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Vol.085 コロナ禍、その対処方法の誤り 4-2

医療ガバナンス学会 (2021年5月6日 15:00)


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一般社団法人医療法務研究協会
副理事長 平田二朗

2021年5月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

5.政権の動き

現在の政権は安倍政権の時代から官僚人事で行政を動かしてきた。時代をにぎわしてきた官僚の「忖度」による数々の事件も、民主党の政権時代があまりにもお粗末だったおかげで、自民党の一強支配を揺るがすほどにはならなかった。政権の根幹は経済政策にあり、「市場原理」と「新自由主義経済」を根幹にして湯水のように貨幣を市中に流し、見せかけの「好況」を作り出した。実体経済等とは遊離した「バブル経済」とでも呼ぶべきかもしれない。

しかし、官僚支配が徹底している政権でも、今回の新型コロナウイルスでの官僚の使い方が分からなかったようだ。出身官庁である経済産業省や総務省、国土交通省、警察庁出身者が政権を支える補佐官の役割を果たしてきたが、厚生労働省はこの主要ポストには入っていない。ましてや今回の新型コロナ感染症で内閣府で目立った旗振り役をしていたスキャンダルで週刊誌ネタになった女性官僚と、安部首相がほぼ毎日のように打ち合わせしていた新型コロナ感染症対策の医系官僚トップの医務技監は、感染症村の代弁者でしかなかった。

政権が信頼する官僚は感染症村と同類の人たちであった。

感染症村の人たちからすると、政権トップもマスコミを通じた世論も自分たちの組み立てで動かすことが出来るという、これ以上がない自己顕示欲の満足を得ることができた。

しかし、政権としてもいいなりになってばかりではなかった。ごく初期ではインバウンドを壊さないこと。次は2020年に東京でオリンピックを開催すること。そして中国の習近平氏を国賓として迎えること。これらが主要命題であったが感染症の蔓延でどれもこれも破綻してしまった。

素人なので、緊急事態宣言の発出でなんとか乗り切れるのではと踏んでいたが、夏場に感染拡大第二波が到来し、第三波が予測できる状況にある中で、安部首相は政権から降りた。この間感染症村の対応で、言っていることと現実がどんどん乖離し、経済への深刻な打撃が増してきた。

5月には総理大臣が自ら「5月中にはアビガンを供給します」と述べたにもかかわらず、厚生労働省の医系官僚(種類が違うがPMDA部門)が承認を下ろさず、総理大臣に恥をかかせている。もともと承認できない製品ならなぜ最初からそういう風にレクチャーしなかったのか、不思議である。

ただ、政権としては新型コロナに関する国民の命と健康に関する問題を経済問題に対置させる二律背反的な対応に終始している。これは「市場原理主義」を政権運営の背景とする立場からすれば、パンデミックの事態は「市場原理」に歯向かう傾向としか見えないようだ。2020年4月の緊急事態宣言解除以降は経済か感染症対策かという対立図式で終始する。経済も政治も本来「経世済民」であるべきであり、そのことに異論を唱える人はいない。

しかし、「市場原理主義」と「新自由主義経済」は国民の命と健康を守る行動と対置させる。新型コロナウイルスの蔓延によって「医療崩壊」が現実となっている事態であるのに、菅首相は医療の自助努力と受益者負担を増加させる75歳以上の患者負担を増額させ、かつ医療費抑制政策のために薬価改定を毎年度実施することを決定し実行に移した。社会保障費や医療費が増大することは容認できないらしい。何とか経済主導で事態を打開したいと思っているが、パンデミックの事態を打開する方法が見いだせない。もともと感染症村の人たちが作り出した新型コロナウイルス対策の基本戦略に代わるものを用意できないから、彼らに引きずり回される状況が続く。

医療の第一線の現場もそうである。感染症村に引きずり回され、一般医療まで壊された。
診療体制が、自宅待機や宿泊施設待機者も含めて医療管理者や医療経営者の判断にゆだねられれば、現実的な体制となり、他の医療体制を壊すこともなかった。

