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Vol.197 医学部地域枠制度は国家ぐるみの犯罪ではないのか

医療ガバナンス学会 (2021年10月15日 06:00)


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50代勤務医

2021年10月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

令和2年度の医学部定員のうち、約6人に1人にあたる1979名が地域枠である。臨時定員840名、恒久定員は839名となっている(厚労省第35回医師需給分科会R2.8.31)。地域枠定員が全体の8割超の大学として札幌医大などがある(今後の地域枠のあり方2020.3.12 p14)。地域枠の勤務義務は卒後6年間から12年と長期間であるため、多くの願書には返済をすれば自己都合で途中離脱できると書かれている。しかし、今年2月、日本専門医機構は(自治体や大学の[同意]なしに)自己都合で途中離脱した人には専門医認定をしない旨を発表した。そのため、この[同意]を利用して、離脱をさせたくない自治体や大学による異常なパワハラが増加することとなった。募集の時には、お金を返せば自己都合で辞めれると謳っておいて、実際はお金を返しても辞めさせず、専門医にもさせないと言うのは詐欺ではないだろうか。

●全大学の地域枠が入りやすい訳ではない。
地域枠の4割は一般入試で選抜されている(地域枠で入学した学生の医師不足地域に定着する意思とその関連する要因P37片岡義裕2016を参照)。前期試験の地域枠の多くは併願形式であり、下記のように、地域枠の方が合格ラインが高いことを明記している大学もある。
鳥取大学の前期日程の募集要項(H31)には「地域枠」で合格とならなかった場合、「一般枠」として選抜の対象となります。
群馬大学の地域医療枠は合格者判定の結果、成績順に決められる就学資金予定者よりも下位になる場合は、一般枠として合格になります。
弘前大学(H31)は、青森県定着枠において不合格となった者を「一般枠」に組み入れます。
地域枠が低学力のクセにという群衆心理が作られたのは、一部の田舎の大物教授が低学力の我が子を推薦入試を使い留年を繰り返しながらも地域枠を卒業させる(いなかの大学の医学部教授.テレビで言えないホントの話。和田秀樹のブログ参照)など、権力者側がこの制度を悪用してきたことを内部の学生たちが見て来たからではないだろうか。

●入学前の説明不足
医学連は地域枠アンケート(2020)を実施し、地域枠入学者の約半数が入学前に適切な説明がなされてなかったと結論づけている。約38校にわたる全国の地域枠学生アンケート調査では約3割の学生が奨学金を返還すれば義務はなくなると認識して入学していることがわかる。(地域枠医学生の奨学金返還の可能性と関連要因の検討片岡義裕2017)日本専門医機構寺本会長は医道審(2020.7.17)で、「専門医研修の登録時に、「(いわゆる地域枠学生は)自分の従事要件を知らない人が多い」と繰り返し発言されているが、実際、本当に自分の正確な従事要件を知らない(知らされていない)人は多いのではないだろうか。制度設計や説明をあいまいにしておけば、後から権力側が好きなようにできるとからだ。
鳥取大学H.P.地域枠在学生向けのQ&Aで、「自分の義務要件がわからない人は聞きにきてください。」と書かれていたし、徳島大学受験生向け地域枠説明会(R元年.9.16開催)のポスターには「保護者は入場できません」と注意書きがしてあった。筑波大学の一部の願書には「保護者からの電話での質問は受け付けません」ともあった。医学部に入る学生は頭がいいのだから、自分の義務要件がわからないなど、本来ならありえないように思う。
厚労省の分科会でも、今村医師会副会長は「従来の地域枠は、受験する人たちにきっちりとした情報 を出さないままに、結局、みんな地域枠を選んでいると。だからこそ、いざ6年修了したときに、自分の考えていたものと違うということで離脱をする人たちも出てきたという、 そういう問題が起こってきたわけですね」(第35回医師需給分科会2020.8.31)。東京大学名誉教授の森田朗氏は、「将来医師になろうという高校生に年季奉公を強いるのは、配慮が必要ではないか」と発言されている(第38回医師需給分科会2021.6.4)。

