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Vol. 242 今日も眠れぬ医療系システムエンジニアたち

医療ガバナンス学会 (2010年7月20日 07:00)


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帝京大学ちば総合医療センター
医療情報システム部
木村優子

2010年7月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


電子カルテが普及してどのくらいの時が経つのだろう。最初は医事会計システム、次に検査部門システム、それらを繋いだのがオーダリングシステムであった。
そしてここ数年、おそらく21世紀に入ってから電子カルテがめざましく普及してきた。平成19年に厚生労働省が医療・健康・介護・福祉分野において、情報化が進められた将来のあるべき姿「医療・健康・介護・福祉分野の情報化グランドデザイン」なるものを決定した。また日本版EHR(Electronic Health Record:電子健康記録)にも力をこめていくと。
しかし、この現状で果たして可能なのだろうか? 毎年毎年行われる診療報酬改定、平成22年度は、かなり大きな変更があったように思われる。電子カルテや今は当たり前になった。医事会計システムを導入している医療機関の担当システムエンジニア(以下SE)やメーカー側のSEはその対応で疲弊しきっているのではないだろうか・・・・。

私は今「導入される側」の立場であるが、数年前は「導入する側」の立場だった。今思い返すと改定作業も大変だが「新規導入」はもっと大変だったように思われる。オーダ項目はきちんと足りているのか?医事にはきちんと会計情報が飛んでいるのか?操作訓練は?マニュアルは?「その病院の運用をきちんと把握しながらシステムとすり合わせる」ことはできているのか?もう大変である。病院スタッフの方たちとの知識の深さは雲泥の差である。
しかしそれを嘆いている余裕などない(私は幸か不幸か某病院の医事課に勤めていた経験があり、窓口業務からレセプト点検まで経験していたので何とかなったが)。お互いが経験や知識を共有し、フル活用して日々成長していくのである。病院側は「この仕事をしているのだから知っていて当然」と色々なことを、当たり前のように言ってくるものだから休んでいる暇などなかった。
また「SE時間」なる俗語もあった。本来は昼間の明るいうちにサクサクと仕事を進めたいのだが相手が病院ということもあり、打合せや検証作業が夕がたから始まるのだ。夜な夜な青白い顔をしたSEが院内をうろつくのを目にした方も多いと思う。当時私たちには「焼肉部」というものがあり、22時ころに焼肉屋にくり出し食べ終わるとまた病院に戻り仕事をするという生活を送っていた。

あれから数年たった。今は「導入される側」の立場になっている。立ち位置が変わると見えてくるものも違うことに気付いた。

メーカー側は自分たちこそ「真実」であるかのように製品を導入してくる。
だがそれを信じきる訳にはいかず様々な事を想定して「確認」するのである(自分たちもかつてそうであったのかと思うと赤面する思いである)。しかしそう考えると大変さは今も昔も変わっていないのか?と思い苦笑する。

話は少々ずれたが、「導入する側・される側」の現場は今回の「22年度DPC(診断群分類)様式1の変更」に振り回された。
厚労省から、6月10日に一度目の変更点が出された。しかしこの時点では「案」であったためメーカーは対応していなかった(それもそうである。着手したものの「案」で終わったら採算が取れないのだから)。次の変更点が翌日の11日。病院は「対応はまだか、まだか」と急かすが、「決定ではないのでまだパッケージ(PKG、開発元)からの回答はありません」との現場SEからの切ない回答。14日にもまた変更点がでた。今回の変更内容には医師、看護師、事務が足並みを揃えなければならない。なぜならば、病院の運用が絡んでくるからである。しかし画面イメージも何もないところで話などできない。イライラが募ってくる。だが現場SEに文句を言っても何も変わらない。ただ、じっと待つしかないのである。
そして6月21日(月)に「対応概要が通知されましたのでご連絡致します」という連絡がきた。しかし末尾に「開発元からの修正資源の提供時期は今月中となっておりますが、明確になっていないため、別途ご連絡させていただきます。」という文面で締められていた。
次にメールがきたのが6月24日、時間は0時をまわっていた。「たった今PKGより、2010年7月のDPC調査項目変更について情報を入手しましたので取りいそぎ報告させて頂きます。画面イメージを入手しましたので提示させて頂きます」。現場SEは必死に頑張っている。こんな時間でもとにかく知り得た情報を伝えなくてはと思い連絡をくれたのである。そして対応日が6月28日と30日と決定された。
しかし6月24日に、またもや変更点が厚生労働省から出されたのである。もう間に合うわけもなく24日分は7月対応とした。(更に7月5日にも変更点が出され厚生労働省の実施説明資料には6/10青字、6/11赤字、6/14緑字、6/24紫字となっている。次は何色だろうと楽しみを見つけてしまった)

この件でもわかるように現場は本当に疲労困憊である。コロコロ変わる診療報酬や今回のようないつまでもはっきりしない改定。振り回されっぱなしである。
また違う問題も浮き出てくる。人材不足である。深夜まで働き次の日も元気に仕事が出来る人間が必要だ。そうなるとやはり若いことが必要となってくるが、若いゆえに知識や経験が少なく「元気」だけが取り柄になってしまう場合もある。だがもはや「企業努力」だけで解決できる問題ではなくなっているのではないか? 国が「医療」を成長産業とするならば、何らかの講習や勉強会を開催すべきではないかと思えてくる。

なにはともあれ、導入する側もされる側も、何が正しくて正しくないのかさえ分からなくなる時がある。冷静さを失いかける時もある・・・。
決して表に出ないし光も当たらない、存在さえ知らない人たちも多いだろう。けれども決して投げ出す事はしないだろう。なんの魅力があるのか未だわからないが、続けてみようと思っている今日この頃である。

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