挙句に診療収入減や患者減を余儀なくされ、「崩壊」の道をたどることとなった。新型コロナ感染症の診断治療の方法や体制をそれぞれの病院の管理部門や経営部門に任せ、症状に合わせた彼らの行動を保証し、地域で無症状者のケアを含めた管理体制をつくれば、何とか「崩壊」せずに済んだはずなのに、感染症村が「感染症対応最優先」というドグマを作り上げ、他部門や医療経営に配慮することなく、マスコミや政権を巻き込んで貫き通してきた。現在もその構図は変わらない。政治経済政策の原理がパンデミックを生み出した原因でもあるのに、それを変更することを考えることはできないようだ。日本が生み出した世界的な経済学者の宇沢弘文先生の「社会的共通資本」の考えを採用すべきだと考える。政権運営の誤りである。
6.医療界の動き

医療界は30年来、厚生労働省と財務省が主体となって誘導し続けてきた社会保障費抑制と医療費抑制の動きに翻弄されてきた。

かの有名な吉村保険局長の「医療費亡国論」に端を発し、社会保障費や医療保険制度が国を亡ぼす犯罪者扱いとされてきた。老人医療費の無料制度を廃止することから始まり、増え続ける薬剤費対策として医薬分業制度の導入、「受益者負担」という名目で患者自己負担料を年々増加させ、健康保険料の負担増加、受診抑制政策の強化、医療機関の機能別編成と患者のフリーアクセスの抑制、診療報酬を抑制し、薬価を大幅に切り下げ薬価差益をなくし、加えて介護保険制度を導入し老人医療を基本的に健康保険制度から排除してきた。診療報酬支払制度も出来高払い制度から包括払い制度も導入した体制とし、医療費抑制政策を強力に推進し続けてきている。

また、行政主導の医療界支配を補完する役割として、日本医師会はそのお先棒を担ぐ形となった。

「市場原理」「受益者負担」「医療費抑制」という荒波に、日本医師会は政権や官僚とマスコミに誘導された「世論」の前に完全に白旗を振り続け、場合によっては行政の医療監視や監査、個別指導、適時調査などの作業で第一線を担う医師たちを官僚と一緒になって攻撃してきた。

プライマリケアを担う医師たちは、本来患者の命と健康を守るために使命感を持って対応する。その対応の対価として国は診療報酬を支払う。

医師の裁量権は患者の生命と健康を守ることを大前提としている限り、最大限に尊重されなければいけない。しかし、政権や官僚やマスコミ及び経済界は、このことを経済の下僕となるよう要求した。そして、信じ込んで強力に推進してきた。

30数年来の努力の結果、医療体制は効率的でまったく無駄のない体制となった。現場の医師たちは医師会までが厚生労働省と一緒になって、彼らが要求する「萎縮医療」「適正医療」の前に従順に従うしかない状況となった。ということは医療における不測の事態には対応できない体制となったことを意味する。ましてや今回のパンデミック対策を主導しているのは現場を知らない、医療経営を知らない官僚と感染症村の人たちである。これまでの余裕や余力のない医療体制で新型感染症対策を実施しようにも、現場の司令塔となる感染症村の人たちは自分たちの権益を守る立場から発信し、末端の医療現場と医療経営が破綻しても、それを理解する能力もない。これまで営々と築き上げられてきた医療保険制度では、施設体系も人的体制も技術的体制も効率的に仕上げられており、他の用途に転用することは医療保険制度や診療報酬制度を大幅に転換しなければ実現などできない。
医療費抑制政策の下、受診抑制と受益者負担と診療報酬の切り下げ、官僚統制と効率的な医療体制という名目で様々な切り口から徹底したリストラを断行してきたのは医系官僚と厚生労働省と財務省のキャリア官僚である。新型コロナウイルスに対応する治療施設の体系などは、ごく少数の「感染症指定病院」にしか準備されておらず、その他の治療施設は癌や循環器、脳外科、消化器科、外科、整形外科、小児科などの診療科と急性期と回復期、療養期病床など細かく用途別に施設や人員基準を定めた内容でしか運用できなくしてきたのは、厚生労働省である。

