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Vol.070 新型コロナ感染症の感染状況を微生物学の培養工学における連続培養法との類似性から分析する(2/2)

医療ガバナンス学会 (2021年4月12日 15:00)


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この原稿は長文のため2回に分けて配信いたします。以下よりオリジナル原稿を全文お読みいただけます。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2021_069070.pdf

東京理科大学基礎工学部名誉教授
山登一郎

2021年4月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

III.連続培養モデルから見たコロナ感染症

連続培養との類似性に基づく考察を述べる。
培地の栄養状況は、人々の接触密度に対応している。人が密ならば感染確率は高く、感染者濃度が上がる。また国民性により、密な接触確率の高い欧米のような生活習慣の国民(=富栄養培地とも喩えられよう)もいれば、片やマスク・お辞儀・握手無しの接触確率の低い日本のような国民(=貧栄養培地)もいる。当然後者では、感染確率は低くなり、感染者濃度は低いだろう。コロナウィルス にとって、日本人は増殖するには不都合でいやな(美味しくない)国民に見えているようだ。その上、緊急事態宣言などで接触削減が追加されれば、培地の栄養濃度が下げられたと同じで、増殖に不都合だろう。
ちなみに、欧米では接触が密で、λが短く、例えば3.5日などにもなるのだろうか。するとD = 0.2 – 0.05 = 0.15にもなり、定常状態を維持するために行う検査&隔離の必要件数が、日に国民人口の6分の一ほどにもなってしまい、実際に実行することはほとんど不可能になる。多分この違いが、欧米で多数検査をしているにもかかわらず感染拡大してしまう原因だと推測する。逆に日本では必要検査数は少なくて済みそうなのに、これまでの政府自治体行政の検査への取り組みはとても消極的だったと残念に思う。

そしてII-1.の定式化から、有効なコロナ感染症対策が明確になるのではなかろうか。D = ln2/λ- 1/αを参考にして頂きたい。
αに対しては、薬の発見が寄与するだろう。医師や製薬企業の役割と考える。特効薬や予防薬などができれば治癒・感染無効化時間αが0方向に減少し、結果としてDが負になり定常状態が得られない、つまり感染は0になる。また療養施設の準備や医療体制の整備は当然政府自治体行政の役割だと注意しておく。
λに対しては接触削減が有効で、マスクや会食回避など国民の協力が必要である。これまで日本国民は頑張っていると思われる。もちろんロックダウン や自粛強化は感染抑制に貢献するが、これまで政府自治体はそんな措置ばかりで国民を困らせていないだろうか。
国民の国民性・生活習慣のお陰で、λも比較的長く、そのお陰でDがある値で定常状態を維持できていると推察できる。ここで定常状態を低くし、感染縮小するためにも、検査と隔離が重要なファクターである。これは政府自治体など行政の役割だと考える。ところがGoToキャンペーンや罰則導入などはきっと感染拡大アクセルになって、λを短くし、Dを増大させ、定常状態レベルを高止まりにするだろう。また検査を絞れば感染は拡大してしまう。
IV.コロナ感染症対策の提案

