最新記事一覧

Vol.158 科学的コロナ感染症対策に向けて:福井県ではマスの療養施設準備、報道ではやっと民間自費検査情報の重要性に気付き始めた

医療ガバナンス学会 (2021年8月19日 06:00)


■ 関連タグ

東京理科大学基礎工学部名誉教授
山登一郎

2021年8月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

本メルマガに、日本では市中感染者状況情報を隠蔽したままであることを何度も批判してきました。民間自費検査情報を収集公開、国民と情報共有して、感染縮小に必要な検査数を提示して国民の協力を仰ぐことで科学的コロナ感染症対策になることを提案してきました。あとは陽性判明者の隔離のための、マスの療養施設準備を提案しました。本メルマガ、6月25日付けMRICのVol.121「非科学的なコロナ感染症対策からの脱皮:科学的対策手順の提案」http://medg.jp/mt/?p=10357 を参照して下さい。そして、やっとそんな方向に少しずつ近づきつつあるように感じ、期待しています(8月14日)。

まず、福井県は体育館を利用して、野戦病院の如きマスの療養施設を、無症状および軽症感染者のために準備したとのことです。都も見習って頂きたいと願います。
https://jcc.jp/news/17486131/

次に、公表新規感染者数情報中、陽性率22%と高くなっています。感染していそうな人を選びに選んで検査した結果のそんな陽性率など意味がほとんど無いはずなのですが。ところが政府自治体専門家報道皆が、公表新規感染者数を市中の感染者数全数とも勘違いした思考をし、かつその陽性率の高さを問題視しています。そんなことで科学的な対策などとうてい無理だろうと思われます。さてネット上、その錯誤、欺瞞性に対する示唆が掲載され、やっと改善されそうな期待を膨らませています。
( https://news.yahoo.co.jp/articles/cbc7ffdf4069a76bb0026c6fd388296efc6f65eb )
この記事によると、厚労省がやっと最近民間自費検査件数や陽性率を収集公開し始めたようです。都では、8月1~7日の週46万件、陽性率3%くらいとか。行政検査は週58万件、陽性率22%近いとか。その3%が市中感染率を反映していると考えると、都人口14百万人のうち、40万人が市中感染者として滞留していることになります。先のMRICのVol.150  http://medg.jp/mt/?p=10433  に警告した数値そのままです。つまり公表新規感染者数5000人の約80倍が市中感染者数なのです。これは周囲の30人に一人が感染者という割合に当たります。

さて、次に、この市中感染率を反映すると考えられる陽性率がやっと公開されたので、その3%を利用して科学的分析を展開してみます。

1.都では日に民間自費検査数46万/7≒7万です。陽性率0.03、そこで7万×0.03≒2000人が日ごとの無症状陽性判明者と計算されます。彼らは再度公的検査を受診して陽性確定、公表新規感染者に計上されます。都では日々公表新規感染者数5000人程度なので、5000-2000=3000人が新規の有症感染者数に当たります。感染者の2割が有症だとすると(精度の高い見積もりが必要ですが)、市中の全新規感染者数は15000人になります。特定されない無症状者は市中に滞留して感染源になっていますが、自然治癒して感染源にならなくなるまでに感染後20日かかるとすると(この日数も再度調査見積もりが必要ですが)、(15000-5000)×20日=20万人が市中感染者数と計算されます。
ところが都の陽性率と都人口から40万人が市中感染者と推定できますので、確実に検査が足りていないことになります。

2.つまり、行政・保険適用検査を受診する有症者以外にも多くの有症感染者がまだ市中に待機している状態ではないかと恐れます。結局有症者のすべてを検査すらできず、ひょっとして市中にいて重症化してしまう状況を放置していることになっているのかもしれません。もちろん都民に協力を仰ぎ、民間自費検査も積極的に受け、公的検査で陽性確定し、 全員が療養施設に入院隔離して安全に療養できるようになって頂きたいと願います。そうすれば、徐々に40万人の感染状況から感染縮小に向かうことになると期待できます。

3.さてもし20万人を定常状態で維持していると仮定した場合、民間自費検査がどの 程度必要かを試算してみます。(MRICのVol.069 http://medg.jp/mt/?p=10224 と070 http://medg.jp/mt/?p=10226 を参照頂きたく存じます。)倍加時間λを7日とします。この倍加時間は日々の市中感染者数の増加速度から計算できるはずですが、今回7日と仮定します。すると20万×0.2×0.7/λ=4000人の有症感染者発生を定常的に維持することになるはずです。D=0.7/λ-1/αでαを20日とすると、D=0.05となり、この4000人は行政・保険適用検査で陽性確定隔離されます。
そして無症者の希釈率は0.8×0.7/λ-1/20=0.03、20万×0.03=6000人ずつの無症者特定が必要となります。陽性率1.5%(=20万/14百万)なので、6000/0.015=40万件もの民間自費検査が必要です。20万人や40万人になってしまった市中感染者数に対しては、もはや検査件数増加だけではコントロールできないのかもしれません。

4.もし7月中旬のオリンピック前の感染状況、公表新規感染者数1000人レベルならどう
でしたでしょうか。700人有症者で定常状態になると仮定します。
すると、700/0.2=3500人が市中全新規感染者数であり、(3500-700)×20=56千人の市中感染者総数と算出されます。λは11日となり、D≒0.014、無症者の希釈率は0.8×0.7/λ-1/20≒0.001と計算され、56千×0.001=56人ずつ無症者特定が必要となります。市中感染率が56千/14百万=0.004なので、陽性率0.4%で民間自費検査を行うことになり、必要検査数は56/0.004=1.4万件となります。これならば、十分現行体制で対応できたはずです。民間自費検査はすでに日に10万件できるのですから。
そしてこれ以上の民間自費検査を国民に協力して頂ければ、その分だけ無症状の市中滞留感染者を余分に特定隔離でき、感染縮小に貢献できることが分かります。これが科学的な政府自治体専門家が行うべきコロナ対策のはずです。決して緊急事態宣言や時短や休業や自粛など、国民側への要請などではないと告発したいと思います。

