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Vol.191 今、大麻草栽培について考える ~分別(ふんべつ)を取り戻し貴重な文化と遺伝資源を守れ~

医療ガバナンス学会 (2021年10月6日 15:00)


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日本麻協議会事務局代表
若園和朗

2021年10月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

厚労省監視指導・麻薬対策課は 9 月 10 日、日本の大麻草の伝統を守る立場にある私達にとってうれしい通知を各都道府県に出しました。「伝統的なわが国の大麻草生産は存続の危機を迎えており、保護すべき」と解釈できる内容の通知です。(参 1)

この通知は、今年 1 月から 8 回にわたって行われた「大麻等の薬物対策のあり方検討会」(以下、「検討会」)の結果を受けて出されたものです。この「検討会」では、私達がかねてより主張してきた「日本在来の大麻草は、濫用の原因物質である THC の含有率が低いマリファナなど薬物として用いられることのない無害品種であり、歴史的にも日本人は濫用してこなかった」ということが確認されました。そこで、有害な高 THC 大麻草と無害な日本の低 THC 大麻草を区別し合理的でない規制は見直すべきとされていました。(参 2)

■身勝手なマリファナ解放論者

では、なぜ不合理な規制がなされるようになったのでしょう。それは法や制度の不備、行政の怠慢という見方もできるかもしれません。
しかし、一番の原因は、大麻草栽培免許申請者の中に、薬物としての大麻、すなわちマリファナ濫用を広めようと目論む輩(いわゆるマリファナ解放論者)が制度の不備などにつけこんで紛れ込もうとするようになったからと言えるでしょう。

そのため正当な目的の大麻草生産者やその希望者にまで疑いの目が向けられるようになってしまいました。こうした傾向は 2000 年ころから始まり、例えば 2011 年には大麻草栽培免許の取得経験のある人物が濫用目的とみられる大麻を所持していたとして逮捕されました。2016 年には、鳥取県で「まちおこし」を理由に大麻草栽培免許を取得した人物とその仲間が、有害大麻を吸引するという事件が起こり、同県内では完全に大麻草の栽培が禁じられることになりました。(参 3)

そのあおりを受け厳しい規制が全国に広がりました。大麻草生産が特産品になっている栃木県鹿沼地方でも、それまで続けられていた高校での大麻草栽培実習が取り止めになるなど後継者の育成も滞るようになりました。(参 4)

このように、マリファナ解放論者の身勝手な行動が、大麻草生産のイメージを貶めるとともに行政側を規制強化に走らせ、わが国の大麻草の伝統を窮地に追い詰めてきたといっても過言ではありません。

■大麻草栽培規制見直しにおける保健衛生上の危害

これまで述べてきたようにわが国の伝統的大麻草栽培は濫用と無縁です。従って日本の大麻草栽培への規制をいくら緩めても保健衛生上の危害には直接的には結びつかないはずです。
しかし、そう単純にはいかないのが現実です。今の日本では、大麻といえば濫用薬物としての大麻(マリファナ)の印象が強く、薬物でない日本の大麻草とマリファナを区別して考えることができる人はほとんどいません。そんな中で今回の通知内容が報道されたことで混乱し、「マリファナの害は大したことがないから規制が緩和された。かつて日本人はマリファナを吸っていた。」などと間違ったイメージが広がり濫用を助長してしまう可能性があるからです。こうした混乱に乗じて「日本の大麻文化を知ろう」などと称しながら仲間を増やそうとするマリファナ解放論者やその擁護者の動きも活発化しており心配しています。

私達日本人は、戦前には下駄の鼻緒、畳の経糸、かやぶき屋根の下地素材など生活必需品の原料として無害な低 THC 品種の大麻草を自由に生産していました。一方で海外から入ってくる有害な高 THC 大麻草は印度大麻草などと呼びマヤクに指定し規制していました。
当時は、濫用の原因物質が THC であることは理解されていませんでしたが経験的に害の有る無しを判断する分別を我が国の社会は持っていたのです。今後、大麻草の伝統を守っていくためにはこうした分別を日本社会が取り戻す必要があります。

■無くした分別を取り戻し農業として再興させる

分別を取り戻すためには、「検討会」でも指摘されている通り、早急に THC の含有率に着目した規制を定めるべきでしょう。そしてマリファナ解放論者の紛れ込みを防ぐため、分別ある栽培希望者のみが大麻草の生産を許される仕組みを整えることが大切です。そうしたことを通して有害無害の分別が一般国民にも理解されるようになれば、当たり前の農業として大麻草生産は復活していくことでしょう。

合掌造りの屋根下地、栗駒の正藍染め、横綱の綱など、わが国の大切な伝統文化継承に必要不可欠な大麻草。また、わが国の大麻草は無害かつ日本の気候風土に合ったかけがえのない貴重な遺伝資源です。更に、世界に目を向ければ低 THC 品種の大麻草は、多くの国で産業用大麻(Industrial Hemp)と定義づけられ、化石資源に代わる循環型資源と期待され生産は拡大しています。にもかかわらず、わが国の正規の大麻草栽培者は、全国でわずか27 名(令和 3 年)。まさに存続の危機を迎えています。ですが、今回の通知を受け、大麻草生産者へ企業からの問い合わせが増えるなど復活の兆しも見えてきました。

我が国は、他先進諸国に比べ、大麻(マリファナ)を含む規制薬物の生涯経験率が格段に低い優れた状況にあります。それは、日本に住むほとんどの人が、痲薬の害、つまり薬物で快楽を得ることの恐ろしさや虚しさ、不衛生さを直観的に理解できているからだと思います。このような真面目で健康な国民性を未来につなぐことは、ともすると濫用に用いられることがある大麻草に関り大麻草を語る者の義務だと私はとらえています。(参 5)

私達は、この通知や「検討会」の趣旨を活かし、有害無害の分別を取り戻し日本の大麻草の佳き伝統を守るとともに発展させていきたいと考えています。そのため規制薬物としての大麻は、今後「マリファナ」等と表記され一般産業用の大麻草とは別物であることが世間に理解されるよう願っています。皆様のご理解とご協力をお願いします。

参考 URL
(参1) https://www.tokyo-np.co.jp/article/130287
(参2) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syokuhin_436610_00005.html
(参 3) https://www.pref.tottori.lg.jp/259505.htm
(参 4) https://mainichi.jp/articles/20170603/ddl/k09/040/166000c
(参 5) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000031ehd_00005.html

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