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Vol.155 平田村の新型コロナワクチン集団接種を通して学んだ事 –8月1日に村民の8割が2回のワクチン接種を終了できた秘訣–

医療ガバナンス学会 (2021年8月16日 06:00)


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ひらた中央病院
非常勤医師 小橋友理江

2021年8月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 –8月1日に村民の8割が2回のワクチン接種を終了できた秘訣–

8月1日、福島県県中地区にある平田村は、新型コロナワクチン集団接種の全日程を終えた。集団接種会場であった村役場で、役場職員と医療者は達成感に包まれていた。2回ワクチン接種を完了した村民の割合は、8月1日の時点で確認が取れているだけで、65歳以上の村民に対して91%以上、12歳以上の村民に対して85%以上、全年齢の村民に対して80%以上である。平田村は、福島県の県中地区にある、人口5738人程のごく普通の村であるが、なぜこのような迅速なワクチン接種が可能であったのだろうか。ワクチン接種を担当した医療者の立場から考察する。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2021_155-1.pdf

一番大きな要因としてあげられるのは、行政と医療機関の連携の強さだと思う。平田村役場と、平田村の中心的な医療機関であるひらた中央病院は、長年にわたり培われて来た強固な連携関係にある。特に集団接種においては、医療者と役場職員が、なるべく早い住民へのワクチン接種という目的を共にした、一つのグループとして動いていた。具体的には、通常の接種ができない住民がいたりすると、役場職員から医療者に直接電話やメールで質問がなされた。平田村の澤村和明村長自らも、集団接種会場をいつも巡回され、現場の声に耳を傾けておられた。
また、行政の希望通りの人数の、医師・看護師・薬剤師などが主にひらた中央病院から配属された。その他にもワクチンのバイアルの確保、病院での個別接種を含めた対応、急変時の対応など、行政と医療機関の連携なしには実現できなかった事は多い。一つの大きなグループとして動けた事により、情報共有がスムーズに行われ、現場当事者の「わからない」を限りなく減らす事が出来ていた。医療機関の専門知識や技術の提供と、行政の住民へのアクセスや情報の集約など、双方の強みを活かせた事が接種率の高さに繋がった。さらにこのような連携は、他の健康問題の解決と地域医療の充実に役立つのではないかと、さらなる可能性を感じさせる程メリットが多かった。

加えて強力なリーダーの存在も重要である。平田村役場の健康福祉課の鈴木保子課長は、様々な現場に現れ、直接集団接種が上手く行くように現場を仕切っておられる。実務からマネジメントまで非常に多い仕事量をこなされるにか関わらず、いつも無限のエネルギーでとても元気よく楽しそうに仕事をしておられる。また、ひらた中央病院側で調整を行なったのは、二瓶正彦事務長である。二瓶事務長の手にかかれば、圧倒的な調整力で、物事がいつも2段飛ばしくらいで進んでいく。会議の重要な場面では、「住民の為になるなら、患者さんを守る事に繋がるなら、私達はやります」といつもおっしゃられておられ、この一貫した姿勢が、物事を強力に推し進めている。
ワクチン集団接種を推し進める為に浮上する様々な問題を、逐一全体の会議にかけていたら、ワクチン接種は全く進んでいなかっただろう。意思決定権者が誰なのか明確で、この意思決定権者の方が現場を良く理解し、問題があれば一番に対応する情報のハブになっている事が、ワクチン接種をスムーズに進める鍵となっていた。さらに、やると決まったからには、それをする事が住民の為になるはずであり、困難に直面してもどうやったらできるかを現場の関係者一人一人が考えていた。「やれない、できない」を口にする人が圧倒的に少なかった。そのような雰囲気が、現場の統一感を生み出し、大きな問題や事故なく集団接種を終えられた結果に繋がったと感じた。

さらには、迷った時の判断の根拠として、現場のデータが有効に利用されていた事も、成功に繋がる要因であったと思う。平田村の集団接種が県内でもトップレベルのスピードであったが故に、12歳以上の集団接種を採用するか否かについての決定などは、非常に難しい判断であった、とお話を伺った。しかしそのような状況において、先行で接種を行っていた学生の、実際の副反応の出現率や学校を休んだ生徒の割合を見て、これはきっと大丈夫だ、大きな問題は起こらないに違いない、と考え決断をしたという。また、副反応が心配で、ワクチン接種を躊躇する住民には、ひらた中央病院の職員の副反応の出現率の結果が説明された。さらに病院の職員の間で、ワクチン接種により抗体価が上昇した図を示すと、多くの住民がワクチン受けよう、と前向きに考えてくれた。緊急事態の時ほど、実データに基づいた議論が必要とされていると感じた。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2021_155-2.pdf

平田村の村民のみの集まりに限っては、感染予防対策を徹底した上で、介護予防の集まりや、リハビリサロンなどが再開され、喜びの声が多く聞かれている。住民の為だけを思い、行政と医療機関が連携して行った集団接種は、住民に多大な恩恵をもたらした。行政と医療機関が一つのグループとして動く事、意思決定を行う人を本当に必要な人のみに絞る事、実データに基づいた議論を行う事、これらは高いワクチン接種率を実現する為に、重要かもしれない。

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