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Vol.22036 イーライ・リリー社の不運

医療ガバナンス学会 (2022年2月10日 06:00)


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志布志市 井手小児科
井手節雄

2022年2月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

19世紀にはいるまで、薬に関する知識はもっぱら伝承によるもので、「薬がどのようにして効くか」ということは分かりませんでした。しかし、20世紀の終盤になり、コンピューター科学が目覚ましい進歩を遂げ、生物学と化学そして物理学を統合する形で分子生物学は一気に進歩しました。
薬が分子レベルでどのように効くかを知ることは簡単になり、また薬が生体に及ぼすリスクを知ることも容易になりました。
このような科学の進歩は、薬の効果と薬の危険性を同時に知ることに繋がりました。そこで「ベネフィット・リスクバランス」の兼ね合いの上での創薬がなされるようになりました。

現代の創薬において「ベネフィット・リスクバランス」ということは最も重要視され、副作用においても「ベネフィット・リスクバランス」ということは大きな問題になります。
しかし、選択的ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害剤として開発されたタダラフィルの創薬において「ホスホジエステラーゼ11(PDE11)を阻害することのリスク」は全く検討されていません。
選択的ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害剤として開発されたタダラフィルの「物質特許」の取得が1995年であり、PDE11の発見が2000年であるということで、イーライ・リリー社は創薬の第一歩において「タダラフィルがPDE11を阻害することのリスク」の検討を怠ってしまったということになりました。

1、創薬におけるイーライ・リリー社の不運

タダラフィルは選択的ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害剤として開発が進められ、1995年に「物質特許」を取得しました。
しかし、「物質特許」取得の5年後の2000年にホスホジエステラーゼ11(PDE11)が最後のPDEファミリーとして発見され、選択的ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害剤と言われるタダラフィルは、実はホスホジエステラーゼ5(PDE5)と同時にホスホジエステラーゼ11(PDE11)も阻害する薬であるということが判明しました。

つまり、基礎研究においてタダラフィルは選択的PDE5阻害剤として、「cGMP(サイクリックGMP)の分解を阻害することのリスク」は検討されましたが、PDE11阻害剤として「タダラフィルがcAMP(サイクリックAMP)の分解を阻害することのリスク」は検討されていません。
タダラフィルは創薬において最も重要とされる「ベネフィット・リスクバランス」の検討がなされることなく「誕生した薬と」いうことになりました。

タダラフィルがPDE11を阻害することのリスクが検討されないまま、「物質特許」を取得して、薬として商品化され販売されたことが、“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”という重大な副作用の発生につながりました。
2、cAMP(サイクリックAMP)とcGMP(サイクリックGMP)の働きの違い

cAMPもcGMPもセカンドメッセンジャーとして生体の恒常性維持のために働きます。
以前はcAMPとcGMPは対なものと考えられていましたが、その後の研究でcAMPとcGMPの働きは全く違うものであることが分かってきました。
cAMPはステロイドの産生と分泌、イオン輸送、糖及び脂質代謝、酵素の誘導、遺伝子調節、細胞の成長及び増殖など生命維持のためのあらゆるシステムに関わります。
一方、cGMPについては、平滑筋の収縮と弛緩などにだけ関与していると考えられています。
タダラフィルによるcAMPの分解阻害は、ステロイドの産生と分泌、イオン輸送、糖及び脂質代謝、酵素の誘導、遺伝子調節、細胞の成長及び増殖までいろんなところに影響を及ぼすことが考えられます。
cGMPの分解を阻害することとcAMPの分解を阻害することはその重要性は格段の違いがあり、cAMPの分解を阻害することは、全身的な生体のメカニズムを破壊することにつながり、非常に危険なことです。

