医療ガバナンス学会 (2021年11月10日 06:00)
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( https://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/ )
2021年11月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
11月27日(土)
【Session 03】医学研究 14:25~15:20(司会:尾崎 章彦)
●メタゲノム解析で分かる腸内細菌叢と疾患、あらたな治療
井元清哉(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター健康医療インテリジェンス分野 教授)
疾患との関連で現在大きな注目を集めているものが、私たちの体に共生する多種多様な微生物です。特に腸内には1000種類以上の細菌が合計100兆個以上も生息しており、この細菌の総体が細菌叢と呼ばれます。近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)と健康や疾患との関連が、科学界にとどまらず一般消費者からも大きな関心を集めています。
2006年にNatureから発表された論文では、肥満型マウスの腸内細菌を同じ遺伝的背景の無菌マウスに移植したところ、移植を受けた無菌マウスの脂肪量に増加が認められました。遺伝的背景が同じであるにも関わらず、腸内細菌叢の組成だけで(肥満という)形質を変化させることができることを示した、世界で初めての成果でした。
一方、腸内に生息する細菌の多くが嫌気性細菌(酸素を必要としない)であり、それらのほとんどは難培養性であるため単離培養することが非常に難しく、どのような細菌が腸内に生息しているのか、その全体像が分かりはじめたのは最近10年間くらいの話です。その背景には、次世代シークエンサーと呼ばれる大量のゲノムを解読することができる装置の開発があります。どのようなDNA断片がサンプルの中に存在したのかという情報から、どのような細菌がサンプルにいたのかが分かります。このような解析はメタゲノム解析と呼ばれます。
このメタゲノム解析によって腸内細菌叢の個人毎の違いがデータとして得られるようになってきました。本講演では、この腸内細菌叢の乱れ(バランスの崩壊)が引き起こす疾患について、メタゲノム解析による最新の解析事例をお話しします。また、メタゲノムを制御して疾患の予防や治療につなげる演者らの取り組みについてご紹介します。
●Deep Medicine; AI活用で思いやりのある医療を
中村祐輔(がん研究会・がんプレシジョン医療研究センター・所長、内閣府SIP「AIホスピタル」プログラムディレクター)
医療は医学のみならず、種々の科学技術の進歩によって、高度化・先進化・複雑化・多様化してきています。そして、高度な医療を提供するために、医療現場の負担が非常に大きくなってきている状況です。例えば、CTやMRIなどの医療用診断機器の日本における100万人当たりの数は、他のOECD諸国の数倍です。しかし、放射線科医の数は最下位を争っています。これは、読影可能な数を超える画像データが生み出されている可能性を示唆しており、人工知能技術の導入による負担軽減が急がれます。
また、今回のコロナ感染症の大流行によって、ウエアラブルな装置から情報を収集することの重要性を痛感したはずです。さらに現場では、電子カルテの入力作業のために、キーボードやスクリーンに目を向けることに時間が取られ、診察時に患者さんの目を見ながら診療を行う時間が限られてきています。もし、患者さんとの会話を自動的に残すシステムできれば、患者さんと向き合う時間が確保されるはずです。看護師も勤務時間の30%を記録に費やしています。
われわれのプロジェクトでは医療用辞書を作成し、自然言語処理能力が格段に上がり、医療分野での話言葉をテキスト化する精度が上がってきています。さらに、簡単な説明を人工知能アバターが行うことによって、医師が患者さんに説明する時間が98%節減できた例もあります。医師免許や看護師免許がなくてもできることをAIやデジタルシステムがサポートすることで、思いやり(Empathy)に満ちた医療の実現を目指しています。
●新型コロナウイルスについて、日本学術研究の影響と対応
デニス・ノーミル(サイエンス コレスポンデント)
2020年の春、奇妙な新しい呼吸器疾患が中国に登場し、瞬く間に世界中に広がりました。この伝染性の高い病気は社会活動上、大きな混乱を招きました。しかし、世界中のウィルス研究者にとっては、新型コロナウイルスは課題であると同時に、研究の機会を提示するものでもありました。日本は、中国以外でその影響を受けた最初の国の一つでした。
今回の講演では、このグローバルヘルス上の新たな問題に日本の研究コミュニティがどう対応し、また、日本の研究者がどのように貢献してきたかとをレビューします。