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Vol.185 感染症法上の新型コロナ届出義務を縮小すべき

医療ガバナンス学会 (2021年9月27日 06:00)


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井上法律事務所 所長 弁護士
井上清成

2021年9月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.感染症法上の医師の届出義務
コロナ禍が1年半以上にも及び、クラスター対策で保健所も疲弊し、現場の司令塔が保健所から医療者へと実質的に交替しつつある。今後は名実ともに医療者が司令塔となって、医療提供がより迅速かつ柔軟、機動的となっていくことであろう。
さて、新型コロナウイルス感染症は、2021年に法改正された感染症法において、新型インフルエンザ等感染症に分類し直された。
しかし、感染症法第12条第1項による厳格な届出義務は医師に課されてしまったままである(しかも、第77条第1号による罰金の刑罰付き)。
新型コロナに即して、感染症法第12条第1項の条文に当てはめれば、概ね次のとおりになっている。
「医師は、新型コロナウイルス感染症の患者(疑似症患者及び無症状病原体保有者を含む。)を診断したときは、厚生労働省令たる感染症法施行規則第3条(後述)で定める場合を除き、直ちにその者の氏名、年齢、性別、職業、住所、症状、診断方法、初診・診断年月日、病原体に感染したと推定される年月日(発症したと推定される年月日を含む。)、感染原因・感染経路・感染地域、まん延の防止及び当該者の医療のために必要と認める事項その他感染症法施行規則第4条第1項で定める事項を、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならない。」

2.新型コロナは届出義務を縮小すべき
しかしながら、現場の司令塔が医療者に交替し、一層増強された迅速かつ柔軟、機動的な医療提供がなされていくことの期待されている昨今、そのような厳格で煩雑な届出義務は、期待される医療提供を推進していくためには余り有益な義務とは思えない。そこで、厚生労働省令たる感染症法施行規則第3条を改正するなどして、届出義務の対象範囲を縮小していくことが、あるべきコロナ対策の方向性として有効適切と考えられよう。
現在、感染症法施行規則第3条には、新型コロナに関連するものとしては2つの届出除外事由が設けられている。1つは、関連の届出がすでに別の所でなされていることを、診断した医師が知っていた場合(第1号の定め)であり、これは重複届出を不要とするものでもあるので、当然のことであろう。もう1つは、新型コロナの疑似症の患者について入院を要しないと認められる場合(第3号の定め)であり、実務上、微妙なケースなので現場の医師にとって判断に悩むところで過重負担でもあろうから、これも届出義務から除外するのは妥当な定めだと言ってよい。
さらに、今後の医療提供のあるべき方向を考えると、さらに、より一層の除外事由を「第4号」として追加増補すべく、厚労省は感染症法施行規則を改正すべきものと思う。

3.医師の指示に従う限りは除外
新型コロナの患者なのにもかかわらず、医師の指示に従わず、入院も(宿泊・自宅)療養もしないような人に入院強制や就業制限をさせる必要があったり、または、医師がいくら患者の入院・宿泊療養の調整をしても、入院先や宿泊先の都合で入院や宿泊に甚だしく困難を来たしているが、どうしても入院や宿泊をさせる必要があったりする場合は、確かに、医師が感染症法第12条第1項の届出をして、知事(保健所)に対して、当該患者への強制措置を発動してもらったり(前者のケース)、当該入院先や宿泊先を説得して患者の受入れを促してもらったり(後者のケース)するのが必要不可欠である。しかし、その他の場合には、どうしても届出を義務化する必要性は(例えば、全数把握などの公衆衛生上の必要性などであっても)、現在のコロナ禍の拡大化・長期化した状況では、もはやさほどのものとは思えない。
そこで、たとえば次のような規定を、感染症法施行規則第3条第4号として、届出義務の除外事由として追加改正することが考えられよう。
「4号 医師が診断した新型コロナウイルス感染症の患者について、病院もしくは有床診療所に入院し、もしくは、宿泊施設に宿泊療養し、または、自宅療養するなど、当該医師の指示に従っているものと認められる場合」
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