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Vol.22075 バイデン大統領が「大統領権限を委任してまで大腸検査を受けに行った」納得理由

医療ガバナンス学会 (2022年4月7日 06:00)


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この原稿は幻冬舎ゴールドオンライン(2月19日配信)からの転載です。
https://gentosha-go.com/articles/-/41007?per_page=1

仙台厚生病院消化器内科 医師
齋藤宏章

2022年4月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●大腸検査を「受けたがらない人」は少なくないが…

「大腸検査を受けたことはありますか?」

私は普段、胃カメラや大腸カメラなどの内視鏡検査を行っており、よくこうした質問を患者さんに投げかける。

「毎年検査(検便)を受けています」や、「以前ポリープがあったので定期的に受けています」と答えてくれる方がいる一方で、「昔、大腸カメラを受けたことはあるけど大変だった」や、「検便に引っかかったことはあるけど、ちょっとね」「検査は何もしていません」と、検査に対して尻込みをする方の意見もよく伺う。

大腸の検査は大変、というイメージの方も多いが、実際検査を受けるメリットはあるのだろうか。今回は大腸検査に関して掘り下げていきたいと思う。

●米大統領も「大統領権限を委任してまで」受けに行った

2021年11月に大腸カメラに関するちょっとしたニュースが話題になった。“大腸カメラのおかげで米国初の女性大統領誕生した”、というものである。どういうことだろうか。

実はこれは少し誇張された表現であるが、米国のバイデン大統領が定期検査での大腸カメラを受けるために麻酔を受けている間、女性副大統領のハリス・カマラ氏に一時的に大統領権限が委任された、というニュースである。一時的であれ、米国で初の大統領権限を持つ女性が誕生したことになり、米国の主要紙が取り上げる事態になった。

ちなみに、過去にはジョージ・W・ブッシュも同様に在職中に2回、大腸カメラのために副大統領に権限を委任したという。アメリカの大統領のような、重責にあり多忙を極める人でも大腸カメラは優先してやってきたわけだ。

●米大統領はなぜ、そこまでして大腸検査を受けるのか?

―「検査などで発見するか、症状が出てから判明するか」でこれだけの差―
では、なぜそこまでして大腸の検査を受けようとするのだろうか。大腸検査で発見できる病気にはいくつかあるが、その中でも、主たる目的は大腸がんの発見と予防だろう。大腸がんは、早く見つけることができれば治る可能性が高く、あるいは検査によって予防することができると考えられるからだ。

症状が出る前に、たとえば検診で見つける場合では、一般的に大腸がんは早期で発見されることが多いと分かっている。日本消化器がん検診学会が発表している2017年度の日本全国のがん検診の集計では、検診発見の大腸がんの約52%はステージIの大腸がんであった。これが、症状が出てから診断がついた例も含む院内登録のデータベースでは、ステージIの割合は3割弱まで落ち込む。ステージIの大腸がんは5年生存率が90%を超えており、治せる段階であることがほとんどであるため、症状が出る前に見つけることが重要になってくる。

あるいは、大腸検査を受けることで大腸のポリープを見つけることができる。大腸がんの大多数はポリープが成長して発生するものと知られている。このため、あらかじめポリープを切除しておくことで、がんの発生を予防することもできる。

考えてみると、検査などの医療行為で発生を防げるようながんは実は多くない。検査を受けておかないのはもったいない、ということで、大統領のような忙しい人でも率先して検査を受けるワケである。

●無症状でも受けるべき?大腸カメラ以外の検査方法は

では特に症状がない場合でも、全員が大腸カメラを受ける必要があるのだろうか。これに関しては一概に答えのない問いではあるが、日本ではまず、症状がない方への検査としては、便潜血法による検査が推奨されている。対策型検診(市などの自治体単位や、職場単位などで全員に受けるよう促す検診)では初めから大腸カメラを受けることは推奨されておらず、便潜血法(キットで便を採取し提出する方法)が推奨されている。

便鮮血法は身体への負担が少ない簡易な検査で、かつ、継続することで大腸がん発見に役立つ、大腸がん死亡の減少効果が示されていることがこれまでの研究からはっきりしているためである。大腸カメラは、腸の内部を直接観察できる優れた検査であることは異論がないが、検診として提供する場合、費用の負担や全員に提供するための検査体制などの構築が難しい、大腸カメラの検査のリスクも考慮する必要があるといった背景も含まれている。

一方で、初めから大腸カメラを検診として用いることの有用性も様々な研究で示されつつある。実際に、米国の一部州や、ドイツ、ポーランドは大腸がん検診のプログラムに大腸カメラを組み込んでいる。日本でも検診に大腸カメラを組み込んでいくことの有効性を確かめる研究が行われており、今後、大腸カメラ検査自体が検診に組み込まれていくような流れになっていく可能性がある。

このように考えると、特に症状のない人はまず、市や職場が提供する便潜血検査を遂行し、これに引っかかる場合や、実際に血便などの症状がある場合は保険診療で大腸カメラをしっかりと受ける、というのが重要である。

また、特に大腸カメラの検査を重視したい人は、人間ドックなどの任意型の検診で大腸カメラを受ける、というのも検査のメリットを重視する立場からは有用と思われる。

●「大腸カメラ=痛い検査」は意外と過去の話

大腸の検査をすすめると、「昔の大腸カメラの検査は痛かった、大変だった」と過去の検査中の苦痛が、その後の検査をためらわせているケースに遭遇することが少なくない。だが、実は最近の検査は苦痛を緩和する方法が取られている。その一つに鎮静剤の使用がある。

上述のバイデン大統領の例では、大腸カメラ施行の際に、麻酔の使用=意識がなくなるために、大統領権限の移行が行われている。実は米国やヨーロッパでは通常の大腸カメラを行う時に麻酔や鎮静剤を使用して行うことが珍しくない。2006年に米国で行われたアンケート調査では、実に98%以上の胃カメラや大腸カメラは鎮静剤を併用して行われていた。

―日本でも鎮静剤を使用できる病院・クリニックが増加中―

最近では日本でも鎮静剤を使用して内視鏡検査を行っている病院やクリニックは増加している。筆者も鎮静剤を用いて大腸カメラを行うことがよくあるが、患者さんに「昔よりも楽だった」と言っていただけることも少なくない。

もし、検査を受けたほうが良いと言われているのに、痛そうだから、という理由で躊躇している場合には、鎮静剤を使用している病院やクリニックを探してみる、かかりつけの医師に相談してみるというのも一手である。

検査を受けましょう、と言われるのは誰しも気が引けることであるが、もし検診に引っかかったり、医師に検査をすすめられたりした際には“大腸の検査は受けないともったいない”、と勇気を出して受けてみてはいかがだろうか。

<参考文献>

WALL STREET JOURNAL『How Kamala Harris Became First Woman to Serve as Acting U.S. President 』(https://www.wsj.com/articles/how-kamala-harris-became-first-woman-to-serve-as-acting-u-s-president-11637349786

The American Journal of Gastroenterology『Endoscopic Sedation in the United States』(https://journals.lww.com/ajg/Abstract/2006/05000/Endoscopic_Sedation_in_the_United_States__Results.11.aspx

日本消化器内視鏡学会 2020年8月発行『大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン』

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