5.以上をまとめます。科学的コロナ対策です。Vol.121 の繰り返しですが。
7月下旬頃の感染状況において、公表新規感染者数として例えば800人などと低く見積もった数値で誤魔化さず、単に都に約6万人もの市中感染者数がいることを情報収集して公表していれば、国民は十分に気をつけて行動し、かつもし人流と倍加時間λとの相関を前もって調査分析さえしていれば、国民に対して科学的に検査奨励・協力を仰ぎ、必要検査数を提示することで、感染をコントロールできたはずなのです。

では、検査でコントロールできなくなった現状ではどうすべきでしょうか。やはり都内には40万人もの市中感染者が滞留して感染源になっている情報を公開し、都民と情報共有して、協力を仰ぐことが日本では可能であり、有効だと信じます。するとまず都民は自主的に行動抑制して、すぐに人流減、倍加時間λを現在の数日(マスク無し、ハグや握手が普通だった頃の欧米並み)から、ラムダ株であっても、普段の日本の倍加時間の10日程度に抑えるように協力してくれると期待します。つまり情報収集、公開が重要ポイントだと提案しておきます。そして当然民間自費検査補助や無料PCR検査拡充で、できるだけ多くの無症状感染者を特定し、マスの療養施設に隔離保護すれば、感染縮小できるはずです。

政府自治体専門家が、緊急事態宣言一点張りではなく、このような科学的対策を採用して感染縮小に協力して頂けるように願っております。お盆明けでも感染急拡大せず、しっかり感染状況をコントロールできて、パラリンピックは有観客で迎えられるようになることを祈っています。

追記:さて、ちょっとついでに世間話を追記しておきます。どうして民間自費検査情報を厚労省や政府自治体専門家が無視する制度設計にしたのだろうと想像しました。日本医療界の重症者重視の基本方針から、どうして軽症者軽視のあの37.5度以上4日以上発熱という検査受診制限が発生したのかと同様、証拠はなかなか提示できないのですが、想像した私見を述べます。

あの37.5度の検査制限は、厚労省や専門家会議のコロナ対策で、患者はコロナ感染症以外はいないと思い込み、そこでコロナ軽症感染者は自宅で待機して頂けばいいと判断したからだと想像しました。患者がコロナ感染者だけなら、十分それで論理的ですが、実は発熱にはいろんな病気があり、彼らは検査も受けられず、だからコロナ軽症者も出歩いて感染拡大させ、結局4日以上感染源を野放しにしてしまうことになったのだと思います。つまり、検査制限を設けた専門家たちの思考の狭量さなのか、単なるうっかりなのかに由来すると想像を逞しくしました。真相を知りたいのですが、今のところ分かりません。

さて、民間自費検査無視はどうでしょうか。これも私的な想像でしかありません。しかしこれだけ国民が困窮し、迷惑を被ったのですから、やはり原因を追及して欲しいと思います。
まず、第一波の途中、昨年5月、都の医師会有志のおかげでPCR検査センターができ、行政検査制限を回避できるようになりました。医師主導の保険適用検査が普及しました。それらが公表新規感染者数として情報公開されています。その間、各種報道番組などで、中国・韓国やニュージーランドやニューヨークを見習って、“誰でもどこでも検査”をするよう強く要望していました。きっと専門家会議も、第一波のあと、そうした検査拡充方向への反省をしていたと考えます。
ところが丁度プロ野球やサッカーなどが夏前に開幕スタートし始めました。彼らは限定的な自主的自費定期検査を条件に開催を申し出て許可されました。そんな動きが民間で盛んになり、きっと厚労省も専門家たちも、その“誰でもどこでも検査”を民間に任せるのが効率良さそうだと思ったのではないでしょうか。本当のところを知りたいと思いますが。そこで、厚労省は、民間自費検査の陽性判明者は、再度行政検査を受診して陽性確定するような制度設計にしたのでしょう。この時の彼らの頭には、多分報道で「検査、検査。検査拡充」と叫ぶので、“誰でもどこでも検査”の制度を提供することだけしか思い浮かばなかったのではないかと想像しています。担当者に真相を尋ねてみたいものです。つまり、民間で検査した結果の情報のことは念頭に浮かばなかった、あるいは無視したのでしょう。12月には新橋で市民に対する民間自費検査がスタートし、年末までに拡大し、今に至ります。ところがずっとその検査件数も陽性率もどこも収集せず、公開もしてこなかったのです。厚労省の当初の制度設計からは、そんなことはすっぽり抜け落ちていたのだと想像します。

年初の急拡大の分析で、そのことに思い至り、1月以来、厚労省、都庁、分科会、報道各社はじめ広域PCR検査を実施した広島県なども含め、いろんなところに検査情報の収集公開を訴えましたが、なしのつぶてでした。その後この医療ガバナンス学会に投稿させて頂いて何度かこのことを繰り返し訴えました。そして今回の初めに書きましたように、ネット上でやっと他の方がこの情報隠蔽に気づいたようです。厚労省も8月から民間自費検査情報を収集し始めたようです。今後日本では、ここで提案したような科学的なコロナ対策が可能になりそうな兆しが見えます。大いに期待したいと思います。ワクチンと科学的コロナ感染症対策により、日本ではしっかりコントロールしつつ、生活を普段通り暮らせるようになりますよう、祈っております。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