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Vol.131 「会食で感染の危険性が高いこと、特に飲酒を伴う場合のほうがリスクが高いと確認された」は本当か?

医療ガバナンス学会 (2021年7月12日 06:00)


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内科医
和田眞紀夫

2021年7月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

報道によると、新型コロナウイルスの感染リスクについて、国立感染症研究所の鈴木基感染症疫学センター長らのグループが分析を行って、その結果を専門家会合で示したとのことだ。彼らは、発熱外来などを受診して検査を受けた284人について、発症前2週間の行動をアンケート調査し、感染していたかどうかの検査結果とあわせて詳しく分析した。その結果「酒の出る3人以上の会食に2回以上参加していた人」は「会食には参加していない」もしくは「酒の出ない会食に1回だけ参加した人」に比べて、感染の危険性が4.94倍高いという結果になったという。
報告ではこれ以外にもいくつかの分析事項があったようで、お酒の有無にかかわらず2回以上会食に参加した、換気の悪い場所にいた、手の届く範囲で会話をしたという場合も、感染リスクが高まる傾向がみられたとしている。

まずここでは最初に示された下線を引いた部分の比較検討について考えてみたい。この比較内容を一目見て違和感を感じたのは私だけだろうか。2つのグループを比較していて、片方のグループは飲酒をしていて片方のグループは飲酒をしていないのだから、飲酒をしたグループに感染者が多かったなら飲酒が原因だと考えるだろう。この設定内容を少しデフォルメして以下のようにしてみよう。

「メニューにクルマエビが入っている会食に2回以上参加していた人」は「会食には参加していない」もしくは「メニューにクルマエビが入っていない会食に1回だけ参加した人」を比較して同じような有意差が出たとしたら、クルマエビが原因だと結論するだろうか。

要するにこの比較には飲酒の有無、会食の参加人数、会食の回数という3つの変動する要素が含まれていて、この3つのうちの一つか2つに感染を増大させる要因があったとしたら、最後の一つの要素が何であっても有意差が出てしまう。ウイルス感染は基本的にはヒトからヒトへ移るのだから、人と人が接する機会や接する時間が多ければ感染が増大して当たり前だ。つまりこの比較だけからは飲酒が感染増大に関わっているかどうかなどは何も言えない。にもかかわらず、2つの比較グループの片方は飲酒をしていて片方は飲酒をしていないのだから、飲酒が悪いと言われればなるほどそうだと思ってしまう。実に巧妙だ。

そもそもなんでこういう比較デザインにしたのかという問題に立ち返らなければならない。この比較の中にはいろいろ不思議な要素がある。片方のグループからは参加人数の要素が抜け落ちている。片方に入っている参加人数はなんで3人で分けたのだろうか。会食の参加回数にしてもなぜ2回で線を引いたのだろうか。こういうデザインというのは往々にして作為的であることが多く、これらの線引きを少し変えると有意差が出なかったりするもので、それらの陰性データは隠しておいて陽性と出たデータだけを提示している可能性すらある。

普通に考えたら参加人数が多ければその中に感染者が紛れ込む確率が上がるわけだし、会食回数が多いということもやはり接触人数が多くなるということだから感染の確立が高くなっても当たり前で、もはや感染者との接触時間が長いほど感染が成立しやすいなという要因を持ち出すまでもない。こんな当たり前の比較をすることに何の意味があるのだろうか。

この比較について最後に言いたいことは、この分析には「会食会場で感染がおこったかどうか」の検証は含まれていない。会食に頻繁に参加するためには頻繁に街に出て交通機関にも乗らなければならない。会場に向かう途中で感染している可能性も当然ある。だからこの比較で有意差が出たからと言って、会食会場で感染が成立した理由には全くならない。

実は同グループの分析報告には以下のようなコメントも含まれていたと報道された。
「1人での外食やテイクアウトの利用、テレワークの実施などは、リスクの高まりはみられなかった・・・・他にも、お酒の有無にかかわらず2回以上会食に参加した、換気の悪い場所にいた、手の届く範囲で会話をしたという場合も、感染リスクが高まる傾向がみられた。
これでも表題に示したような結論が導き出せるものだろうか。