タダラフィルが選択的にPDE5だけを阻害すれば、cGMPが増加して平滑筋が弛緩するだけで、特に問題はありません。
しかし、タダラフィルがPDE11を阻害することにより→cAMPが増加し→リン酸化酵素であるプロテインキナーゼAの活性化が起こり→ミオシン軽鎖キナーゼがリン酸化され→「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こり→血管平滑筋の廃用性萎縮が起こります。
原告は“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”と題して、タダラフィルがPDE11を阻害することで→cAMPが増加し→リン酸化酵素であるプロテインキナーゼAの活性化が起こり→ミオシン軽鎖キナーゼがリン酸化され→「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こり→血管平滑筋に廃用性萎縮が起こる。というタダラフィルの副作用の危険性を指摘しました。
しかし、イーライ・リリー社は裁判において誤誘導、誤誘導サブリミナルという卑劣な手法を講じて、ひたすら副作用の隠蔽を図りました。
そして、肺動脈性肺高血圧症(PAH)治療薬アドシルカ、排尿障害治療薬のザルティアを製造販売しています。
3、なぜ、タダラフィルのような危険な薬が誕生したか

薬を開発する場合の手順は、基礎研究、動物実験、臨床試験があり、そして製造販売の承認申請が行われます。
まず、基礎研究によって薬として開発する物質について安全性が検討されます。そして、有効性、安全性が確認された段階で、化合物の「物質特許」を出願します。
物質特許とは、基礎研究において取得される特許であって、物質そのものを保護する特許です。だいたい物質特許の有効期限は20年です。
そして「薬の特許と言えば、物質特許を意味し」物質特許は医薬品の特許の中で、最も重要な権利範囲の広い特許です。物質特許を取得できれば、開発した医薬品を独占的に製造販売することが出来ます。
他は、用途特許、製剤特許、製法特許が有りますが、タダラフィルという物質に対する「物質特許」が無ければタダラフィルを材料にして、薬を製造販売することは出来ません。
タダラフィルの「物質特許」の申請は1995年ですが、PDE11の発見は2000年です。
つまり、タダラフィルの危険性、安全性を確認する基礎研究の段階では、PDE11の存在は判明していませんでした。
1995年に選択的PDE5阻害剤としてタダラフィルの「物質特許」を申請していますが、1995年にはまだPDE11は発見されていませんでした。
もし、PDE11が1995年以前に発見されていたら
タダラフィルの基礎研究の段階でPDE11が発見されていたら、基礎研究においてタダラフィルによってcAMPが増加することの危険性が問題になり、イーライ・リリー社は薬としてタダラフィルを開発することは断念したと思います。

「図解ワンポイント生理学 人体の構造と機能」の著者である山形大学医学部名誉教授の片野由美先生に話を聞いたことがありますが、片野由美先生も、かつてホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤の研究をなさっていたことがあり、「ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤を開発する中で一番問題なことは、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤は、cAMPの増加をもたらす物質が多く、薬品として開発することは困難だった。」とのことでした。

選択的なホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害剤として開発されたタダラフィルが、新しくホスホジエステラーゼ11(PDE11)が発見されたことにより、ホスホジエステラーゼ11(PDE11)も阻害する薬になってしまったということは薬品開発におけるイーライ・リリー社の不運ということになりました。

タダラフィルが選択的にPDE5だけを阻害すれば、cGMPが増加するだけで、特に問題はありません。
しかし、タダラフィルがPDE11を阻害することにより→cAMPが増加し→リン酸化酵素であるプロテインキナーゼAの活性化が起こり→ミオシン軽鎖キナーゼがリン酸化され→「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こり→血管平滑筋の廃用性萎縮が起こります。

イーライ・リリー社は、研究者8000人を誇る薬品メーカーです。PDE11が発見された段階でタダラフィルがPDE11を阻害することの危険性を確認したはずです。
原告井手は“血管平滑筋に廃用性萎縮とリストラ”と題して、PDE11阻害することで→cAMPが増加し→リン酸化酵素であるプロテインキナーゼAの活性化が起こり→ミオシン軽鎖キナーゼがリン酸化され→「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こり→血管平滑筋に廃用性萎縮が起こる。というタダラフィルの副作用の危険性を指摘しました。
しかし、イーライ・リリー社は裁判において誤誘導、誤誘導サブリミナルという卑劣な手法を講じて、ひたすら副作用の隠蔽を図りました。
イーライ・リリー社と日本新薬株式会社のこのような態度は、薬品メーカーとして許されるものではありません。
4、角を矯めて牛を殺す

