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Vol.151 怠さや息切れ、コロナかな?と思ったら、気軽に訪問看護ステーションに連絡を

医療ガバナンス学会 (2021年8月10日 06:00)


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看護師・ビジナ代表
坂本諒

2021年8月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

新型コロナウイルスのデルタ株が大流行している。デルタ株は感染力が極めて強く、家庭内感染を起こしやすい。政府は、コロナ重症者の病床を確保するため、「重症者以外は原則自宅療養とする方針」を打ち出した。

高齢化が進む日本では、高齢者のみの世帯が増加している。政府の方針変更が、このような世帯に与える影響は明らかではない。私たちは、この問題を考える上で、示唆に富むケースを経験した。ご紹介したい。

8月初週の日中、訪問看護のリハビリスタッフより「利用者が発熱して痰絡みもある様で、これは救急搬送ですよね」と連絡が来た。リハビリスタッフと利用者の接触は避けてもらい、直ぐに看護師の対応に変更した。

看護師が訪問すると、利用者である夫はベッドに横たわっており、喘鳴がある。意識レベルは低下していたが、発語は可能であり「すごく苦しいです」と訴えた。体温は38.9℃、酸素は87%、コロナ感染が疑われた。

同居の妻も倦怠感を訴えており、妻は「数日前にコロナワクチンの2回目を打って、旦那も私もそれから具合が悪くなったので、ワクチンの副作用だと思います」と話した。夫婦とも認知症はないが、コロナ感染の可能性は考えていなかった。

夫には普段、訪問のリハビリが入っていたため、夫の状態をケアマネージャーとかかりつけ医に報告し、まずは、夫を搬送する救急車を要請した。

その後、床に横たわっていた妻の様子も看た。彼女は、倦怠感と労作時の息切れがあった。体温36.9℃と発熱はないが、酸素は94~95%と低く、肺炎の状態だ。

夫婦とも、コロナ感染が疑われる状況だった。

救急要請をした15分後、消防のポンプ隊が来た。ポンプ隊は、救急隊と連携して救護活動を行う職務があり、隊員は「この辺りはもう救急車が無く、遠くから向かっているので、到着時間は未だはっきりしないです。心肺停止になったら、心臓マッサージは手伝います」と話した。その直後、救急隊員から改めて連絡があり、隣の隣の区から向かっていた。

ポンプ隊が来た25分後、救急隊が到着した。到着した頃には、夫は会話も難しい状態になっていた。救急隊が直ぐに状態確認を行い、酸素マスクを装着した。救急車に乗せ、搬送先を探し始めた。

同居の妻も、労作時の息切れが強く、歩くことがやっと出来る程度で、とても自力で病院に行ける状態ではない。夫の対応をした救急隊と相談の上で、もう一台救急車を呼んだ。

救急隊員は「搬送先を見つけるのは時間がかかりますね。ご存知かと思いますが、ニュースでやっているより酷いです。30分、1時間とか。長ければ3、4時間かかります」と話した。

このケースでは、救急要請から病院到着までに、夫は1時間40分を要し、妻は1時間半を要した。搬送先の病院でのPCR検査の結果、夫婦とも、コロナ陽性だった。

夫は入院出来たが、妻は自宅に帰された。妻は、酸素94~95%まで低下した「中等症Ⅰ」の状態だった。「中等症Ⅰ」は、酸素96%未満で肺炎があり、呼吸困難感がある状態だ。

政府は、コロナ対応に関して「重症者以外は原則自宅療養とする方針」を打ち出し、「中等症の中で、比較的、重症化リスクの低い人は自宅対応」と謳っている。

入院基準については、「中等症患者で、酸素投与が必要な者、必要でなくても重症化リスクがある者」とし、「入院の可否は、最終的には医師の判断で決まること」も付け加えた。

これで、今までは入院とされていた中等症の扱いが曖昧となり、「中等症Ⅱ」の「酸素93%以下になり、酸素投与が必要な状態」で入院できるか否か、という状況になった。

妻は「中等症Ⅰ」の状態であり、ケアマネージャーへ訪問看護による状態観察を提案したが、「大丈夫だから帰されたのですよね。息子さんが食事を届けに来られるので、様子を見てくれると思います」と返答された。