コロナ感染症対策の一般化をすることができる。
1)まず政府自治体などは的確詳細な感染状況の把握とその公開をすべきであろう。そのためには、この連続培養との類似性は大変参考になる。よく理解し、しかも上述したようにそれぞれのファクター、α、λ、Dなどの項目に対する対策方法を十分熟知しておくことが前提となる。
その上で民間自費検査なりモニタリングの検査数と陽性率(感染者数情報を推定するため)、現在も公表されている新規感染者数情報(隔離感染者実数を知るため)、その他病床数と死者数や人流データなどを揃えて、国民に公表するべきだろう。
2)政府自治体行政は(i)αの改善のための医療体制や薬・ワクチンの開発、(ii)Dに対し、検査の拡充と隔離のためのマスの療養施設の準備を実行するべきだろう。ただ、検査については、大都会ではすでに民間自費検査が普及しているので、その情報を公表新規感染者数情報中で“見える化”すればいいのだと思う。地方都市圏では駅前などで千件レベルのモニタリングPCR検査を行うのが有効だろう。どちらからも大事な陽性率γについての情報を得られる。ついでに保健所機能の補強もできるなら行うべきだろう。
3)国民は従来通りの緩い自粛だけで十分だと期待する。マスク、手洗いに励み、接触もできるだけ避ける。もちろん検査にも、ワクチン接種にも協力してほしい。
これまでのような緊急事態宣言や時短要請などは国民を困らせるだけだと批判したい。流行時には、上記のような的確な感染状況情報を正確に伝えるだけで、行政側が検査数の上下でDを左右して定常状態レベルを探り、国民は自主判断で自分たちの自粛行動に緩急をつけてλを変え、流行を抑制できると期待する。
4)最近変異株ウィルスが騒がれている。その場合も同様だと思う。もし変異株それぞれの性質が分かり、また個別の感染状況情報を得られるなら、α1、α2、λ1、λ2、D1、D2として個別のコントロールができるだろう。
5)これらの情報データを用いて、それぞれ定常状態かどうか判断する。
定常状態ないし縮小傾向の場合は見守るか、追加して民間自費検査なり無料PCR検査を拡充して 無症感染者をさらに特定隔離していく。
定常状態より拡大傾向なら、II-1.やIIIに挙げた対応策を行う。つまりできれば感染拡大曲線から倍加速度λを出す。予測できる定常状態レベルを算出し、必要な検査数を民間自費検査なり無料PCR 検査で確保する。また住民に、感染状況情報を提示しつつ、少しより強い自粛的生活をお願いし、λを長くして頂く。もし可能なら、感染拡大傾向の強い特定地域のPCR検査サーベイランスを実施して無症感染者を特定していく。もちろん高齢者施設や医療機関などの定期的なPCR検査チェックは 継続する。
このような対策だけで、国民は十分対応してくれると期待する。もちろん感染状況情報はすべて常に公開し、国民と共有する。
6)最後の手段として、大変な拡大局面では、緊急事態宣言などでλを強制的に長くして頂く方策もあるだろう。しかし その被害は甚大だと心配する。
V.現在のコロナ感染症対策の問題点

連続培養モデルによれば、人の接触頻度削減と検査&隔離による希釈効率上昇が有効な感染抑制策のようである。これまで接触削減主体の対策が中心で、社会経済被害を甚大にしてしまったと残念に思う。諸外国では検査&隔離で感染者数縮小を目指して、多くで成功している。日本の行政も見習うべきだろう。

特に、これまで大規模モニタリング検査も“誰でもどこでもいつでも”検査も行わず、やっと普及した民間自費検査についても、その検査数や陽性率の情報を一切収集せず公開していない。例えば、東京の例で推定したように、その検査件数はすでに万のレベルを大きく超えているほど普及し、そのお陰で第二波も第三波も感染縮小定常状態維持に至ったと推測している。このままでは国民の誰も現感染状況を的確に把握できない状態が続いていってしまう。戦況を知らずして、コロナ戦に勝てるわけがないと心配する。

特にこの情報非公開の弊害が年初の急拡大~ピークの原因だと糾弾したい。ルールとして、民間自費検査で陽性判定された感染者は保健所の行政・保険適用検査を受けて陽性確定されることになっている。その保健所などの公的検査は、年末年初には休みが多かった。年末はまだGoTo中(全面停止は12月28日)でもあり、また年末帰省時期でもあり、感染は拡大しただろうし、民間自費検査の陽性者は多くなったと思われる。彼らは公的検査を受診しようとしたが、正月休みだったのだろう。きっと自主隔離したのだろうが、でも出歩いた部分もあり、感染拡大を起こしてしまった。そうした滞留検査待機者たちやそこから感染拡大した人たちが、正月休み明けの4日から公的検査に向かい、あの年初の異常な感染陽性確定者拡大が生まれてピークになったのだろうと推測している。
その後政府自治体専門家医師会報道全員がそうは考えず、緊急事態宣言を発出し、その緊急事態宣言のお陰で感染縮小した、と分析してきた。当時からしっかり民間自費検査の陽性者特定への寄与貢献の情報を把握し公開していれば、国民の皆が見かけ上のあの異常な感染拡大の真の原因も分析でき、その後の感染縮小への取り組みももっと違ったものになったのではないかと残念に思う。

ここで提案した連続培養モデルに基づく考察は、コロナ感染症感染状況の把握・理解に大いに参考になると期待する。これまでの感染症対策を反省しつつ、的確な対策を実施して頂けるようお願いしたい。
VI.連続培養モデルの検証

