最新記事一覧

Vol.170 東京五輪の感染対策は有効だったか?

医療ガバナンス学会 (2021年9月3日 06:00)


■ 関連タグ

国際医療福祉大学医学部4年生
八塩知樹

2021年9月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

世界的パンデミックの最中に、国際的な大型イベントが行われたことはなく、その安全性に関して十分な情報はない。本稿では、東京五輪の安全性を検証したい。

【参加者数と感染対策】
東京オリンピックは7月23日から8月8日までの17日間行われ、選手11,656人、関係者約43,000人が参加した。
東京五輪の感染対策の中核は、ワクチン、検査、隔離である。
ワクチンについては、7月14日のバッハ会長の発言によると、選手及びオリンピック関係者のワクチン接種率は85%である。
検査については、選手と関係者の状況は異なる。選手は毎日の検査が義務づけられていたが、関係者は、毎日、4日に1回、あるいは7日に1回だった。7月1日から8月11日までに、67万件の検査が実施されている。
隔離についてはバブル方式の下で管理された。バブル方式とは選手や関係者の行動範囲を制限することで、一般市民と隔離し、感染を防ぐ方法である。国際オリンピック委員会(IOC)が作成した『プレイブック』によると、活動場所や交通手段の制限を含む最低限の身体接触、アプリも用いられた検査、追跡と必要時の隔離、換気などの衛生状態について考えることが柱とされている。ただ、関係者は「競技関係者」から「メディア」や「ボランティア」まで幅広く含まれるため、関係者の隔離の程度は、選手よりは遙かに弱い。
【感染者数】
IOCによると、選手の感染者数は28人、関係者の感染者数は512人であった。陽性率はそれぞれ0.24%と1.21%となる。
これは五輪開催期間の都内の感染率0.77%よりも少ない。十分な数の検査を実施していない日本では、多くの感染者、特に無症状感染者は見落とされている。大幅に過小評価されている都内の感染率を下回るのだから、感染対策は有効だったと言っていい。
選手と関係者は、ワクチン接種については同じだが、検査体制と隔離について、大きな差がある。これが、選手の方が関係者より約6割感染者が減った理由だろう。

【クラスターの抑制】
今回の検討で、特記すべきは、クラスターの発生が、ギリシャのアーティスティックスイミングチームの5人のクラスターの一件だけだったことだ。残る23例は、弧発例であり、チーム内での感染封じ込めが成功したことを意味する。
また、感染は特定の日に集中せず、大会期間中に満遍なく、感染が発生していた。これは、この期間に東京都内で感染者数が増加し続けたこととは対象的だった。前述の同一チーム内での感染拡大だけでなく、選手村での異なる国やチーム間で感染が拡大しなかったことを意味する。選手村での感染対策は概ね成功したと言っていい。

【濃厚接触者】
IOCは濃厚接触者と判断された選手に関して、試合直前のPCR検査で陰性であれば出場可能というルールを作成した。これは、濃厚接触者と判断された選手が、出来るだけ競技に参加出来るようにする救済措置だが、規制を緩和したことは、感染リスクを増大する可能性がある。
注目すべきは、競技後に感染が判明した選手は一人しかいなかったことだ。以上の事実は、今回の規制緩和により感染は拡大しなかったことを意味する。
ただ、IOCは濃厚接触者と判断された選手の数などの情報を公開していないため、今回の方法が実際にどの程度有効だったかは、今回の検証では十分に評価出来ていない。

【孤発例】
問題は、23例の弧発例の存在だ。彼らの感染源は明らかではない。ただ、このうち17人の詳細が公開され、16人が競技前または競技の日程中に陽性と診断されていた。選手や関係者が街中に出歩き、彼らが外部から感染を持ち込んだという指摘がメディアでなされたが、競技前に出歩くことは考えにくく、選手村で感染した可能性が高い。
これは、今回のワクチン・検査・バブル方式だけでは、感染を完全には抑制できないことを意味し、この方式の限界を示している。東京五輪での感染の主体はデルタ株だ。デルタ株は、ワクチン接種者も感染し、さらに周囲にうつす。東京五輪で採用された抗原検査は、無症状感染者では、PCR検査と比較して、4-6割程度を見落とすことが知られている。また、感染力が強く、その強さは水疱瘡程度という報告もある。感染経路の中心は、飛沫感染ではなく、エアロゾルによる空気感染であるため、バブル方式による隔離には限界がある。換気が不十分なら、選手村に入った掃除や給食などの業者が排出したコロナを含むエアロゾルを、あとで選手が吸い込む可能性があるからだ。真夏の日本では冷房が欠かせず、換気効率は不十分だ。19人の選手が競技に参加出来なかった事実を重く受け止め、感染対策の見直しが必要だ。

【総括】
今回の結果は、ワクチン・頻回な検査・バブル方式の隔離が有効だったことを示唆する。しかしながら、19人(0.16%)が棄権を余儀なくされたことは重く受けとめ、感染対策の見直しが必要である。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