医療ガバナンス学会 (2021年5月28日 06:00)
この原稿は医療タイムス(2021年4月28日)からの転載です。
NPO法人医療ガバナンス研究所内科医・研究員
山本 佳奈
2021年5月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
東京・大阪・京都・兵庫を対象に、3回目の緊急事態宣言が発令されてしまいました。
第4波ともいわれている昨今、38度を超える発熱を認める患者さんが外来に増えてきている印象がありました。また濃厚接触者としてPCR検査を希望される方も増えてきていました。
イギリスやイスラエルのようにワクチン接種を積極的に早急に実施しなければ、緊急事態宣言なるものを発令し、移動の制限や自粛を求めても、いたちごっこのような気がするのは私だけでしょうか。
新型コロナウイルス感染症が流行してからというもの、新型コロナウイルスを疑う患者さんが来ない日はありません。
私自身、PCR検査を行わない日はないにも関わらず、新型コロナウイルスワクチンをまだ接種できていない中で診療を続けていることに、そしてこのままではワクチン未接種のまま、高齢者の集団接種に参加することになってしまうと、とても不安を感じていました。しかし、ようやく4月末にワクチン接種を受けられる見通しになりました。
「ワクチン接種の予約に電話したけれど、電話がまったくつながらなかったわ…」。すでに高齢者を対象に新型コロナウイルスのワクチン接種が開始されていますが、自治体によってその対応や開始時期もまちまちなようで、滋賀県に住む祖父母は、ワクチン接種の予約すらできなかったと電話がありました。大阪に住む祖母は、やっと案内が届いたものの、予約はゴールデンウィーク明けごろになるようです。
●ワクチン接種が進むイスラエル
さて、昨年12月8日に英国で開始されたのを皮切りに、世界各国では新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいます。One World in Dataによると、4月21日時点で、イスラエルは総人口あたり62.0%の人が、少なくとも1回の接種を終えています。
イギリスは人口の48.8%(4月20日時点)、アメリカは40.2%(4月21日時点)が終えており、日本はたった1.2%(4月21日時点)です。
世界一のスピードで接種を進めているイスラエルでは、昨年から続いていたロックダウンが段階的に解除され、4月18日からは屋外でのマスクは不要となりました。1月中旬には新規感染者数が1万人を超えていましたが、4月21日時点での新規感染者数の報告は135人となっています
1月初旬に新規感染者数が6万8000人とピークを迎えたイギリスでは、昨年12月8日から新型コロナウイルスワクチン接種が開始され、4月20日時点で人口の半数弱が少なくとも1回の接種を終えています。
4月21日時点での新規感染者数は2396人とワクチン接種が進むと同時に、感染者数も激減したことが分かります。ロックダウンを段階的に解除することが発表され、4月12日からは、パブやレストランの屋外席での営業再開、衣料品や書店といった小売店やジム、美容院なども営業が再開されました。マスクなしで街中を歩いている様子も報道されています。
●オリンピック開催の再考も
一方の日本はというと、少なくとも1回接種した人の総人口あたりの割合は4月21日時点で前出のように1.2%です。接種開始も遅れをとっている上に、接種回数も圧倒的に少ない中で、首都圏に出されていた緊急事態宣言が解除されてから1カ月足らずで、再び東京や大阪、仙台を中心に感染者が拡大しているのも、当たり前の結果だといわざるを得ません。
ワクチン接種で圧倒的に遅れをとっている日本で、新型コロナウイルスの変異株が全国的に広がりを見せている今、これ以上の感染を抑え込む前にワクチン接種を順調に遂行できるとは私には思えないのです。
夏に開催を予定している東京オリンピックとパラリンピックの開催を再考すべきではないかという社説が、4月中旬にイギリス医師会雑誌(BritishMedical Journal)から公開されました。
現段階で日本は新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込めていないこと、ワクチン接種の遅れや検査能力の限界は政治的なリーダーシップの欠如に起因していること、そして、世界全体で新型コロナウイルスによるパンデミックを封じ込め、命を救う必要性があるにもかかわらず、国内の政治的・経済的な目的のために「東京2020」を開催することは、世界の健康と人間の安全保障に対する日本の責務と矛盾しているといえます。
医療従事者や高齢者以外のワクチン接種がいつになるか不透明なまま感染予防や自粛を強いるだけの対策を行うのではなく、今一度、世界各国のあらゆる対策を参考にし、国内での感染対策に反映させる必要性があると私は感じています。