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Vol.203 エディンバラ大学で出会ったコロナに対する取り組み

医療ガバナンス学会 (2021年10月27日 06:00)


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北海道大学医学部医学科
金田侑大

2021年10月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は北海道大学医学部医学科の4年生です。今年の9月より1年間、スコットランドにあるエディンバラ大学に、医療政策や公衆衛生といった分野を学ぶべく留学させていただいています。

イギリスはイングランド、ウエールズ、北アイルランド、そして、私が今いるスコットランドの4つの地域から構成される連合王国です。スコットランドはグレートブリテンの北部に位置し、エディンバラはスコットランドの首都で政治・文化の中心都市です。緯度的にはは日本最北端の宗谷岬よりも北に位置し、Wikipediaには、「他のスコットランドの都市と同様、その緯度に似合わずエディンバラも温和な海洋性気候である。」との記載がありますが、いやいやちゃんと寒いです。ここでは11月までサマータイムを実施しているのですが、スマホの画面に映し出される現在の気温“3℃”という表示に、いったい何がサマーなのだろうと頭をひねらされています。スコッチウイスキーやハリーポッター、ゴルフやカーリングが生まれた土地でもあります。そして実は、卒業式などで歌われる「蛍の光」も、もともとはスコットランドの民謡です。どこを見ても絵葉書で見る中世のヨーロッパ、といった感じで、その街並みは世界遺産に登録されています。

エディンバラ大学はもともと、1582年にスコットランドのジェームズ6世の王室認可の下で、法律の専門機関として開設され、翌年、正式に大学として門戸を開きました。その歴史は英語圏で6番目の古さを誇り、法学部の建物は現在では“オールドカレッジ”と呼ばれ、外観はまさに、ハリーポッターに登場するホグワーツのような雰囲気を放っています。

実はエディンバラ大学が開設されたぐらいの時期から、日本とスコットランドの交流が始まりました。上で登場したジェームズ6世が、イングランド王を兼ねてジェームズ1世として即位した1603年は、日本で徳川家康が江戸幕府を開いた年でもあります。家康は大分に漂着したイギリス人、ウィリアム・アダムス(三浦按針)を外交顧問に任命し、彼を介してジェームズ1世と手紙や贈答品のやり取りをしていました。他にも、1858年に結ばれた日英修好通商条規ではスコットランド出身の第8代エルギン卿が全権として来日しましたし、その翌年には長崎の「グラバー園」で有名なトーマス・グラバーが来日していますが、彼もスコットランドの出身です。

そして、エディンバラ大学は18世紀のスコットランド啓蒙の時代には、デイヴィッド・ヒュームに代表される知識人のハブとして機能したほか、著書、“種の起源”で知られるチャールズ・ダーウィンや電話を発明したグラハム・ベル、大学受験で物理を選択した人なら一度は苦しめられたマクスウェル方程式の生みの親であるジェームズ・クラーク・マクスウェルなど、数々の著名人を輩出しています。HBVワクチンや点滴静脈注射の開発、SARSの発見やクローン羊として有名な“ドリー”の誕生など、医学の分野でも世界的に高い貢献があり、このことが私の留学を後押しした理由の1つでもあります。

最近のコロナ対策も非常に力が入っているのが伝わります。エディンバラ大学では、写真のようなブースがいたるところに設置されており、希望者はいつでも何度でも、無料でPCR検査を受けることができます。また、その検査結果はそのままDataとして蓄積されており、大学で行われている研究に役立てられているそうです。検査を受けたい学生と研究をしたい大学、双方にとってwin-winで、PCRから早期治療に結び付ける流れが確立されており、大変魅力的だと感じました。(写真1、2)

大学での検査結果が陽性だった場合、学生もしくは職員は自己隔離を行った上で、国民保健サービス(NHS)から検査キットを受け取り、再度検査を行います。このキットを受け取るまでの間の自己隔離生活(約1~2日)において、大学から£50(約7500円)の補助金を、電子メールに添付されたバウチャー形式で受けることが可能です。もしこの検査で陰性であれば、通常通りの生活スタイルに戻してよいとされていますが、再度陽性であった場合、ワクチン接種が未完了であれば、症状に関わらず10日間の自己隔離を求められます。ワクチン接種が完了している場合は、症状がなくなり、検査結果が陰性となれば自己隔離は終了してもよいそうです。この自己隔離に対しては、条件次第で地方自治体から£500(約75000円)の補助金が支給されます。

ただ、こちらでは、コロナに対する意識は症状がない限り、本当に希薄なのだなぁというのも肌で感じています。外では誰もマスクなんて付けてないですし、咳をしていても図書館に居座る人たちもザラで、日本での”三密回避”や”緊急事態宣言”というコロナ対策に慣れていた自分は、かなりのカルチャーショックを受けています。これこそがWithコロナだ!と言われれば、なるほどそうなのかもしれません。

しかしながら、近頃のイギリスでは、毎日50000人程度、私のいるスコットランドでは毎日2000人程度の新規感染が報告されています。1日の死者数は200人を超える日もあり、この数字は3月以来の更新だとのことです。そして、入院する患者の殆どが、高齢者や基礎疾患のある方々だそうです。これは、Boosterが間に合わずワクチン効果が薄れてしまったことや、イギリスで感染が広がっている「デルタプラス」という変異株の影響(既に感染者の6%はデルタプラスの感染者だそうです)もあるのかもしれません。しかし、本当にそれだけが理由なのかなと、金曜日になると嬉々としてクラブに繰り出す周りの学生を見ていると、考えないではいられません。

ただ、イギリスの面白いところは、自分たちの行なった政策に対して、feedbackを徹底しているところです。例えば、こちらの記事をご覧ください。
https://www.ft.com/content/20e6bf0b-853c-46cf-9f9b-e1d4351368be
自分たちがコロナ流行初期時に行った、集団免疫戦法とも言えるコロナ対策は失敗だったと、そして何が失敗だったかを再検証して、次にいかしていこうという姿勢が見られます。感染対策の評価を怠り、COVID-19の流行初期時と変わらず、モデリングと三密回避に力を入れている日本とは大違いだと感じます。このような政府の姿勢は、日本も見習うべき点ではないでしょうか。

ただ、イギリスにいる人たちに対しても、せっかくなので一言ぐらい言わせてください。
Let’s wear masks at least.

写真1,2 大学で気軽に受けられるPCR検査
http://expres.umin.jp/mric/mric_2021_203.pdf

【金田侑大 略歴】
スイスのフラウエンフェルト出身で、母は日本人、父はドイツ人というバックグラウンドで育つ。日本に移り、愛知県の私立滝中学校、私立東海高等学校を経て、現在は北海道大学医学部医学科4年に在学中。今年の9月より、イギリスのエディンバラ大学に留学し、現在は医療政策や国際保健といった分野を学んでいる。趣味は天体観測だが、エディンバラはいつも雨。

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