医療ガバナンス学会 (2021年8月31日 06:00)
東京理科大学基礎工学部名誉教授
山登一郎
2021年8月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
“市中では実際どのくらいの人数の感染者がいるのか”、その市中感染状況情報こそ、その後のどんな対策にとっても基本中の基盤情報のはずです。でもこれまで日本では誰もそれを調べようとしていません。どうしてなのか、ずっと不思議で、訴え続けています。そしてネットの記事にその答を知るヒントを見つけ、そこから想像した私見を投稿します。
都の公表新規感染者数情報中、無症状者の割合がこれまでの20-30%程度から7月下旬には10%台に落ちたと報じられました。
( https://news.yahoo.co.jp/articles/fe78d7116f4e72ba6196d5ea82f980e55cc8f62a )
それに対し、分科会会長が国会閉会中審査(19日)での説明で、「無症状者が検査を受けない場合がある、公表感染者数よりもう少し多く感染者がいるだろう」とのんきなことを述べていました。その説明の根拠を、分科会メンバーの医師がネットで説明しているようです。
( https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210822-00254353 )
彼は米国学術誌を引用して、感染者中無症者割合は約3割としています。日本人の場合のデータはまだ無いようです。ここでは8割と考えていました。その3割を用いて、最近の公表新規感染者数情報中の無症者割合10%への低下から「無症者が検査を受けない、実際の感染者数はもう少し多い」との分科会会長の推定根拠を説明しています。もちろん、保健所逼迫による濃厚接触者探索の縮小なども理由に挙げています。そして逆に、無症者割合が20-30%の時には、公表新規感染者数情報が唯一正しい市中感染状況情報だと信じているように受け取られ、そこから想像を逞しくしました。
先のメルマガで何度も書きましたが、行政・保険適用検査分を公表新規感染者数として計上し、民間自費検査での陽性判明者を再度公的検査で陽性確定して公表新規感染者数に算入しています。ただ、公表新規感染者数中、民間自費検査経由かどうかの内訳は見えない化されたままです。
さて、想像を逞しくして、どうして専門家たちが、公表新規感染者数情報が唯一正しい市中感染状況を示していると考えているのか、推測してみます。当初の37.5度以上発熱4日以上の検査制限と同程度の間抜けな発想によることが理解できます。
当初から結局彼らは有症者特定とクラスター対策のみしか考えていなかった、市中に滞留する無症者のことは念頭にないのだろうとまず考えてみます。すると話のつじつまが合ってくるのです。
有症者は発熱ラベルによりすぐに公的検査を受診、保健所はクラスター対策の濃厚接触者探索で周囲の無症者も検査特定していきます。それらが公表新規感染者数として計上され、これまで無症者割合が20-30%だったので、感染者中の有症者7割はもちろん、無症者3割も含め、すべての新規感染者が公的検査で陽性確定されて、隔離されると考えているようです。そのため、公表新規感染者数情報がすべての新規感染者を網羅した唯一正しい市中感染状況を示すと信じているようです。
プロ野球などで始まって普及した民間自費検査は、基本陰性証明のための検査と考えられています。そのため、陰性者がほとんどで、陽性判明者は偽陽性の可能性もあるので、公的検査を再受診して陽性確定し、公表新規感染者数に算入されるという検査制度にしました。当然その検査件数も陽性率も情報収集するつもりなど端からなかったのでしょう。そして、彼らも再受診での公的検査を経るため、有症者の場合同様、周囲の濃厚接触者たちも完全に特定されるという制度だと信じていたフシがあります。
専門家たちは、このような論理から、今の検査制度は完璧で、無症状感染者についても絶対検査漏れがない、と信じていたのだと疑われます。不思議です。市中には無症者が沢山いて、彼らの一部だけがたまたま民間自費検査を受診し、陽性判明する場合がほとんどでしょうに。