最近になって「民間病院がコロナ患者の入院治療の協力をしない」などとのキャンペーンが張られたり、「コロナ感染症に合わせた地域での診療機能の再編成を」とさけぶ政治家が現れたりしている。しかし現実は、民間病院ではコロナ患者を受け入れる体制を取ろうとすると、医療経営が破綻することは目に見えている。公私立大学病院や国立病院、公立病院、公的病院などが結構受け入れているが、これらは赤字であっても経営が破綻することもなく、破綻したところで誰も責任を取らないでいい仕組みになっているために受け入れ可能となった。それでも現場は崩壊してしまっている。コロナを受け入れている病院の従事者というだけで、職員本人だけでなく家族までもが地域から差別を受け、そのうえ病院が赤字だからと賞与がカットされている。
私立の東京女子医科大学では新型コロナウイルス感染症患者受け入れにともなう大幅赤字のため2020年夏の賞与を大幅カットするという事態の中で、看護職を中心に大量の離職者を生み出した。この事態に対して感染症村の人たちや医系官僚の人たちは少しばかりの助成金で済むと考えたようだ。

しかしその後の第三波の感染症蔓延の事態に日本医師会長は「医療崩壊」だと表明した。

現場を知らず現実を知らない感染症村の人たちが医療現場を引きずり回した結果、医療機関も一般医療も崩壊の危機に引き込んだ。もともと自分たちが作り上げてきた医療保険体制が、現場でどのように作用しているか知りもせず、感染症だけを優先した体制を現場に求めれば、現場が壊れるのは自明のことである。中途半端な理解力しかない政治家たちには、機能別の病院再編成をすればそれで事足りるような主張をしている人たちもいる。

現在の医療体制は、財務省と厚生労働省が三十数年かかって硬直したまったく無駄のない効率的な医療提供体制を構築してきた結果である。

その現実を見据えて改善策を考えなければ、空理空論にエネルギーを費やしている時間はない。いま医療現場は本来担うべき医療全体の責任を放棄させられ、新型コロナウイルスに偏った診療を余儀なくされ、かつ風評被害と受診自粛のおかげで深刻な経営危機に見舞われている。

「施設と人員と技術」を現在の日本国内にある医療資源をどのように適切に再配分するのか、医療界と社会全体で再構築しなければならない。

本来このことを提案すべきは官僚機構の人々である。その官僚があまりにもお粗末すぎた。民間医療の主要団体である日本医師会も同様である。

日本医師会と感染症村の人たちは、第四波を迎えようとしているこの時期に一緒になって有効な対策案を出せないのに、国民に自粛を訴えるだけで、あとは権力を使ってどう取り締まるかという議論に終始している。感染症が増えるのは「自粛しない国民が悪い」かのような表現までしている。いまだにPCR検査体制を含め感染症村中心で対応しようとし、医療界全体の資源を使い、社会全体で体制構築をしようとはしない。そして感染症村の人たち自身が疲弊し対応不能の状態となっている。過労死防止を呼び掛ける厚生労働省の新型コロナ対策推進室の人々がいつ過労死してもおかしくない状況となっている。自分たちが権限を握って離さないために担当者たちが対応できない状態となり、結果として新型コロナ感染者たちが犠牲になっている。多分現在の状況は感染症村の人たちからすると、お手上げの状態となっているはずである。医療界と社会のリソースを全部使う体制へと変更しない限り、ワクチンを接種し終えるまで蔓延を抑止することが出来ないであろう。

医療と社会の資源の全体を使って体制を構築させないと、たとえ収束に持ち込めたとしても、第二第三の新たなパンデミックの発生に対応できない。

そういう意味では今回の新型コロナウイルスの蔓延と被害は人為的な要素が大きい。組み立て直しをしないと国を亡ぼす。吉村局長が言った「医療費亡国論」は今日の事態で言うと「厚生労働省医系官僚亡国論」であり「市場原理・新自由主義経済亡国論」である。「経世済民」の医療と経済体制にしなければ国が亡ぶ。

つづく

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