最新記事一覧

Vol.154 コロナ禍で受刑者を取り残さないために

医療ガバナンス学会 (2021年8月13日 06:00)


■ 関連タグ

北海道大学医学部医学科4年
金田侑大

2021年8月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は北海道大学医学部医学科の4年生です。大学のオンライン授業期間を利用して、上先生の研究室で、1週間と少しのインターンをさせていただきました。
世間的には賛否両論あるみたいですが、個人的には、北海道に大学がある自分が、東京にいても、大学の授業に参加しながらインターンをするという、ニュータイプの青春を謳歌できただけでも、十分すぎるほどオンライン授業万々歳!といった気分です。それまでの学生生活では、朝は早く起きて大学に行き、少なくとも8〜17時までは大学内にいなければいけないというのが”当たり前”でした。
しかし、オンライン授業であれば、朝8:43に起きたとしても8:45からの授業に間に合うことができます。また、通学の必要がないため、特に冬の北海道の厳しい雪道とも格闘する必要がなく、暖かい部屋の中で快適に授業を受けることができました。そもそも医学部の臨床科目の講義といった座学に関しては、one wayな知識教授型の授業が基本なので、講堂で授業を受けようと、オンラインで授業を受けようと、そんなに学習効率は変わらないような気がします。コロナは早く収束してほしいですが、オンライン授業の利点、とりわけ、空間的・時間的制約を越えられるという点は、ぜひ今後も残していく道を開拓できないかなと切に願う毎日です。

さて、医学部の授業のように、コロナ禍においてもリモートで代替可能なものに関しては、私たちはこの1年と少しでなんとなく順応していき、その生活にも慣れてきたところかと思います。しかし、世の中には、リモートでは対応することができないものや環境もいくつもあります。その一つの例が、刑務所です。

私は縁があって、大学1年生の頃から刑務所における医療などについて学んでいます。一医学生と刑務所が、いったいどこで接点を持つんだと思われる方もいらっしゃるかもしれません。私はもともと公衆衛生に興味があり、紆余曲折を経て北海道大学の医学部に入学しました。1年生の頃から積極的に講演会や勉強会に参加していたのですが、その中の1つで、たまたま「刑務所は公衆衛生の縮図だ」と仰っていた先生がいらっしゃり、その言葉の響きに流され、右も左も分からぬままその先生のゼミに所属した、というのがきっかけです。以来、北大から一番近くにある札幌刑務所をフィールドに、矯正医療や元受刑者の再雇用制度といったトピックについて、学ばせていただいてきました。

札幌刑務所は明治3年(1970年)12月、現在の札幌市北1条西1丁目に存在した、北海道開拓使庁舎の一部を獄舎として使用したのが始まりです。それから10年後に現在の場所に移転され、大正11年より官制改正・札幌刑務所と改称されました。現在の建物は平成26年(2014年)9月に完成したもので比較的新しく、刑事被告人等を収容する札幌拘置支所と室蘭拘置支所、そして女子を収容する札幌刑務支所を有し、その収容定員は約2,500人となっています。20歳以上で実刑期が10年未満の犯罪傾向が進んでいるもの(B指標)および、風俗習慣や特別な配慮を要しない外国人受刑者(F指標)、加えて重度の精神・身体障害を有する受刑者(M・P指標)を収容しています。他にも、管内各施設で確定した執行刑期1年6か月以上で、年齢が26歳未満の初犯受刑者の処遇や収容施設を決定する、調査センターとしての役割も担っています。

刑務所の中を見たことがある人はどれぐらいいるでしょうか。おそらく超少数派ですし、もしかしたら見たことがない方が健全かもしれないですね。刑務所の中って、意外ときれいなんですよ。札幌刑務所が新しいということもあるかもしれませんが、ドラマとかで見るような湿っぽい、汚い、暗いという印象は全くなく、なんなら北海道大学の教養講義棟よりも綺麗だなぁ、というのが率直に抱いた印象でした。ご飯も毎日3食、健康を意識したメニューが食べれるようで(しかもちゃんと美味しそうなんですこれが)、正月にはおせちなども出されると聞き、さらには医療費までが無料だと、彼らが受けている待遇には驚きました。
また、札幌刑務所は被収容率がそれほど高くないようで(5割程度)、本来は6人部屋であるはずの大部屋にも、3~4人で収容されている場合が多く、生活のスペースを結構広々と取れるのだなぁと感じました。単独房の数も多く、アルバムや本など、各々持ち込んでいるものには個性が見られました。ただ、机の上に置かれた家族と思われる写真がとても切なく、ここにいる人たちも私たちと何ら変わらない人間なのだなぁと、犯罪の偶発性・衝動性を恐ろしく感じました。そして、刑務所は、犯罪者を苦しめるための場所ではなく、犯罪者を社会から隔離し、善良な市民として社会復帰させるための場所であるということを強く認識させられました。

日本の受刑者のうち、刑務所に収容されることになった被収容者たちは皆、自由刑を課せられることになります。つまり、罪を犯した者は懲役や禁固、拘禁などといった形で、身体的な自由を奪われます。被収容者は24時間、刑務官に生活を管理され、社会から隔離された塀の中で、時間的・空間的に束縛された世界での生活を余儀なくされています。札幌刑務所における受刑者の、平日の一日の生活スケジュールは以下の通りです。

