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Vol.225 地域枠不同意離脱者に関する某県顧問弁護士の見解

医療ガバナンス学会 (2021年11月26日 06:00)


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井上法律事務所 弁護士
井上清成

2021年11月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.某県の地域医療対策協議会

「地域枠制度からの離脱者への専門医制度における対応について」は、各都道府県ともに苦慮しているらしい。今回紹介するのは、東京都内のある弁護士が見つけ、某県内の女性医師を通じて筆者に提供された、令和3年3月開催の某県の地域医療対策協議会の公表資料(かっこ内は原文のまま)である。
その中の「地域枠を離脱した場合の対応」という資料によれば、「厚生労働大臣から日本専門医機構への意見・要請」として「今後、都道府県の同意を得ずに地域枠を離脱し、専門医研修を開始した者については、原則、日本専門医機構の専門医の認定を行わないこと。認定する場合も、都道府県の了承を得ること。」などと国の見解が紹介されている。そこで、「令和2年度応募(令和3年度開始)の専攻医から不同意離脱者の有無の照会を開始」「当該照会への回答にあたり、他県が厚生労働省に確認したところ、不同意・同意の基準や判断は各都道府県によると回答」があったという。
2.県顧問弁護士の見解

続けて、某県としては慎重を期して、県の顧問弁護士から法的見解を聞いたらしい。そうしたところ、「不同意離脱者に関する国への回答にあたっての課題と県顧問弁護士の見解」という資料によれば、「敗訴となる可能性が高い。」との回答を得たようである。

(1)「不同意離脱者の有無に係る国(機構)への回答に係る課題」

「当該回答により不同意離脱者に不利益が生じた場合、『不同意離脱』であるかどうかの判断については県が行うため、『不同意離脱した場合には専門医の認定がなされない』ことに対し、本人から事前に了承を得ていたとしても、県が行った判断については責任を負うことになり、訴訟のリスクがある。さらに、既に地域枠制度で入学している者については、後からの本人の不利益となる制度変更となるため、『不同意離脱した場合には専門医の認定がなされない』ことに対し、本人から了承を得ていたとしても、当該回答により不利益が生じたことから提訴された場合、敗訴となる可能性が高い。」

(2)「不同意離脱者の専門医認定に係る都道府県の了承に係る課題」

「現状、『専門医の認定(医師の技術・知識を審査し認定すること)』と『地域枠の離脱』(修学資金を貸与された都道府県での勤務義務を果たさないこと)に関係性が認められず、法や専門医制度整備指針等に、地域枠の不同意離脱者について専門医の認定をしないことの根拠や基準がなければ、県は専門医の認定を了承するかどうかの判断はできないため、回答すべきではない。仮に『了承しない』旨の回答をした場合、県が『了承しない』根拠がないので、提訴された場合、敗訴となる可能性が高い。」

(3)「その他の課題」

「専門医を取得できなくても、制度上は医師としての業務は続けられるとはいえ、実態として、専門医を取得していないと医師としての業務が困難になるのであれば、憲法第22条第1項の職業選択の自由に抵触しないとは言い切れない。」
3.国会で議論し立法によって対処

これらの県顧問弁護士の諸見解は、法律家として、いずれも良識的なものであると評してよいであろう。そして、最後に、「少なくとも制度全体として、法整備が必要」と結んでいる。つまり、厚生労働省や都道府県という行政組織、日本専門医機構や全国の大学・病院といった医学界・医療界だけで、この「地域枠」の問題を運用するのは適切ではないということなのであろう。
したがって、諸地域も含めた国家・国民全体に関わることとして、国会で議論して、立法によって適切に対処すべき事柄なのである。

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