●願書(学生募集要項)のわかりにくさ 元々のコンセプトは一生涯縛ること?
国会図書館WARPで過去の学生募集要項を見てみた。願書には、読んでわかる書き方が(意図的に)されてないようである。様々な枠は複雑で、義務要件にあたる部分は憲法のように複数の解釈ができるものから、抽象的であいまいなものまである。矛盾したものもある。
島根大学(H28)では、要約だが「卒後12年のうちの6年間(半分は僻地)県内に勤務すること」と「初期後期研修をすること」の2通りが書いてある。出願要件と勤務義務がミスマッチしている。
鳥取大学(R3)では、前期試験では地域枠と一般枠の併願ができるにもかかわらず地域枠選抜は別枠方式であると書かれている。鳥取大学兵庫枠では、診療科について「募集時には限定しない。兵庫県内で必要とされる分野については,入学後情報提供する」とある。これは結局は県の裁量で診療科を後から決めるということだから、限定する。と書くべきではないか。また、驚いたことに、恐ろしいことだが、地域枠の元々のコンセプトは、どうやら地域に一生涯貢献(大学入学から定年まで)させることだったのではなかろうか。
弘前大学ではH25年まで、「卒業後に医学部または関連施設で働く意思がある者」「卒業後は医学部付属病院で臨床研修し、付属病院や関連施設で医療従事することを確約できる者」とされていた。大学側はこれをおそらく堂々と終身拘束であるように指導し、まさか終身拘束と思ってもいなかった学生とのすれ違いがあったようである(新小児科医のつぶやき弘前大モデル参照)。そのため、H27年度は「臨床研修開始後少なくとも12年間医療に従事すること」と出願要件が変更となっている。同大はH25年2月の会見で「(県内で終身勤務するのかという)誤解を招かないためにも年限を明確化したい( igakubu-goukaku.com )」とわざわざ説明したそうだ。

以下は恣意的運用により、制度の食い物にされた学生のツイッターである。
地域枠の星‏ @jjjmwtpgjmwt  2018年11月5日   「卒業後は県内で働くこと」というぼんやりとした文言のもと医学部に地域枠として入学したら、いつのまにか12年という年限を決められました。大学側からは無期懲役を12年にしてやったんだからありがたいと思え、というような説明を受けました。受験前にそんな説明は受けていないし、契約書もありません。」
また、多くの願書には義務年限の勤務ができなくなる場合は違約金を払うこと、奨学金全額を返還をすることと書かれてある。勤務をすれば奨学金は返還免除になるが、勤務期間を達成できなければ返済するようにと書いてあるのだ。しかし、中には、奨学金を返すことで自治体との関係はなくなるが、大学に入学した事実があるため、返済後も離脱は認められない!?と返済ずみの医師に対しても引き続き拘束しようする大学もあるのだ(H30.8.10「地域枠学生の卒業後の義務不履行」について高知県健康政策部長 高知大学医学部長文書参照)。

願書とは受験直前に読むものであり、たいていは自分に必要な箇所のみを拾い読みするものである。ダブルスタンダードや両論併記で書いてあればもっと理解は難しくなる。この願書が実は大学1年生から数えると12年から18年に渡る契約書であったなんてことをその場で気づく受験生はあまりいなかったのではないだろうか。日本医師会発行のDOCTOR-ASE特別編FOR医学部受験生2016 P64には、地域枠の説明として「就学支援金を返還すれば勤務地は自由であるとも言えますが、制度の趣旨に沿わないため、原則として返還しないことが前提となっています。」と書かれていた。本音と建前のような書き方で受験生に本当のことが伝わっていたのだろうか。

●後出しの多さ
入学後の後出しの事例は、宮崎大学では入学後に従事要件が一方的に変更になった(宮崎日日新聞)。島根大学では6年間や9年間の義務として募集した後に、12年間のキャリアプログラムを提示している(第35回医師需給分科会資料5)。山梨県では高額な違約金が設定されることになった(医学連H.P.)。などが見られる。最近では、前もって受験生に対し、「たとえ奨学金を返済しても道義的責任は残る」と記載する大学(現在の高知大学学生募集要項HP:地域枠医師等が従事要件を放棄する場合の同意基準について)も出てきたが、以前の入学年度の学生にまで適用することだけは人道上あってはならないと思う。

●懲罰感情の醸成
ある大学の地域医療講座から、全国の地域枠学生への選択肢を提示したアンケート調査で「「医学部に入学しやすいから」という理由で、地域枠に入学した学生は奨学金を返還する可能性が高い。」という要旨の論文が発表されている。ところが、この論文の統計解析とまとめを読むと、地域枠選択の理由については,研究者間で協議し,「比較的入学しやすいから」と「医学部に進学したかったから」と回答したものを合わせて「医学部に入学しやすいから」とした。とある。科研費も使われている研究であるが、「比較的入学しやすいから」と「医学部に進学したかったから」は全くの別ものであり、まとめて「医学部に入学しやすいから」と集計することは大きな疑問である。大学側が、地域枠を選んだ学生を「入学しやすいから選んだ者」とカテゴリーして、離脱の可能性を考える学生を悪者とし、懲罰感情を煽るような結論を人為的に作っている。これは官製ヘイト(前川喜平著:権力は腐敗する)につながりはしないだろうか。

