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Vol.189 家庭内療養は、最良の対策ではない

医療ガバナンス学会 (2021年10月4日 06:00)


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帝京大学大学院公衆衛生学研究科
高橋謙造

2021年10月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2021年8月20日の段階で全国で25,000人を超える感染者が報告されていましたが、9月下旬になっての1日の感染者数は1/10以下にまで減少してきました。ですが、第5波をもってCOVID-19の波は終わりではありません。我々は今回の第5波までの対策の瑕疵を考え、第6波に備える必要があります。第5波では医療施設の入院対応が限界となり、多くの人が家庭内療養にならざるを得ませんでした。重症者対応用のベッドを確保するために、家庭内療養を多くの感染者に強いると言う対策は、果たして有効なのでしょうか?世界の経験を共有してくれる論文から見ると、この対策には問題があります。家族内感染が感染拡大の一因であることが、複数論文から明らかであり、家庭内療養は家庭内感染の温床となりうるからです。

European Review for Medical and Pharmacological Sciencesという雑誌には、“Deep thought of COVID-19 based on Diamond Princess’s quarantine and home quarantine”という論文が2020年の4月に掲載されており、中国武漢での感染初期の状況が記録されています。この論文では、「政府が家庭内隔離を開始してから感染者が増加した」と明記されています。日本の今の状況にそっくりです。政府の対策として、1,000床規模の病院である火神山医院、雷神山医院等が2020年2月に急造され、中国全土から招聘された33,000人弱の医療従事者の協力のもと、COVID-19患者が収容されたと記録があります。この論文では、「家庭内隔離は、信頼に足る方法ではないと考える。」と結論づけています。これら、火神山医院、雷神山医院等は、その後2020年4月中旬に患者数が十分に減少したため約2ヶ月で運用が終了しています(この対策は、SARSで活躍した老医師(既に80代)である鐘南山医師の提言に基づき、行われたそうです)。

また、Annals of Internal Medicine誌には、“Contact Settings and Risk for Transmission in 3410 Close Contacts of Patients With COVID-19 in Guangzhou, China : A Prospective Cohort Study”という論文で、広州での2020年1月3日から3月6日までの感染状況のまとめが報告されています(2020年12月発表)。ここでは、家庭内感染が主であるとの記載があります。

一方、中国以外に目を移すと“Transmission of SARS-COV-2 Infections in Households – Tennessee and Wisconsin, April-September 2020”という米国の論文が、米国CDCが配信元であるMMWR(Morbidity and Mortality Weekly Report)において、2020年10月30日に発表されています。テネシー、ウィスコンシン州での事例分析で、「家庭内感染は一般的であり、初発患者の発症直後から発生しうる。」と結論づけられています。

更には、最もEvidenceレベルが高いと言われているシステマティックレビュー/メタ解析論文 “Household Transmission of SARS-CoV-2 A Systematic Review and Meta-analysis (JAMA Network Open誌)” において、54論文(77,758名対象)のメタ解析結果から、家庭内での二次感染率は16.6%であるとし、「家庭内は、もっとも深刻な感染場所である。」と結論付けられています。コミュニティ内での感染が減少している場合においても、家庭内感染には注意すべきであるとも論じられています。この論文が発表されているのは2020年12月14日です。

以上のように、多くの論文は2020年のうちに出版されています。論文においては、新規性と言う評価視点があるため、家庭内感染というエビデンスは、よほどその内容が覆されるような新事実が出ない限り、後追いの論文が出版される事はあまりなく、ほぼ既知の知識となって行きます。
つまり2021年の段階で、「家庭内感染には留意すべし!」が世界共通の教訓となっていたのです。しかも、これらの論文は、ほぼ全てが無料でダウンロードでき、どんなに忙しくとも、その気さえあれば読むことができます。その観点から考えると、日本の現状は世界の動きに逆行しているとしか思えません。実際に、デルタ株の影響下、小児への感染は増加しました。毎日新聞の2021年9月20日の報道によれば、3~18歳の感染者は計10万2759人。うち感染場所が特定できた1万5619人を分析すると、自宅での感染割合が最も高く、75.1%の1万1724人だったとのことです。
https://mainichi.jp/articles/20210920/ddm/041/040/050000c
ところが、少なくとも田村厚生労働大臣の説明では、家庭内感染のリスクには言及されていません。「家庭内感染は考慮に値しない。」と言うのが今回の判断であれば、その根拠を知りたいと切実に願います。文献を示していただきたいです。

政府中枢の現状把握能力を憂いていても仕方がありません。感染者数が落ち着きつつある昨今、取るべき対策について考える必要があります。家庭内療養を回避して、感染者増加を抑える事が必要です。そのためにはどうすればいいか?この回答は既に中国が出しています。感染者を収容しうる大規模施設とそこで働く医療従事者の確保です。既に大阪府が乗り出しているようです。先駆けて、成功事例を作っていただければと願います。現実離れした事を言っているのではありません。現実の成功事例の事を言っているのです。

さらには、危機管理においては、最悪の事態を想定して早く動く必要があります。冬場の11-12月には、インフルエンザの流行可能性も考えなければなりません。政局などと言う絵空事にうつつを抜かしている暇があったら、現実的な危機対応に動くべきです。世の中には政治や老害の利権より大切なものがあります。人の生命です。

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