つまり、この論理からは、市中には有症者7割と無症者3割の新規感染者が日々生まれ、その有症者は発熱ラベルで、3割無症者は周囲の濃厚接触者として、クラスター対策ですべて捕捉できると考えたのではないでしょうか。(えー、そんなアホな、と思われるでしょう。ここがあの37.5度発熱の検査制限同様、間抜けな勘違いの問題点です。だって、わざわざ“新規無症状コロナ感染者です”なんてラベルを張りつけているわけではないはずですから。でも、最近のネットや報道では、モニタリング会議や東大研究者はじめ他にもいろんな方がこの勘違いをしたままなのです。同じ日本人、同じ生命科学研究者として、恥ずかしくかつ背筋が寒くなります。)
結局すべての新規感染者は公的検査で捕捉できるから、市中には他には感染者がいない。だから公表新規感染者数情報が、市中感染状況を映す唯一正しい情報だと信じていることになるようです。
でも、感染者の3割が無症だとしても、その3割がどうして有症者周りの濃厚接触者だけだと信じられるのでしょうか?感染症専門領域では、そういうことになっているのでしょうか。むしろ3割無症者は有症者とは独立に無症状感染者として生まれているはずでしょう。彼らは市中に15-20日滞留して、継続した感染源になっているはずです。
彼らが自分では感染していないはずだと考えながら、でもたまたま民間自費検査を受けて陽性判明しているのだと思います。そして、そうした無症者の特定隔離が重要だからこそ、“誰でもどこでも”検査を欧米は採用したはずなのです。しかも、そこでの検査件数や陽性率は市中感染状況を反映するモニタリング機能を果たすはずなのです。
そのことを、このメルマガへの投稿で、たびたび訴えてきました。市中無症状者が、公表新規感染者数の80倍は滞留していると注意喚起してきました。でも未だにその市中感染者数が調べられていないのです。そして先日のメルマガVol.158に挙げたネット情報から、都8月上旬3%の陽性率から計算して、市中感染者が40万人にもなるとお知らせしました。
ところが日本の専門家たちは、行政・保険適用検査とクラスター対策だけで完璧だと信じ、そうした市中滞留無症感染者の存在を信じないのではないでしょうか。
何故なら、このように捉えてみると、最初に挙げた医師のネット記事を「この完璧なはずの公表新規感染者数情報中、無症者割合が30%でなく、10%に減少したから、(30-10)%分の検査漏れがあるのだろう、市中にはもう少し多くの感染者がいるのだろう」といった理屈で分科会会長発言の根拠を説明しているらしいと素直に読み取ることができるからです。
おまけに、広域モニタリング検査も実施せず、民間自費検査件数や陽性率などの検査情報も未だに収集もせず、公開もせず、民間自費検査の無症状者特定における寄与貢献を無視し続けていることも、無理なく理解・納得できると思います。
民間自費検査の情報は無視、公的検査情報だけで完璧な感染状況情報だなんて、まるで戦中のミッドウェー海戦時と変わらないのではないでしょうか。日本人の夜間目視能力は世界随一だ、だから夜間海戦では、米軍の艦砲射撃は絶対に我が軍艦船に当たらない、一方、当方の弾は逆に米艦船には百発百中だ、と信じて出撃した状況にうり二つです。レーダーの存在などの情報は全く無視していたのです。そして全滅です。
こんな感染症対策専門家たち・厚労省に一年半もコロナ対策を任せているのです。わざわざ検査情報を隠蔽して政府自治体報道国民を誤誘導してきたなどということではないのでしょう。単に彼らの頭が思考停止、無論理・非科学的な検査制度設計をしていただけなのだろうと悲しくなってしまいます。そのせいで、この一年半、私たち国民は生命・健康・経済(自粛と休業や時短)・自由・医療従事者への過大な負担・税金の無駄遣い・そして社会の分断など、甚大な人災被害を被ってしまったのです。そのため、政府も自治体も報道も国民同様だまされ続け、踊らされ続けていたということのようです。なんと情けなく、もったいないこの1年半だったことでしょうか。
(まるで裸の王様ですね。権威という衣によって、政府自治体報道や国民までもが、裸であることを見て見ぬようになってしまっていたのではないでしょうか。)
以上、私的な想像による解釈です。一番妥当な解釈だと考えています。不当な言いがかり、または誤解なのかもしれません。本当のところを、専門家会議・分科会や厚労省担当者たちに教えて戴きたいと思います。そして、早急にこんな非科学的なコロナ感染症対策を破棄し、しっかりと論理的・科学的な感染症対策(6月25日分Vol.121 http://medg.jp/mt/?p=10357 )に変更して戴きたいとお願いします。そうすれば、私たち国民と情報共有することで、十分協力を期待でき、緊急事態宣言など無くてもコロナデルタ株すら押さえ込めると期待します。