角を矯めて牛を殺すという意味は、曲がった牛の角を真っすぐ伸ばそうとして引っ張ったり、叩いたりしていると牛は弱ってきて死んでしまうという意味です。つまり、少々の欠点を直そうとして全体をダメにしてしまう例えです。

タダラフィルの副作用で一番問題にすべきは、肺動脈性肺高血圧症治療薬アドシルカの危険性です。私はザルティア5㎎を1年ほど服用したところで、起立性低血圧(94/56mmHg)による脳貧血発作を発症し2週間ほど寝込みました。この時の血圧低下は150/90mmHgあった血圧が94/56mmHgに低下していました。
そして、血圧低下(150/90mmHg→110/60mmHg)の後遺症が残り、易疲労性、倦怠感などの体調不良に悩まされています。

肺動脈性肺高血圧症(PAH)という病気は何らかの理由で肺の細い動脈の動脈硬化が起こり、細くなるために、肺における酸素と炭酸ガスの交換がうまくいかなくなる病気です。
初めのうちの症状は、倦怠感とか息切れですが、放置すると数年で死亡する病気であって難病に指定されていて、日本で1万人ほどいると言われていて30台の女性に多い病気と言われます。
肺動脈性肺高血圧症(PAH)の患者の死因は酸素不足によるもので、25%が突然死、50%が右心不全と言われています。
PAHの患者に私に起こったような起立性低血圧が起こった場合、血圧低下による酸素不足はPAH患者の右心不全、突然死を意味します。
しかも、アドシルカの用量はザルティアの8倍の40mgです。アドシルカはPAHの患者にとっては絶対禁忌とも言える薬です。
アドシルカの服用により、6分間歩行は改善し、一時的には呼吸困難、易疲労性も改善します。しかし、右心不全、突然死の危険性が待っています。
アドシルカは6分間歩行が改善し、一時的に呼吸困難が改善するという「ベネフィット」と右心不全、突然死という「リスク」について「ベネフィット・リスクバランス」の検討は全く行われていない薬です。
まさにアドシルカは「角を矯めて牛を殺す」薬です。

同じ肺動脈性肺高血圧症治療薬に、レバチオという薬があります。レバチオもホスホジエステラーゼ5阻害剤ですが、レバチオの物質名はシルデナフィルであって、ホスホジエステラーゼ11(PDE11)は阻害しないために“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”という副作用は起こりません。
同種同効薬でありながら、アドシルカとレバチオは副作用においては全く別物です。

タダラフィルによる血圧低下は簡単に起こります
二人の泌尿器科医の友人も「ザルティアは血圧低下のひどい人がいて、ザルティアによる治療は打ち切った」と言っていました。
抵抗血管といわれる細動脈の血管壁には弾性繊維は無くて、細動脈の血管壁は1~2層の血管平滑筋によって形成されています。
この細動脈において“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”という副作用が起こった場合、細動脈の血管トーヌスは簡単に低下し、また細動脈の収縮力も低下するために「重大な起立性低血圧」が起こります。
起立性低血圧の発症は、肺動脈性肺高血圧症(PAH)にとっては右心不全、突然死を意味します。アドシルカによるPAH患者の犠牲を食い止めるために、副作用の危険性が周知されることを願っています。

専門家の間で何故問題にならないのか
私が調べた中では、田村雄一氏の論文を除いては、タダラフィルがPDE11を阻害することの危険性に触れた論文は見当たりませんでした。
タダラフィルがPDE11阻害剤であるということを知っている医師も少ないですしタダラフィルの物質特許の取得において、PDE11を阻害することの危険性は検証されていないということを知っている医師は全くいませんでした。
そして、添付文書のからくりもあり、PDE11阻害の危険性は見逃されているのではないかと思いました。

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