最新記事一覧

Vol.152 コロナ激増で保健所が機能不全になっても「全数把握」を続ける無策と医療機関への影響

医療ガバナンス学会 (2021年8月11日 06:00)


■ 関連タグ

わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2021年8月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

コロナが激増してからの診療所の1日をご紹介したい。診療所に出勤してみると開院30分前だというのにすでに電話が鳴っている。診療開始後も2本ある固定電話が鳴り続けて、こちらから電話をかけるために受話器を取ることもできない状態が続く。事務方が電話対応に追われてしまい、朝一番に来院されたかかりつけの患者さんの受付もできない有様だ。

電話のほとんどは発熱外来の受診依頼で、あっという間に1日の発熱外来予約枠が埋まっていく。医師である私は発熱患者さんの診察とPCR検査の実施に追われ、スタッフは患者さんが退室するたびに検査台や座椅子の消毒業務に追われる。昼前に設定したコロナワクチン接種専用時間帯に入ってからはワクチン接種業務をひたすら続ける。ちょうどその頃に検査会社から前日に実施したPCR検査の結果がFAXで届くので、休む間もなく検査を受けた患者さんへ電話して検査結果の報告作業を行う。検査を受けたすべての患者さんに電話報告をするのだが、すぐに電話に出ていただけずに繰り返し連絡せざるを得ないケースも少なくない。検査結果が陰性の場合は比較的短時間の報告で終わるのだが、このところは毎日平均10件はPCR検査を実施していて陽性者が7~8割を占めるので、こちらの報告作業は一筋縄では終わらない。

陽性者へのその後の聞き取りでわかってきたことは保健所がすでに機能不全になりつつあることで、本来陽性者へ入るはずの保健所からの連絡が2-3日後にずれ込んでいるらしい。そのためこのところはやむを得ず保健所の仕事を肩代わりして陽性者への説明を綿密に行うようにしている。
「陽性者本人は発症から10日間は自宅療養が原則であること、同居の家族は最終接触日から14日間のあいだ(患者さんとは接しないようにしながら)自宅待機を続けること、濃厚接触者はPCR検査を受けた方がよいが、検査結果が陰性であっても14日間の自粛は必要なこと、患者さん本人よりも自粛期間が長いのは潜伏期が平均6日ある事を考量しての数字であること」などを説明する。実際はそれぞれの患者さんの発症日がいつになるとか、家族の最終接触日がいつになりかなども聞き取りをしながら具体的に自粛期間を決めてあげなければならない。
同居の家族のPCR検査は保健所からの連絡が遅れている以上、当院で設定していかなくてはならない。同居者が両親・兄弟姉妹と数が多かったり、同居者に乳幼児が含まれているときなどはとても当院だけでは対応しきれず、他院の協力を求めることもある。これらすべての対応を陽性者のすべてに一人一人行わなければならないのだ。

また、新型コロナは現在、感染症法で「全数把握」の対象疾患に指定されているので、すべての症例を保健所に届け出なければならない。患者さんへの対応が終わったら、すべての患者さんの病状を1枚の専用シートに手書きしてまとめて保健所にFAXする。このFAXには氏名、年齢、連絡先などの個人情報は記載することができなことになっているので、FAX送付後にはもう一度保健所への専用ホットダイアルに電話をしてそれらの個人情報とさらに詳しい病状を報告しなければならない。これらの一連の作業を個人の小さな診療所が実施するとなると一体どれだけの時間と労力を割かなければいけないかはご想像いただけるだろう。

先にも触れた通り、現在保健所はすでに機能不全になりつつあり、患者さんへの連絡でさえ症状の重い人を優先して軽症者は後回しにするという「トリアージ」(軽症者の切り離し)が行われ始めている。
(以下に示すネット記事の中で北区保健所長が保健所の実態を吐露していて、早くも機能不全に陥っていることを告白している。『「努力をあざ笑うかのような大きな波に絶望的な気持ち」「心を病んでしまった職員も」デルタ株が急拡大の東京、保健所長が明かす厳しい実態』)
https://news.yahoo.co.jp/articles/734b624112fb31260c5ab6440c8a5f99e3d5cd52

外国から新興感染症が入り込んだ直後ならば症例の「全数把握」も可能だろうし必要だろうが、日本中にこれだけコロナウイルスが蔓延してすでに累計感染者数が100万人を突破している現在、「全数把握」することに何の意味があるのだろうか。このことのために日本中の医療機関が保健所への報告事務作業に多くの時間を割かなければならず、このことが実際の医療行為の妨げにもなっているのだ。ましてやせっかく届けた貴重なデータが保健所の機能不全のために反故にされているとしたら本当に意味のないことだ。

コロナウイルスに関するすべてを(感染研の指示のもとに)医療機関ではない保健所という組織が取り仕切るという構図は異常であり、世界中を見渡してもそのような国は見当たらない。医療は医療機関に委ねるのが当たり前で、一刻も早く保健所はコロナ管理から手を引いて医療機関にすべてを任せるべきだ。もはやインフルエンザのような扱い(すべての診療所が検査をして、1週間の自宅療養を指示する、「定点把握」と言って定点医療機関からの報告から全数を推定する)にするのが一番で、そのためには国や都が音頭をとってまずは法律の手かせ足かせを外して、医療機関のコロナ診療体制を通常医療に戻すことが重要だ。

参考資料:
2021年2月3日、感染症法や新型インフルエンザ等特措法等を一括して改正する法律が国会で可決、成立し、即日公布された。施行は2月13日である。
新型コロナについては、法律で直接定めていたわけではなく、感染症法上の指定感染症(感染症法第6条第8項)として、政令指定されていた(新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令。以下、新型コロナ政令)。
改正感染症法では、新型コロナウイルス感染症および再興型2コロナウイルス感染症が、新型インフルエンザ等感染症の一類型として追加された(第6条第7項第3号、第4号)。つまり、新型コロナに関する感染症法の適用が法律本文で定められ、感染症法が恒久的に適用されるようになった。代わりに新型コロナ政令は廃止された。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=67008?pno=2&more=1&site=nli#anka1

感染症発生動向調査対象疾患>全数把握の対象疾患>新型インフルエンザ等感染症(新型インフルエンザ、再興型インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、再興型コロナウイルス感染症)
定点把握の対象疾患(週単位報告対象疾患)>インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/survey/sikkan/

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