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Vol.227 コロナ感染者は日本にいつ帰れるのか問題

医療ガバナンス学会 (2021年11月29日 06:00)


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北海道大学医学部医学科
金田侑大

2021年11月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

北海道大学医学部4年で、エディンバラ大学に留学中の金田侑大と申します。今回は、前回の投稿(  http://medg.jp/mt/?p=10591  )に引き続き、エディンバラでのコロナ対策の様子を共有したいと思います。

エディンバラでは10月31日にサマータイムが終わり、冬がすぐそこに来ています。最高気温は10度に届かない日が多く、大学内ではよく無料の温かいコーヒーが配られております。エディンバラは緯度でいえば日本の最北端である稚内よりも北にありますが、北大西洋海流という温暖な海流の影響もあり、雪は北大がある札幌ほどは降らないようなので、この冬は少し快適に過ごすことができそうです。最近の話題ですと、第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が10月31日から11月13日まで、ここスコットランドで開催されており、日本の岸田総理も参加されました。エディンバラはスコットランドの首都で行政の中心ですが、実はスコットランド最大の都市は、お隣のグラスゴーです。今回のCOP26もグラスゴーでの開催でした。グラスゴーと日本の関係も古く、1872年に岩倉具視使節団が当時の技術革新の中心都市であったグラスゴーを訪れ、造船所や機械工場を視察しています。以来、幕末から明治の初頭にかけて、その技術を学ぶべく日本から多くの留学生が派遣されてきたこともあり、日本との交流は深いです。サッカーも盛んで、1872年にサッカー史上初の国際試合が行われた街としても知られています。元日本代表の中村俊輔選手が在籍していたセルティックも、本拠地はグラスゴーです。

学術的にもreputationの高い土地で、蒸気機関の発明知られるジェームズ・ワット、国富論を著したアダム・スミスの他、7名のノーベル賞受賞者がグラスゴー大学から輩出されています。そのうえ、グラスゴー大学の設立は1451年で、エディンバラ大学(1582年)よりも100年ほど古く、当時独立国であったスコットランドの国王ジェームズ2世が、隣国イングランドで既に創設されていたオックスブリッジに対抗できる大学の設置を希望したことを発端として、神学の大学として設立されました。エディンバラ大学は、もともと法学の大学として設立されたことを前回記述しました。スコットランドはイギリスの一部ですが、現在も独立した民事裁判所と刑事裁判所を備え、独自の法制度を持っています。これを支える人材育成を目的に、タウン・カウンシルが中心となって設立されたのがエディンバラ大学であり、設立の経緯は若干異なります。

考えてみると、スコットランドという寒い土地から多くの偉人が誕生したことは、日本の幕末の歴史を作った人物の多くが長州や薩摩といった比較的暖かい土地出身であったことを考えると、なかなか面白い対比です。そのうえ、長州や薩摩が雄藩と呼ばれ、栄えていた一方で、18世紀半ばまで貧しい国だったスコットランドが、なぜこれほど多くの知的才能にあふれる偉人を生み出せたのか、というのも大きな謎です。考えられる理由の1つとしては、16世紀から存在したスコットランドの高等教育機関によるSchoolsというシステムが挙げられます。宗教改革後は、スコットランド教会(The KIrk)がこのシステムを組織し、1872年まで継続して、隣国イングランドに対抗できるだけの人材育成を行っていました。ちなみにエディンバラは、セント・アンドリュー、グラスゴー、キングス・アバディーン、エディンバラというスコットランドに古くからある4つの大学のうち、最も新しい大学です。

さて、そのような学問の風が吹くエディンバラで学ばせていただいている私ですが、最近1つ悩みがあります。それが、“万が一コロナに感染してしまった場合に、日本にいつ帰れるのか問題”です。前回、エディンバラにおけるコロナ対策の取り組みを紹介させていただきましたが、検査体制が充実しているものの、私たち留学生にとって、検査さえできれば安心できる、という単純な問題ではないということが分かってきました。

というのも、1度検査で陽性反応が出てしまった場合、国民保健サービス(NHS)からは、回復後90日間はPCR検査を行わないように指導されます。というのも、PCR検査は非常に感度が高く、コロナ感染から回復していても90日間は陽性反応が出てしまう場合があるためです。そのような人が海外への出張や留学を考える場合の措置として、回復証明書(Recovery Certificate)がNHSのサイトのCOVID Passのページを通じて入手することができます。この回復証明書は隔離終了後180日間有効で、例えばオランダやオーストリア、アメリカといった欧米各国は、この証明書による入国を許可しています。外務省のサイトでは「感染履歴証明書」や「治癒証明書」と訳されていることもありますが、その対応が明確です。

しかしながら、日本への入国に関する情報を厚労省のサイト( https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00248.html )を確認してみると、日本人を含むすべての入国者は出国前72時間以内の検査証明書の検査結果の提出が義務付けられており、有効な検査証明書が提示できない場合には検疫法に基づき日本への入国が拒否されるとの記述があります。しかしながら、このページには、真にやむを得ない場合は在外公館に問い合わせるようにと記述があるものの、どのような対応を取っていただけるのかは不透明で、また、回復証明書に関する記述もなく、万が一出張先・留学先でコロナに感染してしまった場合、検査結果が陰性となるまでの約3か月間、現地に留まらなければいけないということなのかと、心がざわつかせられてしまいます。

考えてみると、日本の対応は、上記のページの“真にやむを得ない場合”や、緊急事態宣言時の“不要不急”という言葉に代表されるように、一貫してどこかコロナ患者を突き放し、自己責任論に持ち込んでいるように感じます。また、最近始まったビジネス目的の入国者に対する3日間の隔離短縮措置も、なぜビジネス目的の入国者だけに限定する必要があるのか、その根拠はどこにあるのか極めて謎です。海外諸国の顔色を窺っているにすぎず、本質的な対応とは言い難いのではないでしょうか。

最近では日本のコロナ対策への取り組みが徐々に見直されつつあり、感染状況はだいぶ落ち着いてきているとニュースでよく目にします。しかし、感染してしまった人を取り残し、彼らがどのような対応を求めているのかという声が届かないのであれば、それは大きな問題であり、早急に改善すべきだと私は思います。

【金田侑大 略歴】
スイスはフラウエンフェルト出身。母は日本人、父はドイツ人というバックグラウンドで育つ。日本に移り、愛知県の私立滝中学校、私立東海高等学校を経て、現在は北海道大学医学部医学科4年に在学中。今年の9月よりイギリスのエディンバラ大学に留学し、医療政策や国際保健といった分野を学んでいる。3日あれば旅行に出かけるような北海道観光アンバサダーでしたが、エディンバラではインドア生活を大満喫中。

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