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Vol.171 世界で論じられているCOVID-19対策に関する考察(1)

医療ガバナンス学会 (2021年9月6日 06:00)


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帝京大学大学院公衆衛生学研究科
高橋謙造

2021年9月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

COVID-19が世界の人々の健康のみならず経済への脅威となってから、まだ、2年も経過していません。最初は全く正体不明であった中国武漢発の新型肺炎の正体が、SARS, MERS等の類縁である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2ウイルス)による感染症であることが明らかになったのが2020年の1月8日です。この頃から、中国発の情報は、米国の一流学術誌New England Journal of Medicine(NEJM誌)に盛んに投稿され、公開されるに至っていました。
それ以来、SARS-CoV-2ウイルスの性質に関する最新の知見は、常に世界のトップジャーナルと言われる学術誌(NEJM、JAMA、Lancet、Nature、Science等)に掲載されて来ました。この動きの重要性に私が気づいたのは、2020年3月ころと少し遅めだったのですが、それ以来、これらのトップジャーナルに毎週目を通し、最新のEvidenceをまとめて、新聞記事も参照して、日本国内の知人たちに情報共有してきました。

COVID-19はヒトーヒト感染するウイルス感染症であり、人間という乗り物に潜んで、あっという間に国境を越え、人々の間に拡散します。つまり拡散の様式は共通なはずです。したがって、その対策も世界共通なものがあるはずなのです。であるからこそ、世界の知見が集積するトップジャーナルから学ぶ価値があるのです。
そして、毎日のようにUpdateされる学術誌の知見を追っているうちに、気づいたことがあります。世界で次々に明らかにされてくる知見は、日本の施策に反映されて来たのか?いやむしろ、どんどんとエビデンスから乖離して行く様子が見えてきました。
世界的にみると、対策をどんどんと早期から積極的に推進した中国はいうに及ばず、対策に出遅れたと非難を受け続けた英国でさえも、その後に盛り返しました。そして、その時々にどのような対策を取って来たかも、すべて論文にしています。自分たちが行ってきた施策の評価を科学的手法を用いて行い、学術誌の査読評価を受けて、正当な科学的知見として発表しているのです。第三者の厳しい目を通じて評価されているので、その施策の価値も十分に学ぶ価値がありますし、国情こそ違えど、応用できそうな部分が必ずあります。
それに対して、日本では時の宰相が、「日本モデル」などと言って自画自賛しましたが、それがどんなモデルなのかも学術誌に投稿されておらず、海外に「どうぞ日本オリジナルですよ。活用してください。」などと言える状況ではありません。
この投稿の目的は、世界で語られている知見を共有することにあります。「19世紀の遺物」のような学者であれば、自分が知りえた知見を独り占めすることをよしとするでしょうが、現在は21世紀です。さっそく、ここ数週間で出てきた知見について共有したいと思います。

すでに日本は第五波の真っただ中にいます。変異株の影響もあり、小児への感染も大きな課題となって来ています。この懸念は日本だけではなく、世界各国もそうなのです。

ここで、重要な論文が以下です。

Reconsidering Assumptions of Adolescent and Young Adult Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Transmission Dynamics
https://academic.oup.com/cid/article/73/Supplement_2/S146/5902518?login=true
*米国での、青年、若年成人層(10-24歳:Adolescents and Young adults:AYA)の家族内、地域での感染拡大寄与の可能性について幅広く論じたViewpoint論文です。Clinical Infectious
Diseasesという米国感染症学会の学会誌ですが、感染症業界では間違いなくトップジャーナルの一つです。圧巻の情報量です。
COVID-19の大流行の鍵を握るのは「無症候感染(Asymptomatic Infection)」として、AYAがその流行の鍵を握っているというのがこの論文の主張であり、そのメカニズムに関して分析、解説されています。
無症候性感染の率が高いとすると、症例の発見や隔離を難しくする可能性があります。有症状感染者と無症状感染者との間でウイルス量がほぼ同じであるという知見にも言及されており、AYAの感染者は無症状、軽症であることも多いため、AYAの対策は重要になってきます。この内容は、そのまま、日本の対策を考えて行く上で役に立ちそうです。ワクチン不足が叫ばれている日本ですが、若年者への接種を強化していく必要があることを切実に感じます。

ちなみに、最近あまり語られない無症候性感染に関しては、NEJM誌が重要な知見を掲載しています。米国空軍での厳格なプロトコール下での調査結果は、49%が無症候感染であるとの結果です。
Risk Factors Associated With COVID-19 Transmission Among US Air Force Trainees in a Congregate Setting
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2776903

また、世界的に最もEvidenceレベルが高いといわれているメタ解析による結果では、無症候感染の率は、約25%程度とされています。
Magnitude of asymptomatic COVID-19 cases throughout the course of infection: A systematic review and meta-analysis
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0249090

今更、PCR抑制論でもないことは世界のエビデンスが示しています。
これまで、手探りで数少ないエビデンスから進められてきたCOVID-19 対策はどんどんと知見が新しくなっています。新手の敵を前に、無謬性を求めるべきではなく、間違っていて当たり前であり仕方のないことなのです。しかし、今は、新たなエビデンスから時流に合った対策を進めていくべき時です。
今後も、新たなエビデンスを発信して行きます。

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