●YOU TUBEで
ある大学の地域枠講座の先生が、高校生向けの入試説明会で、「勤務義務の12年間のうちに県外出身者の恋人と離れたくないとか、県外の病院で働いてみたいからといって、奨学金を償還(離脱)したいという人がいるが、一切容認はできませんのでしっかり覚悟を持って受験して下さい」と話されていた。他大学では甘い言葉で高校生を勧誘するケースもあるため、このように入学前に現実(人権が制限される)を伝えることは徹底してもらいたいと思う。
もっとも人権団体からは問題視されるかもしれないが(東洋経済ビジネスと人権)。

●パワハラとは相手を支配すること
日本専門医機構理事長の寺本民生氏は9月21日の定例記者会見で、「2年弱で専門医研修プログラム変更希望が約700件あり、うち約90件はハラスメントが疑われる事案である」と説明された。もっとも、地域枠では(支配されることを)わかった上で入学したのだからと、ハラスメントをするのも受けるのも当然というのが実態のようである。
執拗な離脱断念勧奨なども行われているようだが、事実行為としての引き留め行為の行き過ぎは、どのような場合であっても違法性を帯びるであろう(日経メディカル; 医師を縛ることができるか。コロナ徴医令と地域枠)。

●途中離脱について
地域枠途中離脱義務違反者について阿部知子議員(小児科医)は 「そこには理由がありご本人だけの問題でなく仕組みの問題にあるかもしれないと思うもの 地域に逆に
縛られるという意識しか学ぶ人が持てなくなったとしたら、それはそもそも私にはこの地域枠を設けた結果の失敗なんだと思います。」と発言されている(国会H30.7.13 第36号)。
医師需給分科会で山口育子委員は「同意なく離脱した人は専門医として認めないとのことだが、適用する対象は、これが決まった後に地域枠に入った人を対象にすべきではないか」(2021年9月17日医師専門研修部会資料)と当事者目線で遵法精神に則った発言をされている。

●最後 国家ぐるみの犯罪ではないのか
高校生に、自己都合の際はお金を返せば辞められると書いて(思わせて)募集しておいて、奨学金や違約金を返しても離脱を認めない、専門医研修もさせないというのは、封建時代よりも封建的ではないだろうか。これがまかり通るのなら、学生募集要項に嘘が書かれていたことになる。コロナ対策でも、国が言い換えやごまかしが得意であることが散見されたし、東京オリンピックからも、我が国における差別意識、人権意識が低いことが露呈された。日本の地域枠制度も国際基準とはかけ離れていないだろうか。
『グローバル社会と現代奴隷制』ベイルズ著では、新奴隷制度は弱さと騙されやすさにつけこんだ人間の支配であると定義している。地域枠について諸外国を参考とする論文もあるが、欧米では医学部進学時の年齢が22歳前後に対し、日本は18歳前後である。国が嘘をついてまで人を募集するなど昔の話だと思っていた。まるで満蒙開拓団や南米移民政策のようである。特攻隊の募集段階でも詳しい内容を知らされておらず「特別操縦士官」に応募したら、実は特攻隊だった 騙された という人もいたらしい(「昭和史7つの謎」保坂正康)。 募集段階で詳しいことを知らせず人を集めて、恣意的な運用をするのは日本式なのか。
映画「新聞記者」では制度を守るためという理由で、個人の人権侵害を率先して行う官僚たちが描かれていた。地域枠は、医師不足貢献というフレーズの下、強制労働、人権無視、法定外利息など違法な構造で成り立っている。強い者(地方票が欲しい政治家、安価で確実な年季奉公させたい自治体、天下りしたい教授、医師支配したい官僚)が、弱い者(高校生、奨学金が必要な家庭、騙されやすい家庭)を言いなりにできる制度である。取返しがつかなくなる前に今すぐにでも廃止してもらいたい。

●付録 インターネット上で苦しい現状を吐露している地域枠学生たち)

〇はてな匿名ダイヤリー https://anond.hatelabo.jp  (20181103201225)
医学部地域枠問題に関して、よく言われるのが「それを理解して入学してきたのだから」という言葉。ちがう。これについて説明したい。地域枠入学者の処遇について受験時・入学時には細かい説明はなく、地域枠から脱出できないという説明はない。それどころか入試要項や奨学金の契約書などをよくみると契約が解除できる旨が記載されていたりする。これは都道府県によって異なるが、ある県では大学の募集要項:医師修学資金給付制度制度(奨学金)の規程により、県内で診療に従事することを確約できる 修学資金制度の規定:次のいずれかに該当するときには契約は解除される d:修学資金の貸与をうけることを辞退したとき となっている。そういう状況のなかで地域枠からすり抜けた人に罰則を与えるのはまずいと判断したのか、病院への補助金を減らすという間接的手段で罰則を与える非常に姑息な手段が執られている。やろうとしていることは法律上認められていないんだけど、同じことを脱法的に厚生労働省がやっちゃう。地域枠問題ってのはそういう世界。

