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Vol.22087 マスクを外したスコットランドの人々

医療ガバナンス学会 (2022年4月25日 06:00)


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北海道大学医学部4年
金田侑大

2022年4月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

スコットランドの最後のコロナ規制法であるマスクの着用義務は、イースターマンデーで撤廃されます。(訳:金田)

平素よりお世話になっています、現在、スコットランドにあるエディンバラ大学に留学させていただいております、金田侑大と申します。
冒頭のニュースが私の耳に入ってきたのは、4月に入ったばかりのことだったと思います。既にイングランドでは、2月24日からコロナに関する規制は完全に撤廃されておりました。私はずっとエディンバラにいたのであまり実感はなかったのですが、それでも学内の無料PCR検査ブースなどがなくなっているのを見ると、もうすぐコロナが蔓延する以前の“日常”が戻ってくるのかなと、なんとも形容しがたい不思議な感覚で過ごしておりました。その一方で、規制がなくなるとはいえ、マスクをつけるぐらいは、誰もが自発的に行うことなのでは、とも思っていました。
規制がなくなったとはいえ、コロナ自体がなくなったというわけではありません。感染対策としての手指消毒やマスクの着用の効果はこれまで何度もメディアなどでも報告されてきている部分であり、誰もがその重要性を理解しています。しかしながら、イースターマンデーを過ぎた4月22日現在、どうやら図書館でマスクをしているのは私だけのようです。これまではマスクを着けていないと、“It’s mandatory.(しなきゃだめだよ)”と注意して回っていた清掃のおじさんも、もうマスクを着けていないではありませんか。スーパーに行っても、電車に乗っても、もう誰もマスクを着けていません。果たしてこれは本当に、正しい判断なのでしょうか。

London school of hygiene and tropical medicineは、イギリスの人口の97%がすでにワクチンの接種やウイルスの感染によって、新型コロナウイルスへの免疫を持っているとしています。また、国民保健サービス(NHS)も、今回の規制撤廃について、科学的根拠に基づく措置だと強調しています。確かに、重症化率の低いオミクロン株の蔓延により、コロナに罹った人であっても、その多くが数日程度で回復しています。
しかしながら、現在、コロナによる後遺症、いわゆるlong Covidに焦点を当てた研究が加速しているのが世界の潮流であり、その多くの実態は、まだわかっていないというのが本当のところです。英国では、約150万人が4週間以上にわたるコロナ感染による後遺症に悩まされており、そのうちの約70万人は症状が1年以上続いていると、国家統計局(ONS)は推計しています。たとえ軽度の感染であっても、心臓病のリスクが高まる可能性や、脳(記憶など)に影響を与える可能性が報告されているほか、疲労感や味覚や嗅覚の変化、関節痛などが報告されています。このような情報が、メディアなどで報道されていないわけではありません。そのため、イギリス政府、国民は、このような知見を無視しているのではないかと感じてしまいます。

イングランド全土には、約90か所のlong Covid assessment centreが開設されています。現在のところ、効果が証明された薬物治療はないため、主に症状を管理し、可能であれば徐々に活動量を増やしていくことに重点を置いているこの施設は、北アイルランドにも開設されていますが、スコットランド・ウェールズにはまだ存在しておりません。そのため、コロナの感染拡大を防ぐことの重要性は、依然、軽視されるべきではありません。保健省は、検査、追跡、隔離の予算は2021-22年で、157億ポンド(2兆6200億円)以上の費用がかかったと述べています。しかしながら、無料検査の廃止は、国民の健康格差を拡大させてしまうばかりか、高リスク群への感染の可能性を高めてしまう危険性があります。上海で行われた研究では、感染者の95%が無症状だと報告されたように、今後、感染拡大を防ぐためには、再び無料で検査を提供できるように、アプローチを変える必要があるのではないか、と私は感じます。

そして、エディンバラに来て8か月ほどがたった今、西欧系の人たちは個人主義が強く、何事も義務化されなければやらない民族だなと感じます。逆に、義務化されたことに対する責任感は強く(一部レジスタンスもいますが)、日本のようななぁなぁで解決してもらえない雰囲気も感じます。法規制撤廃を受け、スコットランドの人々がマスクを外した今、リスクを伝えても、人はいつでも合理的に動くわけではないということを頭に入れ、一人一人の人間と対峙することの重要性は、将来、医療を志す身としても、忘れてはいけない部分だとも感じました。

【金田侑大 略歴】
フラウエンフェルト(スイス)出身。母は日本人、父はドイツ人。私立滝中学校、私立東海高等学校を経て、現在は北海道大学医学部医学科4年に在学中(2年目)。2021年9月よりイギリスのエディンバラ大学に留学し、医療政策・国際保健を学んでいる。最近、愛用のパソコンが、一言も断りなく電源が落ちるようになりました。5年目のSurfaceよ、寝る前に一言ちゃんと伝えておくれ。

 

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