医療ガバナンス学会 (2022年4月6日 06:00)
この原稿はAERA dot.(3月23日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2022032200040.html?page=1
ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医
山本佳奈
2022年4月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
オミクロン株の感染流行を受けて実施されていた「まん延防止等重点措置」が、およそ2カ月半ぶりに解除となりました。勤務のために満員電車には乗るけれど、それ以外の外出はほとんどなくなり、外食も滅多にしなくなったという習慣にもすっかり慣れてしまいました。
3月13日、日本における3回目の追加接種率は30.2%となり、アメリカ(29.0%)の接種率を超えてG7の中で最下位から脱出したと報道されました。現在、多くの自治体で積極的な追加接種の呼びかけが行われていますが、第6波がピークアウトした今になって接種を急ぐ必要があるのか、私はとても疑問に感じます。
とはいえ、私自身は2月初めに追加接種を済ませています。外来現場で、オミクロン株の感染力の強さを目の当たりにしたからです。感染者数がみるみるうちに増加していき、1月下旬には、発熱や喉の痛みなど、風邪症状を訴える人が外来であふれかえるほどでした。追加接種の連絡がなかなか来ず、感染者のあまりの多さに「自分もいつかオミクロンに感染してしまうだろう……」と覚悟するほど、精神的に追い詰められていました。
追加接種の接種券が多くの方に届いている今、「3回目のワクチンをいつ打つか、迷っています」と相談されることが増えてきました。そこで今回は、接種時期を迷っている方には、どのようなことをお伝えしているのかをお話したいと思います。
2022年3月15日時点の3回目の追加接種の接種率は、イタリアが63.5%、ドイツが57.5%、イギリスが56.5%、フランスが53.4%と欧州で高い水準です。欧米の国々で3回目の追加接種が急ピッチで進められ、これほど高い接種率を記録しているのは、昨年末にオミクロン株の感染が急拡大したからです。
実は、昨年8月末の時点で、すでに英国の公衆衛生当局の研究結果から3回目の追加接種が必要になることが予測されていました。米国のファイザー製あるいは英国のアストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンを2回接種した100万人以上を対象に、2021年5月から7月の間に新型ウイルスのPCR検査で陽性となった人のデータを用いて解析したところ、日本で主に接種されているファイザー製ワクチンによる感染予防効果は、2回目の接種から1カ月後には88%、半年後には74%に低下していたのです。
昨年8月から追加接種が開始されていたイスラエルから、追加接種の効果について昨年12月に報告されました。イスラエルの約116万人を調査したところ、ファイザー製の新型コロナワクチンの3回接種は2回接種に比べ、重症の新型コロナウイルス感染症をより防いだというものでした。他のイスラエルの調査で、3回接種した人は2回接種の人と比較して、新型コロナウイルス感染症の死亡率が10分の1で済んでいたことも報告されていました。
このような報告があったにもかかわらず、8カ月経過していないいと追加接種できないという根拠はないにもかかわらず、日本では、原則8カ月以降でないと3回目の追加接種を打つことができないことが決まってしまいました。案の定、欧米から遅れること1カ月強、オミクロン株の感染が急速に広がってしまったのでした。日本も早く接種を終えていた人から接種を開始していれば、第6波はこれほどひどくならかなった可能性も十分あると思うと、残念でなりません。
昨年の日本での新型コロナウイルスの流行の推移を見てみると、この冬のオミクロン株の流行の前は、昨年の8月末にピークがありました。今年も同時期に流行がある可能性があることや、第6波は終息しつつあること、3回目の接種による効果が約半年後には落ちてしまうこと、新型コロナウイルスワクチンの接種回数を増やしたところでオミクロン株や他の変異株の流行の解決にはならないかもしれない報告結果を考慮すると、今となっては3回目の追加接種を急ぐ必要はないでしょう。
厚生労働省は、今年の9月30日まで追加接種が受けられるとしています。まだ追加接種を受けていない方、これから追加接種を受けようと考えている第6波で新型コロナウイルス感染症に感染した方には、私は4月中旬からや5月にかけて追加接種を行うことををおすすめしたいと思います。