〇地域枠の星‏ @jjjmwtpgjmwt   2018年12月11日
例えばの話ですが、昨今の地域枠生は「卒後直ちに大学病院あるいは関連施設に12年勤務すること」という規約で入学してきていることと思いますが、それがいきなり「やっぱり12年ではなく30年に年限を変更します」と言われた場合でも従う義務があるのでしょうか。

〇地域枠の星‏ @jjjmwtpgjmwt  2018年12月9日
私が疑問視しているのは、(1)入学時に受けた規約が途中で変更されていること、(2)大学との取り交わしは入学時の「誓約書」のみであり、かつ年限の記載はないこと、(3)新専門医制度によって大学病院医局に所属するほかに選択肢がないこと(科によっては崩壊同然、医局内で学べる分野に偏りがある、等)

〇はてなブログ雑記帳 医学部入試の地域枠はやめといた方がいいかもって話 – 雑記帳 https://nekochaaan.hatenablog.com  (entry › 2018/11/24)
うちの大学は、確約書には初期研修は縛りがありますが、それ以外は文面上「地域医療に貢献すること」とだけしか書いていません。しかし、この文面を拡大解釈して入局を強要しているのが現状です。そして、この医局制度というのがやっかいです。(中略)この辺の事情が、入学前に豊かに想像できる受験生が何人いるのでしょうか。拡大解釈可能な文言で契約書にサインをさせ、5,6年生になったころに、「入局するのが当たり前。外には出させない。」と囲い込むのはいささか乱暴だなと思ってしまいます。(中略)ただ、短い文章の紙ぺら一枚で、将来の想像もできない受験生を、「楽に入れるよ」という甘言で誘い、入ったらAOで入れてあげたんだから入局しなよ・・・というのは、初めて一人暮らしをした無知な大学生にクレカを作らせて、リボ払いで破産させるのと似たような構造を感じます。

〇イカした大学生 医学部入試『地域枠』制度の現状と問題点を”オーケストラ”で例えてみた https://spl-med.xyz  (community)
地域枠のデメリットは多くあります。医師のライフイベントを無視している点、専門医の取得が難しい点などです。これらのデメリットを知らないまま、あるいは知っていても実感のないまま18歳の時点で将来を誓う若者が多いのが現状となっています。Aさんも入試に落ち続け、地域枠を救いの光と思い利用したものの、制度の詳しい仕組みは知らなかったようです。「新医師臨床研修制度」が始まり若手医師が研修先を自由に選べるようになったため、大学病院に残らないケースが増え、地域医療を担う医師が不足し始めました。それを解消するための「地域枠」制度なのですが、入学時点で地域医療への従事を誓わせる点に疑問の声があがっています。
医療の現状を知らない高校生が、医学部合格と返済不要の奨学金を対価に、大学6年間+卒業後9年の計15年間の人生を強制されるのです。誓約は守るべきだという意見はもっともですが、大学で医療について学ぶうちに興味のある分野が変わっていくことはよくあります。入学したときは、地域医療に奉仕するつもりでも、途中でより専門性の高い領域や別の病院に進みたいと思うことは珍しくありません。そんなときに、地域枠が”足枷”になってしまうのではないでしょうか。

〇ハッシュタグ地域枠 もっふもふ‏ @wwwwjapan 2018年9月10日
入試要項は奨学金かえせば関係はおわりととれる文章なのに、卒業時に「卒業延期」で脅すというヤクザっぷり

〇医学部奨学金をもらう前に確認してするべきこと 将来後悔しないためにザッキー医学生のブログ https://bonjin-doctor-life.com
医学部には、将来、特定の地域で働くという契約をすることでもらうことができる奨学金があります。基本的に、学費、家賃、生活費をすべてまかなえるくらいのお金をもらうことができます。しかし、将来、医者として重要な医局の選択や、研修病院の選択に制限がでてくることに不自由を感じています。
大学に入学するときに、将来、地元に戻ってきて、地方に貢献したいと思っていました。ゆえに、奨学金をもらうことを気軽に決めてしまいました。
大学に入学して、医師というのは医局というものに属して、一度、医局に入るとなかなかぬけることができないということを知りました。

参考資料
地域枠医学生の奨学金返還の可能性と関連要因の検討(医学教育2017,48(6):365~374)
http://expres.umin.jp/mric/mric_2021_197.pdf

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