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Vol.192 コロナ感染者数シミュレーションについての疑問

医療ガバナンス学会 (2021年10月7日 06:00)


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東京理科大学基礎工学部名誉教授
山登一郎

2021年10月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

先のメルマガ9月24日Vol.184、東大・大澤氏の「ブースターのタイミング:厚労省様、「8ヶ月後」では遅いです!」( http://medg.jp/mt/?p=10533 )の投稿を読ませて頂きました。これまでコロナ感染症流行について、専門だった微生物学における連続培養モデルを基に解析していました(4月12日 Vol.069 (  http://medg.jp/mt/?p=10224  )、Vol.070 ( http://medg.jp/mt/?p=10226  ))その観点から、こうしたシミュレーションに疑問を抱いていましたので、本メルマガ上でシミュレーションに関する議論も許されるなら、日頃の疑問点を投稿させて頂こうと考えました。大澤氏の記事とは無関係に、シミュレーション研究一般に対する疑問・問題意識などを投稿させて頂きます。他の読者の方も、報道でシミュレーションなどを見る際に参考になると思います。

多くの方のシミュレーションがSIRやSEIRモデルを基にしています。感染可能S、潜伏期E、感染力保有I、回復状態Rですが、これらを未感染S、潜伏E、有症感染F(発熱症状)と無症感染I、回復Rと読み替えてもいいと思います。新規感染者のうち有症・無症割合は、これまで私は2:8としていましたが、8月31日Vol.167 ( http://medg.jp/mt/?p=10483 )に挙げた分科会メンバーのネット記事によると、7:3としています。日本人の場合の実際の調査データはまだ無いと思います。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210822-00254353
簡単のために、有症者Fは発熱マークがあるので、行政・保険適用検査を受けて隔離されるとします。無症者Iは無症状のため、市中に15日~20日滞留します。

SEIRモデルでの解析では、本来F+Iを全Iとして解析すべきはずですが、むしろその全Iを無症感染者数Iと捉え、そのIのサンプルとして、公表される新規感染者数(有症)Fの情報から実効再生産数を算出してシミュレーションしているように見受けられます。つまりFとIの区別が曖昧模糊としていて、シミュレーション結果の解釈が意味不明です。そのことは、隔離の効果を考慮していないことにも関連しています。

もちろん公表新規感染者数(Fと一部のI)がF+Iを反映していることは認めます。でもまず、先の分科会メンバーの解釈は、Vol.167で指摘批判したように、公表新規感染者数がFと全新規無症感染者数の合計を示していると主張しているように受け取れました。もしそうなら全新規感染者が特定隔離されていることになり、感染はすぐ縮小します。その後の感染者は、どこかから魔法で生まれるとでも考えているのでしょうか。そんな間抜けなことはなく、当然無症感染者は有症者と独立に生まれ、無症状のために市中に滞留しているはずです。
ですから、意味のあるシミュレーションをするためには、そのIの推定値や、特に市中無症感染者数拡大の実効再生産数情報も別途必要なはずです。それはモニタリング検査なり民間自費検査の陽性率から推定可能です。しかしその情報は公表新規感染者数情報には見えない化されたままです。おまけに、Fおよび、Iのうち陽性特定できた無症者の隔離の効果もシミュレーションに取り入れない限り、意味のある情報が得られないと恐れます。

ワクチン効果などを取り入れることも重要かもしれませんが、第5波の拡大縮小を見ると、人流など国民の行動抑制の効果が最も重要そうだと思われます。これまでのように、実効再生産数一定のシミュレーションでは論外、AI学習を取り入れてさえ、とても恣意的な結果になってしまっているのではないかと心配します。(もちろん実効再生産数一定にすることなどで、ワクチン効果だけを明示的に示すことができます。しかし、一般の読者はワクチン効果だけを示すとは捉えず、グラフの形全体からの感染状況予測と見なします。おまけに、ワクチンによる無症・有症割合の変化も当然予想され、さらにIとFの区別や隔離の効果も加わることで、実効再生産数にAI学習を取り入れても、ワクチン効果が異なった姿に予測されたりすると心配します。)

一般にシミュレーションする研究者の方々には、公表新規感染者数情報だけでなく、是非市中感染状況を反映する民間自費検査の検査数や陽性率などの情報を収集取得して、有症・無症者区別をしつつ隔離の効果も取り入れたシミュレーションをして頂けることを願います。または、有症Fと無症Iを区別し、有症部分だけでも日々新規感染者として隔離されるとするシミュレーションの方が、実際に近いと考えられます。さらに、使用する実効再生産数を有症と無症区別無く同じで一定なりAI学習にしてしまうとしても、シミュレーションスタートの数は、隔離されてしまう有症者数Fではなく、市中の無症感染者数Iを用いない限り、シミュレーション結果を整合的に解析できません。
翻って、どうして現公表新規感染者数情報だけを用いて算出した実効再生産数と公表新規感染者数をスタートにしたシミュレーションが妥当なのか、いつも疑問に思っています。前述しましたが、やっていることはFとIの混同に思えてしまいます。Iについての情報が不可欠なのではないでしょうか。私が誤解しているのかもしれませんが。
論理的に妥当で的確なモデルと情報を用いてこそ、科学的な解析が可能であり、科学的なコロナ感染症対策に至ることができるはずです。
ここで指摘した疑問・問題提起の根本原因が、厚労省なり分科会が制度設計した公表新規感染者数情報中に、市中無症感染者数を反映すると考えられる民間自費検査情報の収集公開が欠落しているからだと考えています。早くその検査情報の収集公開を期待しています。

例えば、本メルマガ8月19日Vol.158( http://medg.jp/mt/?p=10458 )に挙げた例を用います。8月上旬民間の木下グループPCR検査センターの陽性率3%、都では40万人の市中感染者数と推定できます。当時の公表新規感染者数は5000人レベル、そのほとんどが有症者でした。本来は、この40万人レベルの感染者数の消長をシミュレーションすべきでしょう。それなのに、一般に行われているシミュレーションでは、この5000人レベルのシミュレーション予測をしただけです。政府自治体行政専門家報道そして国民すべてを誤誘導することになったのではないかと危惧します。
このことは、当初の京大シミュレーションはじめ、大抵のシミュレーションの報告に対して抱いている私の最大の問題意識です。実際の状況に対応する的確な情報と論理的モデルに基づかない限り、数値だけを示すことの危険を孕んでいると思います。コロナ感染症の特徴をしっかり理解し、考えられる詳細な情報を過不足無く収集し、その上で特徴を的確に表現するモデルによる解析が、科学にとって絶対条件なのではないでしょうか。
厳しい批判なのかもしれません。素人からの不当な言いがかりなのかもしれません。シミュレーション専門家からのご指摘やご教示をお願いします。これだけ世界中が、そして日本国民も大きな被害を被っているのです。自分を含め、皆で真剣に議論して、最適のコロナ対策の道を選べることが、とにかく最重要だと信じています。

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