感染症では、本来一度感染すると免疫を獲得して再感染しないと考えられる。そのため、非感染者数は少しずつ減少するであろう。その効果も勘案したのがSIRモデルなどであり、複雑な式になる。一方感染が抑えられているような日本では、非感染者数の減少を無視した本連続培養モデルがよい近似を与えると期待できる。そのお陰で、ここで紹介したような簡単な定式化ができ、感染状況を見通しよく把握できる。
ここで提案した定式化が、実際の感染状況をうまく描写できているか検証したいと願っている。しかしモニタリングや民間自費検査などの検査数や陽性率すら、公表された情報にはほとんど存在しないため、なかなか難しいのである。ここでもII-3や-4で例を用いて分析したが、そのデータは欠落ないし貧弱なのである。プロ野球や高齢者施設や市中の民間PCR検査センターなど、今や民間自費検査は多数行われており、コロナ感染症に関する貴重な情報の宝庫とも言える。しかし、それらのデータが、公表新規感染者数情報中に全くその内訳などが“見えない”ままなのである。

モデルに基づいてかなり単純化して定式化した。以下いくつか気になる点を挙げる。
1)αは20日なのだろうか。発症後10日ルールが知られている。発症後10日後には感染力はかなり弱くなっているとされる。だからαは10日以上だと考えるが、詳しい検証により妥当な線を探るべきだろう。当然人ごとに異なるだろうし、また人種や国でも異なるかもしれない。
2)新規感染者のうち、有症者は行政・保険適用検査を、無症者が民間自費検査を受診すると単純化した。実際は入り交じっているだろう。例えば、クラスターの検査では無症者も行政検査を受診するだろう。しかしそれらを検証するためのデータがほとんど無い状態なのである。公表されるデータに、民間自費検査由来かどうか、またそれぞれの検査数と陽性率の他、それぞれの中の有症・無症などの内訳も掲載して頂きたいと願う。
3)感染してすぐに発症して、有症者として行政検査を受けるとした。実際は数日後だろう。また残りの無症者はずっと無症のままで市中にいるとした。実は無症から発症することもあるだろう。おまけに有症なのに数日後も市中に残留している場合もあるだろう。これらのバラツキがどんな効果を来すかやはり検証が必要だと思う。
4)人流と感染、感染と発症や無症者のウィルス拡散可能状態、などの事象には時間差がある。今回のモデルではすべて考慮しなかった。考慮した時の効果がどの程度かは今後の課題だろう。

以上以外にも、例えば感染者の“2 割が有症”が妥当なのかなどあるのだが、それらはすべてまずこの単純化した定式化で実際の感染状況を描写するのに妥当かどうか検証したあとの課題だと考える。
また、今回定常状態のみの場合を定式化した。連続培養の理論では、定常状態間の遷移・移行過程に関する記述も、複雑ではあるが、可能である。ただ、まずは定常状態の式の検証を最初にやるべきで、このモデルが有効そうだと判明すれば、一般的な感染拡大や縮小過程の記述にも挑戦したいと考えている。

あとがき

連続培養モデルに従うと、感染状況の把握が楽にできそうだと感じて頂けたら嬉しく存じます。そのお陰で、感染症対策が科学的合理的になることを祈っている。これまでのような政府自治体の根拠のない緊急事態宣言などには、もはや国民は協力する気持ちを削がれているように見受けられて心配している。対策を科学的合理的にするためには、上で繰り返したように、的確で正確な情報収集が一番大事だと思う。そんな詳細な情報に基づいて科学的な対策の根拠を説明し、具体的な内容をアナウンス・施行すれば、国民も十分理解して自粛的生活にも協力を惜しまないと期待する。

これまでのように民間自費検査などの民間諸活動を無視するような政府自治体行政のやり方は、丁度太平洋戦争中の参謀本部と同じだと感じてしまう。例えば、米軍の装備・戦力の情報収集を怠り、自分たちの身体力や精神力だけを頼みに戦闘して殲滅させられたミッドウェー海戦などに重なってしまう。しかもそんな大損害をひた隠しにして、反対に敵空母撃沈などの誤情報を流し、国民に竹槍を持たせて一億総玉砕を叫ばせた参謀本部そっくりではなかろうか。
現在戦後70年を過ぎても同じ体質のままでは、困るのではないだろうか。敗戦で学んだことと期待する。今回のコロナ戦では、是非十分な情報を収集把握・公開し、それに基づいて科学的合理的な戦略・戦術を駆使して、混乱も被害も最小にとどめることができるように祈っている。

出典
本稿は、下記ホームページを骨子として、追加修正したものである。
http://www-iyamato.cool.coocan.jp/blog/university/COVID-19deal.htm
http://www-iyamato.cool.coocan.jp/blog/university/COVID-19(4).htm#[3.25]

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