医療ガバナンス学会 (2021年10月20日 06:00)
この原稿は医療タイムス5月26日配信からの転載です。
ときわ会常磐病院乳腺外科医
尾崎章彦
2021年10月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
しかし、震災を契機に退職し、12年10月のいわき市の市議会議員選挙に当選した後は、いわき市の医師不足を自身のテーマに定め、20年9月まで市議として活動されてきました。いわき市の医師不足については、筆者も吉田元市議に教えを請う面が多く、個人的に懇意にさせていただいていたのです。 そのような背景もあり関わることになった医療ゼミは、緑蔭中学高等学校の髙野教諭がライフワークとして取り組んでいる活動です。活動を開始したきっかけは、多くの教え子が、特別な動機や知識もなく医学部を志望していることに危機感を覚えたからだそうです。
医学に関する知識を身につける機会を提供するそして、医学に関する知識を身につける機会を提供すること、生徒に医療を自分事とする考え方や価値観を育成することを目標に、以前の職場に在籍していた18年から開始されたとのことでした。多角的な分析の重要さを伝える 初年度には、受講者8人のうち7人が医学部への現役合格を果たしたとのことで、これは、髙野教諭の指導力を物語るエピソードだと考えています。そして、現在の職場である緑蔭中学高等学校は小規模な学校であるため、医学部志望者のみならず、医療学部志望者を対象として、活動を行っているとのことでした。
筆者は、こような髙野教諭の取り組みは非常に意義深いものであると考えています。というのも、筆者自身も、高校時代、医学部を志望するに当たっての特別や理由や知識は持ち合わせていなかったからです。 もちろん、社会経験が乏しい高校生が、誰もがうなずくような医学部の志望動機に考え至ることは難しいと思います。ただ、日本の場合、依然として大部分の医学生は、高校卒業後に直接医学部に入学します。医学部入学前に多少なりとも、その適正の有無について考える機会があることは、彼らの助けになるはずです。 筆者が、中高生と関わる際に意識していることは、身近な医療問題について、ファクトベース、また多角的に分析することの重要さを伝えることです。
例えば、いわき市の医師不足を例に取れば、ファクトベースでその状況を分析、関係各所に発信していくことが、基幹型臨床研修病院の認定につながったと考えていますし、そもそもそのような姿勢は普段の患者の診療においても重要になります。これからもキャリア選択の手助けを また、自分が医療者として働くことを想定すると、医師不足は若手医師にとってチャンスととらえることも可能です。なぜならば、医師不足は同業のライバルが少ないと解釈できるからです。 そのような職場においては、早くしてさまざまなチャンスに恵まれる可能性があります。医師不足は得てして負の側面から語られることが多いですが、あまり語られることがない、このような側面も伝えていきたいと考えています。
20年度を振り返ると、開始当初こそ受講生は皆控えめでしたが、後半になるにつれて、目に見えて、自分の意見をしっかりと表明できるようになってきました。 例えば、12月に安楽死をテーマとして取り上げた際には、皆一様に「難しい問題」といいつつも、自分が医療者になった場合、また家族や自分が患者になった場合とさまざまな場面を想定しながら、「認めるべき」「認めるべきではない」と多くの意見を闘わせていて、とても頼もしく思いました。 21年度、医療ゼミは、昨年度の2倍に当たる20人の受講生を迎えることになりました。吉田元市議の思いも受け継ぎつつ、引き続き、髙野教諭とともに、彼らのキャリア選択の手助けをしつつ、それにより、いわき市の医療者が少しでも充足するよう今後も取り組んでいく決意です。