このケースでは、息子が近隣に住んでおり、状態観察と食事の手配が可能だが、「中等症Ⅰ」から「中等症Ⅱ」に移行する可能性があるため、医療者が経過観察する必要がある。

しかし、現段階では、「状態が問題ないため、自宅に帰される」のではなく、「病床不足であるため、自宅に帰される事実」について、社会的なコンセンサスを取れていない。

このケースが示唆する重要なポイントは2つある。

1つ目は、「高齢者のみの世帯において、救急車を呼ぶ判断が出来ずに搬送が遅れ、死亡するリスクがあること」だ。このケースのように、重症になってもコロナ感染を疑えず、放置されてしまう場合がある。もし訪問がなければ、亡くなっていた可能性もあるだろう。

2つ目は、「高齢者のみの世帯でコロナ感染が起こり、自宅療養となった場合、そのサポート体制が脆弱であること」だ。受診の結果、自宅に帰される理由は、「状態が問題ないため」ではなく、「病床不足のため」であるが、その事実が医療福祉職に認識されておらず、自宅での医療体制を確保しにくい現状がある。

8月2日時点で、重症者の病床使用率は72%であり、ここ数日の陽性者数の増加、救急車の到着や病院までの搬送に時間を要していることを考えると、入院治療は難しくなって来ている。

コロナ陽性者の在宅医療のニーズは、増える一方だ。在宅ケアに関わる医療職と介護職とで、コロナに関する社会的な状況と患者の状態を共有し、在宅での医療的なフォローをする必要がある。

今回のケースにおいて、妻は訪問看護の契約をしていなかったが、自宅に帰された後に連絡をしたところ、「息子にコロナを移してはいけないので、来るなと伝えました。私は大丈夫です」と話されており、独居の状態となってしまうため、一度訪問して様子を見た。

区から酸素を測定する機械を配布されていたが、使い方が分からない様であったため、一緒に確認した。酸素は94%と状態の悪化はなかったが、急変する可能性もあることを伝えると、妻は「それは知らなかったです」と答えた。

妻には、有症時を含めて適宜、酸素を測定する様に伝え、酸素80台の数字が出た時や、体調に更なる異変を感じた時は、直ぐに電話をして欲しいことを説明した。妻は「夫が救急車で運ばれる前の日から、何が何だか分からなかったので、助かりました。本当にありがとうございます」と話していた。その後も毎日、電話で体調の確認をしている。

また、別居の息子にも連絡を取ったところ、「家に帰って来て、疲れた様ですが、大丈夫そうですよね」と話されていた。少し前までは入院適応となった病状だが、現状は病床が足りないため帰されたこと、急変のリスクがあることを伝え、酸素と症状をフォローし、必要時は入院や訪問診療の導入を検討した方が良いことも説明したところ、「そうなのですね、分かりました」と返答された。

妻は、あまり飲食出来ていない状況であったため、経口補水液も渡したことを息子に伝えると、息子は「来なくて大丈夫と言われていますが、時々見に行きますね。今朝パンを置きに行って、少しは食べた様です。あと、前に買ったアイスも食べた様です。」と話された。

私たちの訪問看護ステーションでは、今回のケースを教訓に、体調に少しでも不安のある人には電話をしてもらうように案内を出し、連絡があった利用者には、酸素を測る機械を配布して電話で体調確認をする体制を整えた。

ある都内在住の人が、家族が酸素80台となり保健所に電話をしたところ、「入院のウェイティングリストに載せておきます」と返答されたそうだ。保健所での入院手配が難しければ、民間で対応するしかない。救急隊員も「保健所を通しての入院が難しくなっているので、自力で探すことが多いです」と話していた。

コロナ陽性者の自宅療養に関して、首都圏ではここ数日で報道される様になって来た。しかし、医療福祉職ですら、病床不足のために自宅療養を強いられる場合があることについて、社会的コンセンサスを取れていない。平素より、コロナの現状と訪問看護が出来ることを、地道に伝えて行きたい。

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