らとてパンデミックに対応したことがないのである。まことしやかに水際作戦だの感染防御方法だのと手立てを打ち始めたが、もともとパンデミックに対応する体制もノウハウもない集団である。彼らは彼らなりに自分たちが対処できる体制で臨んだ。それは過去の経験によるサーズやマーズ、新型インフルエンザ、院内感染対策の域を超えていない。それ以上の手立てについては経験もノウハウもない。

その体制たるや保健所と衛生研究所と感染症指定病院が予防・診断・治療の主体のごく限られた体制でこの未曾有の感染症に挑んだ。また彼らを応援する部隊としてOBを中心とする感染症専門学者が世論形成に組織された。マスコミはほとんど、どの時期でもこの学者たちの宣伝扇動を鵜呑みにして発信し、科学的で透明性のある、国民が理解し納得させる報道とは程遠い状況を生み出した。

感染症専門家たちは初期の段階では欧米と比較してかなり少ない発症者数と死亡者数を自らの手柄のように発信したが、台湾や韓国などの東アジアと比較されるようになると、無策に近い対策が浮き彫りになりかえって墓穴を掘るようなことになった。もっぱら欧米との比較が報道の主体となった。

基本戦略は彼らが管理できるとした「クラスター対策」を基本とする仕組みづくりとした。幸いにも東アジアでは欧米と比較して発症者数が少なく、死亡者数も同様であったので、この矮小化した「クラスター対策」を基本にすれば新型コロナ感染症を抑え込むことが出来ると、この集団(感染症村と呼ぶ人もいる)の人たちは力説した。国民の皆さんは、感染したかもしれないという疑いや不安を持っても、陽性患者の濃厚接触者や37度5分以上の熱が4日間続かないとPCR検査さえ受けさせてもらえなかった。マスコミは感染症村の人たちと一緒になって、国民向けにこのことをプロパガンダし続けた。いまだにこの基本姿勢は感染症村の人たちは変えようとしない。訳の分からない素人の政治家や評論家たちで、これに同調する人たちがいまだに数多くいるのも奇妙な現象である。感染経路が追えない市中感染者が増大しても公費で出来るPCR検査は当初のままである。無謬性を取り続ける意図はどこにあるのだろうか?現実は破綻し続けていながら、いつまでも自分たちの権限と管理統制のもとに置こうとしている。感染症指定病院の体制はパンデミックが発生してすぐに破綻した。

もともと公立病院では、感染症対応病棟並びに病床のスタッフは他部門に回されているような実態であった。感染症であるから病院の病床管理は当然専用のものとなるが、症例がない状況では医師もスタッフも施設も無用のものであった。

ところが、にわかに今回の新型コロナウイルス感染症治療が注目される事態となった。検査体制ではPCR検査を自分たちの都合と想定不足のため、現実無視の限定的な体制で臨み、診断治療体制については感染症指定病院や医療機関で乗り切ろうとしたが、診断治療体制についてはすぐに破綻した。PCR検査は「クラスター対策」中心にやるとか強弁して、もともとできない体制を隠蔽してきただけだったが、さすがに診断治療体制の破綻についてはごまかしがきかない。一般の臨床医たちは当然指定病院の専門家たちが対処するものと考え、対処方法が未経験で専門性もないので、傍観していた。しかし、新型コロナ感染症対策はとっくに破綻していた。

国家的に想定し準備していた台湾や韓国の体制と比較すると、まるで話にならない事態となった。それでも感染症村の人たちは誤りを認めようとしない。日本の感染症対策は現実的にはとっくに破綻している。なぜここまでかたくなで現実とは遊離した体制を取り続けたのであろうか?それは前述したようにこれまでの感染症対策部門と公衆衛生部門へのリストラ策に対する対抗心と、感染症専門家たちの一般医療部門に渡したくない「症例独占権」、それから国や医療界を自らの統制管理のもとに置きたいという医系官僚の願望のなせる業であろう。「国益より省益を優先」するどころではない、医系官僚益を最優先させてきた結果である。パンデミック第一波を経験した時点で、自らの力では手に負えなくなっている事態なのに、台湾や韓国のように国家的かつ全体を組織的に動かす方向にかじを取ろうとしなかった。折角つかんだ権益を手放したくなかったのであろうか?その後は誰もが承知している後手後手の事態の連続である。

これに加えて政治や政権の動きがより問題を複雑にしている。

つづく

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