6:30 起床
7:00 朝点検
7:10 朝食
7:35 出室
8:00 矯正処遇等開始
10:00 休憩
12:00 昼食
12:20 矯正処遇等開始
14:30 休憩
16:40 矯正処遇等終了
16:50 入室
17:00 夕点検
17:10 夕食
18:00 余暇時間
21:00 就寝

夕食後の余暇の時間には、テレビ鑑賞や読書など、個人の活動も認められてはいるものの、基本的には閉鎖空間での集団生活がベースとなっています。そして、私が実際に刑務所を訪れて驚いたのは、高齢者が多いということです。実際、この25年間で、日本の被収容者の高齢化率は、男性では1.7%(1990年)から16.5%(2015年)、女性では同時期で3.9%から33.1%と、右肩上がりに上昇しています。日本人口の高齢化率が1990年では男性9.9%女性14.2%から、2015年にそれぞれ23.4%と29.1%に変化したことを鑑みるに、日本人口の高齢化よりも早いスピードで、被収容者の高齢化が起きているのが現状です。ちなみにですが、私が訪れた札幌刑務所では、最高齢者の方は85歳でした。

もう一つの問題は、高齢受刑者の多くが再入者であるということです。「犯罪白書」によれば、2016年度の入所受刑者全体(20,467名)のうち、再入者が60%近くを占めるということです。また、この統計を年齢層別にみてみると、高齢者層ほど再入率が高く、再犯までの期間も短くなっています。高齢者は特に、出所後も身寄りがない、雇用先がないといった理由から、生活の立て直しが困難であり、再び犯罪に手を染めてしまうという負のスパイラルが見受けられます。
私が直接話をさせていただいた元受刑者の方は、「務所を出てからの方が大変。誰も雇ってくれないし、家族からも見放される。更生したくても、社会は認めてくれない。」と、どこか諦めたように語って下さいました。再犯防止のためには、元受刑者側の努力ももちろん重要ですが、それを受け入れられるような懐の深さを我々が持てるように努力することも必要となってきます。今のままでは、社会が犯罪者を生み出してしまっているという側面も否定できません。札幌刑務所では、最も多い人で25回、再犯によって刑務所を出入りした人がいると伺いましたが、このような人々に対して自分たちがどのようにアプローチできるか、私の所属しているゼミでは頭をひねっているところです。

そして、このように集団生活を基本とする刑務所で、高齢受刑者が増えていることは、新型コロナウイルスが蔓延している現在、大きな課題と言えます。彼らの多くは持病を抱えており、新型コロナウイルスに感染すると重症化してしまうリスクが高いことが厚生労働省によっても報告されています。また、刑務所は、その環境の特性からクラスターも発生しやすく、事実、昨冬には、千葉刑務所や横浜刑務所で、百人規模の受刑者らの新型コロナウイルスへの感染が報道されています。しかしながら法務省によれば、受刑者の大半は、未だワクチンを接種できずにいるというのが現状とのことです。

そこで、私から1つ提案があります。緊急事態宣言が出ている地域に優先的に配送されることが決まったものの、未だ、日本が抱えている在庫を有効に使えているとは言えないアストラゼネカ(AZ)ワクチンを、高齢受刑者にも優先的に接種させるというのはどうでしょうか。

英医薬品・医療製品規制庁は、AZワクチンは若年女性で血栓症のリスクがあると報告している一方で、高齢者に打つ分には、特に問題はないとしています。そして、幸い日本は1億2000万回分のAZワクチンの在庫を抱えています。また、オックスフォード大学らの研究グループは、1回目と2回目で、例えばAZ製とファイザー製というように、異なる種類のワクチンを接種した場合であっても、同種のワクチンを2回接種した際よりも強い免疫反応が得られたとの報告も出ています。AZワクチンをこのままベンチで温めておくのはもったいないと私は感じずにはいられないのですが、これを読んでくださっている皆さんはどう感じますでしょうか。

日本が在庫を抱えている1億2000万回分のAZワクチンのうち、既に3000万回分は、東南アジアや台湾といった海外に提供する意向を固めつつあるようです。しかし、日本国内で流通しているワクチンが不足しているという現状に、目を背けることはできません。厚生労働省は緊急事態宣言が出ていない道府県に対しても、それぞれ1000回分を上限に8月23日以降にAZワクチンを配送していく方針を打ち出していますが、1000回分に限定する必要は、いったいどこから出てきたというのでしょうか。科学的な根拠に基づいたうえで、必要としている人の元に、積極的に届かせていく姿勢が必要なのではないでしょうか。

受刑者のような社会的に弱い立場にある人たちの生きる権利を守るためにも、既に手元にあるものを使って、柔軟に対応してみてはどうかと私は思うのです。

【金田侑大 略歴】
1996年フラウエンフェルト(スイス)生まれ。日本人の母とドイツ人の父の元で育つ。2021年8月現在、北海道大学医学部医学科第4学年に在学中。2021年9月より1年間、エジンバラ大学(イギリス)への留学を予定。オリンピックの応援は日本とドイツの二刀流。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