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Vol.132 コロナ罹患で「申し訳なくて苦しかった」…医療従事者の療養記

医療ガバナンス学会 (2021年7月13日 06:00)


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この原稿は幻冬舎ゴールドオンライン(2021年5月12日配信)からの転載です。
https://gentosha-go.com/articles/-/33972

ときわ会グループ
杉山 宗志

2021年7月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●「はじめはインフルエンザのような感じだった」

筆者は、福島県いわき市内を中心に展開する医療グループで、新型コロナウイルスの対応に携わっています。

実は少し前に、筆者自身も新型コロナの陽性者になってしまいました。現在は回復し、仕事にも復帰しています。

体調不良を自覚したのは、PCR検査をする前日でした。はじめはインフルエンザと同じような感じでした。

検査前日、朝のうちは特に熱もなく、体調に問題ないと判断し、通常通り出勤してしまいました。体調不良を感じたのは夕方になってからです。退勤する頃から急に身体が痛くなりはじめ、熱が上がってきてしまいました。自宅に戻り体温を測ると38℃を超える熱がありました。

すぐに上司に連絡を入れ、翌朝、PCR検査を受けることになりました。お互い、まさか陽性になるとは思っておらず、「念のため検査だね」という程度でした。

翌朝になっても、身体の痛みや倦怠感がひどく、熱も下がりませんでした。10時頃に検査を受け、自宅に戻り寝込んでいました。目覚めて、少し熱が下がって安心していたところ、15時半過ぎに、普段一緒に仕事をしているスタッフから電話をもらいました。

やはり陽性になるとは思っていなかったので、仕事関係で何か連絡があるのだろうと思って出たところ、「陽性です…」と告げられました。思わず「えっ?」と聞き返してしまいました。連絡してきたスタッフもどのように伝えれば良いのかわからないような様子でした。

結局、自分自身が手伝っているクリニックに入院することになりました。幸いにも病床に余裕のある時期で、その日の夜には入院できる運びとなりました。これまでコロナ対応に携わってきたので、陽性と判明してからの流れは把握しており、戸惑うことはありませんでしたが、保健所や職場との連絡で電話が途切れず、もうそろそろ日が変わるか、という頃になってようやく落ち着くことができました。
●退院後も倦怠感が続き、仕事に復帰できたのは2週間後

翌日になり、血液検査とCT検査を受けました。肺炎像があったようで、後から振り返ると、確かに息苦しさがあったように思います。

また、匂いを感じないことにも気づきました。費用はもちろん自己負担ですが、病室からちょっとした買い物を頼むことができるので、インスタントコーヒーをお願いしました。コーヒーの蓋を開けて鼻を近づけてもまったく匂いがせず、コロナに罹ったことを実感しました。

入院は10日間でした。病室から一歩も出ることなく、生活自体は、淡々としていました。とはいえ、日中は約2時間おきに医師や看護師が病室に来たり、食事が届いたりと動きがあって、ゆっくりとできない感じだったことや、何よりも精神的に疲弊してしまい、休まらない日々を過ごしました。

退院した後は、仕事に復帰するまで2週間ほどを要しました。退院する頃には嗅覚は戻ってきていましたが、倦怠感が長く続きました。早く復帰しなければと焦る一方、はじめは食材や日用品の買い物に行っただけでぐったりしてしまったり、電話で話すときにも息が続かなかったりと、万全とは言えない状態でした。

また、入院やその後の自宅での生活で体力が落ちきってしまい、仕事に復帰しても、はじめのうちは一日も持たないような状態でした。ただ、復帰してから2日ほど経つと、急に調子が戻ってくるような感覚が出てきました。
●申し訳ない、合わせる顔がない…入院中のマイナス思考

筆者は本来、陽性者が発生した場合その対応に回る立場です。そのため入院し隔離されている間も、ひっきりなしに情報が入ってきました。

診療には大きな影響が出てしまいました。外来については新患の受付が中止され、新規の救急受入れも中止されました。新規の入院や他医療機関からの紹介受入れも中止、予定されていた入院も延期、さらに手術の新規予約も中止となりました。診療の制限が解除されたのは約10日後でした。

スタッフについては、最終的には濃厚接触者などに限らず全員のPCR検査を行うことになりましたが、結果が出揃うまでの約1週間は、陽性者が出てしまわないか、クラスターになってしまわないかなど、毎日気が気ではありませんでした。検査の結果、濃厚接触者から、1名の陽性者が出てしまったことが判明しました。

陽性になってから、連絡が飛び交うほどに申し訳なさが募り、精神的に苦しくなりました。あれこれ考えてしまい、なかなか寝付けない日が続きました。

「陽性になり入院すると、病室に閉じこもっていなければならないのが辛い」と聞いていましたが、私は誰にも合わせる顔がないように思い、無責任にも、「誰にも会わずにいられて良かった」とも感じてしまいました。

今後のことを前向きに考えられるようになったのは、退院して体調が少しずつ戻ってきてからでした。「あまり気にしないように」と言われても、やはり申し訳ないという気持ちになるものです。

今年1月、中国の医師たちが英『ランセット』誌に報告した研究によると、退院したコロナ感染者1617人のうち、367人(23%)が不安あるいは鬱状態であったといいます。入院時の筆者の主治医も、気持ちの落ち込みをとても心配してくれました。日本ではさらにひどいのではないかと考える医師もいます。

気持ちが落ち込むのは、日本の仕組み上、濃厚接触者の追跡のための調査に答えなければならないというのが理由の一つだということですが、確かに療養スタートの時点で調査を受けた際にも、自分の生活のすべてが周囲に悪影響を及ぼしたように感じてしまいました。コロナ患者の自殺や自殺未遂も少なくないようで、筆者の耳にも、具体的な事例が入ってきます。何か対策を講じなければと思います。

筆者にとって、検査で陽性と判明してからの約1ヵ月間は、今までにない経験となりました。

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