少し話を代えてほかの視点からも考えてみたい。医療の世界ではEBMすなわちエビデンス(科学的な根拠)に基づいて医療行為を行うことが一般的になっている。このエビデンスには「確かさ」の程度によってエビデンスレベル(通常レベルIからレベルVI)に分けられている。エビデンスレベルが高いレベルI~IIIは通常、比較すべき2つのグループがその後どうなっていくかをつぶさに見ていくような前向きの研究方法であるのに対して、レベルIV以下は過去を振り返って後ろ向きに要因などを調査する方法である(エビデンスレベルVIともなると、もはや研究者の意見・意向というほどのものである)。今回の疫学調査は「発熱外来などを受診して検査を受けた284人」をコロナ(+)とコロナ(ー)の2グループに分けて後ろ向きに要因の分析を行ったものなのだから、そもそも(研究結果に関わらず)エビデンス(科学的な根拠)の確かさは決して高いものではない。

リポートの詳細が報道されているわけではないので、推定で考えざるを得ない部分も多々あるのだが、一般的には発熱外来でPCR検査をした時のコロナ陽性率はたかだか10%だから、そもそも総数284人中コロナ陽性者は28人ぐらいということになる。この28人を対象に分析をしたとしたらあまりにも調査対象が少なすぎて何かを言えるようなレベルでは到底ない。逆に陽性者が仮に200人ぐらいいたとしたら陽性率がとんでもない割合になってしまい、調査対象として一般的ではない特殊な集団を調査対称にしたということになる。そもそも後ろ向き観察研究でも調査対象数は少なくとも500~1000人規模でないと確かさは担保できない。このような極小集団の調査で、飲酒の有無のほかに参加者の数や会食参加回数など多因子を変数に設定して分析することが果たして可能だろうか。

最後に冒頭で紹介した記事の記載に戻ろう。「調査を行った鈴木センター長は、対象となった人数が少ないなど、暫定的な解析結果だとしたうえで『これまでもリスクが指摘されてきた会食で、感染の危険性が高いことが確認された。特に飲酒を伴う場合のほうがリスクが高いと確認されたことは大きな知見だ』とのべた」という。科学論文でよく見られる現象は、結果の報告までは事実に違いないとしても、そこから結論を導き出すところで大きく飛躍してしまうことだ。結果の解釈までもがエビデンス(科学的な根拠)と言えるわけではない。それを知ったうえで敢えて無理な結論を誇張して伝えているとしたら、相当恣意的であって科学者としては失格だ。また、このような内容をそのままタイトルにまでして流すメディアも問題だ。

最後に、東京都福祉保健局が提示しているデータによると、新規陽性者数の濃厚接触者における感染経路(6月29日~7月5日)の内訳は、同居48.8%、職場18.4%、施設等9.2%、会食8.6%、接待を伴う飲食1.4%、その他13.6%となっている。同一感染源からの複数(2名以上)発生事例の解析の結果も同様で、飲食店は10%にも満たない。飲食店が感染拡大に大きく寄与している場所とは言えないことがデータとして示されている。このようなデータを提示しておきながら、そのことには言及せずに飲食店の営業形態を厳しく規制し続ける指示を出しているのはいったい誰なのか。冒頭で紹介した稚拙な調査報告とその極端な解釈は、これまで長々と実施してきた規制が誤りである事を認めることなく、むしろこれを正当化して実施し続けることの意思表示だろう。人は自分で自分の非を認めることはできないのだから、メンバーを一新して新しい風を取り込むべきなのではないだろうか。
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/info/monitoring.html

参考:
酒出る3人以上の会食に2回以上参加”で感染リスク約5倍か(2021年7月7日 NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210707/k10013125481000.html
「酒が出る3人以上の会食に2回以上参加」は感染リスク5倍(2021年7月8日 読売新聞)
https://news.yahoo.co.jp/articles/eee9b8e42f8ec8ddf912e1ed47872a7770cea7d1

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