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Vol.100 変異株「医療のひっ迫」対策には大胆な物量作戦を展開すべき

医療ガバナンス学会 (2021年5月27日 06:00)


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井上法律事務所所長 弁護士
井上清成

2021年5月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1 新型コロナによる25兆円の損失

5月18日のNHKニュースによれば、「昨年度のGDP-4.6% リーマンショック超える最大の下落」との見出しで、「内閣府が18日発表した昨年度・2020年度のGDP=国内総生産は、新型コロナウイルスの影響で実質の伸び率がマイナス4・6%となり、比較可能な1995年度以降で最大の下落となりました。」とのことであった。
2019年度の実質GDPが約555兆円であったところ、2020年度は4.6%(約25兆5300億円)のマイナスで、約529兆円に減少したとのことである。
2021年度の国家予算が2020年度の103兆円より3兆円増加した106兆円であることからしても、新型コロナの威力の物凄さがわかるであろう。いわば新型コロナウイルスが国家予算の4分の1相当のGDPを食ってしまったのである。そのような中、3兆円の予算増程度で果たしてGDP25兆円の喪失を回復できるのであろうか。今年度中には、もっともっと大胆な公共投資の施策立案とその実施が求められていくように思う。
以上のように、昨年度(2020年度)の新型コロナウイルスでさえ25兆円の被害をもたらした。ところが、今年度(2021年度)の主力は、さらに感染力を増強した変異株である。イギリス型、南アフリカ型、ブラジル型が中心らしい。さらに、インドのものも加わるようでもある。
もしも変異株がさらに1年間猛威を振るえば、想像を絶する被害をもたらすことになろう。今年度こそ、変異株の脅威に負けない対策を採らねばならない。
2 変異ウイルスの特徴はその圧倒的な数量

医学・医療の専門的な知見を横に置けば、変異ウイルスの最大の社会・経済的な特徴は、その増強された感染力、平たく言えば、その圧倒的な数量であるように思う。全世界に広がるだけでなく、日本国内の津々浦々にも、満遍なくどんどん広がっていき、多少の一時的な収束はするけれども、本当の終息はなかなかしそうにない。
素直に「医療のひっ迫」への対策を考えれば、圧倒的な変異ウイルスの数量に対抗するには、やはりできる限り「医療」の物量で負けないようにすることである。可能な限り「医療」の物量を増強するのがよい。いわゆる「物量作戦」が適している。圧倒的な数量に対して、今までの「医療」のきめ細かさ・丁寧さ・巧みさ・誠実さだけで対抗してもそこには限界があろう。勤勉・節約・もったいない感・必要に応じて・無駄遣い抑制といった日本人の美徳は、むしろ今は邪魔かも知れない。
今後の変異株対策は、昨年度からは一変させて、徹底した「物量作戦」を展開していくべきであろう。

3 変異株対策用の「医療ひっ迫」特別措置

物量作戦への変換に関しては、ワクチン接種の分野で兆しが見えつつあると評してよい。たとえば、東京や大阪での「ワクチン大規模接種センター」の開設である。昨年度までの施策では目立たなかった特徴であろう。この調子で各地に同様の施設が開設されていくことが期待される。
さらには、その筋肉内注射を歯科医師が実施することもしかりである。確かに「基本的には、医師法第17条(筆者注・医業独占の定め)に違反する」と言えよう。しかし、4月26日付け厚労省医政局医事課等による事務連絡で認めたように、特設会場での実施については違法性を阻却するものと考えてよい。今後は、歯科医師と同様に、薬剤師やPA(フィジシャン・アシスタント)にもその応援参加を拡大していくべきであろう。
他の変異株対策としては、変異株の検査と病床の確保も同様に物量作戦が適切である。PCR検査とシークエンス体制の拡充整備が大量の変異株の検査のために望まれよう。また、病床の拡充整備のために、「臨時の医療施設」(新型インフル対策特措法第31条の2)の方策を活用するなどして、大量の病床を臨時措置として開設していくべきである。最後に、医療従事者への従前以上の待遇改善を欠いてはならない。
〈今までの新型コロナ関連の論稿〉

Vol.083「PCR検査・重症病床・医療補助者の異次元緩和」
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Vol.068「マスク会食義務化の持つ法的意味と感染防止対策向上のインセンティブ」
(2021年4月9日)

Vol.064「ダイヤモンド・プリンセス号の経験と教訓を踏まえ東京オリ・パラでは新しい検疫の運用をすべき」
(2021年4月5日)

Vol.047「既感染者へのワクチン接種で重篤な副反応が生じた時は禁忌者と推定されかねない」
(2021年3月8日)

Vol.031「自宅療養等も含めた行政の医療提供体制確保措置義務」
(2021年2月10日)

Vol.012「感染症法の適用対象である無症状病原体保有者の存在を数多くのPCR検査によって把握すべき」
(2021年1月19日)

Vol.006「自費PCR検査の自律的な活用と高齢者の宿泊保養システムの導入」
(2021年1月12日)

Vol.244「すべての医療機関に前年対比の収入減少額を補填して医療崩壊を防ぐべき」
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Vol.235「一般市民法的センスを込めてPCR検査の議論を」
(2020年11月19日)

Vol.201「新型コロナワクチンには手厚い健康被害救済と医療免責を」
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Vol.186「感染症法による新型コロナ過剰規制を政令改正して緩和すべき」
(2020年9月16日)

Vol.165「PCR検査は感染症法ではなく新型インフル特措法の活用によって拡充すべき」
(2020年8月12日)

Vol.147「新型インフル対策特措法を新型コロナに適するように法律改正すべき」
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Vol.131「新型コロナで院内感染しても必ずしも休診・公表しなくてもよいのではないか?」
(2020年6月23日)

Vol.127「新型コロナ流行の再襲来に備えて~新型コロナ患者は「状況に応じて入院」になった」
(2020年6月17日)

Vol.095「新型コロナ感染判別用にショートステイ型の「使い捨てベッド」を各地に仮設してはどうか」
(2020年5月8日)

Vol.080「善きサマリア人の法~医師達の応招義務なき救命救急行為」
(2020年4月23日)

Vol.070「医療崩壊防止対策として法律を超えた支援金を拠出すべき」
(2020年4月9日)

Vol.054「歴史的緊急事態の下での規制を正当化するものは助成措置である」
(2020年3月18日)

Vol.031「新型コロナウイルス感染症が不安の患者に対して応招義務はない」
(2020年2月18日)

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