最新記事一覧

Vol.22085 最も「オミクロン株の感染リスク」が高いのはどんな人?

医療ガバナンス学会 (2022年4月21日 06:00)


■ 関連タグ

この原稿は幻冬舎ゴールドオンライン(1月23日配信)からの転載です。
https://gentosha-go.com/articles/-/40383?per_page=1

ひらた中央病院 非常勤医師
福島県立医科大学博士課程(放射線健康管理学講座)
麻酔科医・内科医
小橋 友理江

2022年4月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●コロナ第6波の最大勢力、「オミクロン株」の特徴は?

新型コロナの第6波の勢いが止まらない。それに伴い、3回目の新型コロナに対するワクチン接種の前倒しが叫ばれるようになった。昨年の「2回目接種から8ヵ月経過」への強いこだわりがなければ、少しでも多くの高齢者が3回目のワクチン接種を、この最大の感染の波が来る前に、受けられたのかもしれない、と思うと残念でならない。

第6波の主体はオミクロン株となっているが、このオミクロン株とはどのような特徴があるのだろうか? ざっくりとは、デルタ株と比べると、重症化が少なそうである。また、デルタ株と比べると、感染する力が強そうである。このオミクロンの重症化と感染力に、新型コロナのワクチン接種はどのように影響を及ぼすのだろうか?

●「接種回数・接種後の経過日数」でみるワクチンの効果

-2回接種の場合、接種後20週目で予防効果は10%程度に低減-
昨年の大晦日に、イギリス政府より重要なレポートが報告された(*1)。主に12月に市中感染(病院の外で判明した感染)した方を対象としており、ワクチンを接種していない方との比較を行なっている。ファイザー社製新型コロナワクチンを2回接種した方だと、接種から20週経過した時点では、オミクロン株に対する感染を防ぐ効果は、残念ながらたったの10%程度であることがわかった(デルタ株に対しては約60%)。

一方で、ファイザー社製新型コロナワクチンを3回接種した方だと、オミクロン株に対して、接種から4週目までは70%程度の防御力があるものの、10週以降では50%程度まで低下することがわかった(デルタ株に対しては、10週以降でも90%程度の感染防御力が持続)。

-ただし、重症化リスクは「ワクチン接種の有無・回数」で雲泥の差-
重症化を防ぐ効果については、どうだろうか。新型コロナワクチン(種類は問わない)を2回接種した方については、接種から24週までの方では72%程度、25週以降の方では52%程度入院を防ぐ効果があるということがわかった。3回目接種後2週までだと、88%程度入院を防ぐ効果があることがわかった。

ワクチンの効果は、デルタ株と比べてオミクロン株については弱まってしまっている。しかしこれらの情報はオミクロン株の怖さを闇雲に煽っているわけではないことに注意したい。もともとオミクロンはデルタ株に比べて重症化率は低く、以前に比べ感染した経験のある方が多いこと、2回目接種を多くの国民が完了したこと、データがイギリスのものであることなど、影響を正しく解釈するためには考慮すべきことがそのほかにも沢山ある。しかし2回のワクチン接種では、オミクロンを防ぐのに不十分であるのは確かだ。

●第6波、「最も感染リスクが高い人」は…

結果を見て読者の皆様はどう思われるだろうか。日本では医療者、高齢者、一般の方の順にワクチン接種が進んできたが、一番危険なのは2回目接種から日数がたち、3回目接種をまだ受けることができない方である。

たとえば7月に2回目のワクチン接種を受け、接種から6ヵ月がたった高齢者の方がいるとしよう。数字上ではオミクロン株の感染を防ぐ力は10%以下、入院を防ぐ力は50%程度、ということになる。このような状況の方がたくさんおられるのを考えると、恐ろしくなる。

いかに免疫力が落ちてきているかは、抗体の値を見ても明らかである。筆者は、福島県の医療法人誠励会、相馬市、南相馬市、平田村からのべ2500人以上が参加してくださっている、福島県立医大が行う継時的な新型コロナの抗体検査に携わっている。抗体の値は、2021年9月の時点で、特に高齢者を中心にすでに大きく低下していた(*2、結果の詳細はHPをご覧いただきたい)。現在2021年12月に行なった検査の結果が少しずつ出始めているが、12月の時点では、9月と比較して抗体の値がさらに大きく低下している。

上記の大規模調査を通して筆者は、新型コロナのような緊急事態には、目に見えない脅威を数値として示し、対策について様々な部門や立場の人が意見を交換し、対策を進めていくことが重要だと学んだ。イギリスのレポートも、そのような流れの中で生み出されたものかもしれないと思う。本来であれば国がこのような動きを行う責任があるのかもしれないが、日本は、データや科学に基づいた決定は苦手なのかもしれない。ただ地域自治体レベルだと、行政や医療機関、大学やメディアなどが協力し、数値やデータに基づいた対策を考えていくことは可能だろう。このようなパートナーシップが上手くいくためには、個人的な人脈の力や、共に仕事をしたことによる知識や経験も重要になってくる。

第6波で一番の危険に晒されているのは、新型コロナのワクチン接種を行なっていない方は当然だが、ワクチンを2回接種済みの方でも、特に接種から時間がたった高齢者だろう。このような方々に感染が広がり、入院患者が増え、医療が逼迫することが懸念されているのは明らかである。高齢者への3回目接種、筆者も今週から打ち手として参加するが、できるだけ迅速に進めなくてはならない。すでに手遅れとは思いたくない。総力を上げて、3回目接種を迅速に行える体制を後押ししてほしい。
*1)UK Health Security Agency, SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England. Accessed 1.16.2022 (https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1045619/Technical-Briefing-31-Dec-2021-Omicron_severity_update.pdf

*2)医療法人 誠励会ひらた中央病院 Webサイト(http://www.seireikai.net/)

相馬市 Webサイト(https://www.city.soma.fukushima.jp/shinososhiki/somuka/medical/10823.html?fbclid=IwAR28cbQWk0Ro0ZzQyTnZLKHxodB1NOgmcFhCuLPmxolcs20plAINSPE1F5s
南相馬市 Webサイト(https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/14/1445/1/1/16559.html?fbclid=IwAR3qhiDs-e0iL6539zMCcrqHJDCXN9vOrcXq5OGoGxnvLnqjULLP6Dl9mn0

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