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Vol.22088 ホットドッグ1個で「健康寿命が36分間縮む」…米国の「食生活が健康・環境に与える影響」の研究結果

医療ガバナンス学会 (2022年4月27日 06:00)


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この原稿は幻冬舎ゴールドオンライン(3月1日配信)からの転載です。
https://gentosha-go.com/articles/-/41236?per_page=1

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員
大西睦子

2022年4月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●食生活が健康・環境に影響することは知られているが…

◇「食生活の小さな変化で、健康や環境に大きな利益」。米国での研究結果
米ミシガン大学の研究者らによる2021年8月の「ネイチャー・フード(Nature Food)」の報告によると、ホットドッグを食べると36分間の健康寿命を失い、代わりにナッツを1食分30g食べると26分間の健康寿命が得られるとのこと(※1)。

論文の著者である同大学環境健康科学科オリビエ・ジョリエット博士とカテリーナ・スティリアヌ博士は、非営利メディア「ザ・カンバセーション(The Conversation)」に次のように述べます(※2)。

「米国では、高級レストランからファストフードのチェーン店まで、ベジタリアンやヴィーガンのメニューがありふれています。そして多くの人が、自分の食べ物の選択が、自らの健康や地球の環境に影響することを知っています。ただし、スーパーでミックスベジタブルを買ったり、スポーツバーでチキンウィングを注文するという個々の選択が、個人の健康や環境にどれだけ影響するのか、日常生活ではなかなか分かりません。私たちはこのギャップを埋めるために、研究を進めています。最終的に知りたかったのは、私たち一人ひとりの健康を増進し、環境への影響を減らすために、食生活を抜本的に変える必要があるのかということ、そして、人類の健康と地球のために意味のある変化をもたらすには、みんながヴィーガンになる必要があるのでしょうか? ということです」

これまで、個々の食品の健康や環境に与える影響を、直接比較する方法はありませんでした。そこで博士らは、さまざまな食品を選択した場合の健康への負担を初めて具体的に数字で示しました。すると食生活を少し見直すだけで、より長生きし、より環境に優しい生活につながることが明らかになったのです。

※1 https://www.nature.com/articles/s43016-021-00343-4?fbclid=IwAR2C6paRI772PhlHrIyKYlnBM2S9LLsHfFz86AuVkeNqTr-NC6zCEfPP79k
※2 https://theconversation.com/individual-dietary-choices-can-add-or-take-away-minutes-hours-and-years-of-life-166022

◇各分野の専門家が集結し、研究チームを結成
この学際的な研究のために、食のサステイナビリティ(持続可能性)、環境衛生、栄養の専門家がチームを組みました。ジョリエット博士は、ライフスタイルメディアの「マインドボディグリーン(MBG)」に「このコラボレーションはユニークであり、時宜を得たものでした」と語ります(※3)。

数十年間にわたり環境ライフサイクル分析(食品のライフサイクルに与える累積的な影響の研究)に携わってきたジョリエット博士は、「栄養は常に見落としてきた要因の一つ」と指摘します。「ライフサイクルアセスメントでは、原材料の抽出、製造、サプライチェーン、そして使用や廃棄…ライフサイクルのすべての段階を見ます。通常、ライフサイクルアセスメントを行う人は、人間の健康への影響(これは大きな影響です)を考慮しません」「率直に言って、最初からそうしなかったのは愚かでした。食品の栄養価は、その食品が地球にとってどれだけ健康的であるかを左右するものだからです」と語ります。

一方、栄養士もこれまで同じように縦割りでやってきたので、より全体的なデータベース、つまり個々の食品が、健康と環境に与える影響を測定するデータベースを作ることは、どちらの専門家にとっても新鮮な挑戦だったそうです。

※3 https://www.mindbodygreen.com/articles/health-and-environmental-impact-of-individual-dishes-study

●各食品が健康・地球環境に与える「具体的な影響」

◇ホットドッグ1個で「失われる健康寿命」は36分間

MBGによると、研究チームは当初から、研究成果を人々にすぐに理解してもらえるような形で発表したいと考えていたそうです。そこで、カロリーや飽和脂肪の含有量だけでなく、ある食品が「健康的な生活」を何分間ほど足しうるのか、あるいは減らしうるのかを推定しました。

共著者の栄養士ビクター・フルゴニIII博士らが開発した「健康栄養指標(HENI)」は、「世界疾病負担率(GBD)」という大規模な疫学調査に基づいています。GBDは、世界中の7,000人以上の研究者が協力して作り出した、世界規模の総合的な調査とデータベースです。HENIでは、GBDから得られた15種類の食事リスク因子と疾病負荷の推定値を、国民健康・栄養調査の「What We Eat in America」データベースに基づいて、米国で人気の食品の栄養プロファイルと組み合わせました。プラスのスコアをもつ食品は健康寿命が増え、マイナスのスコアをもつ食品は健康寿命に悪影響を及ぼします。

たとえば、米国で加工肉を食べると、1gあたり平均0.45分間の健康寿命が失われることがわかりました。この数字に、研究者らが開発した食品プロファイルを掛け合わせます。ホットドッグの場合、ホットドッグサンドに含まれる61gの加工肉は、この加工肉の量だけで、27分間の健康寿命が失われることになります。そして、ホットドッグに含まれるナトリウムやトランス脂肪酸などの他の危険因子を考慮すると、健康寿命がさらに10分間減りますが、健康な多価不飽和脂肪酸で、健康寿命が1分間増えます。最終的に、ホットドッグを1個食べるごとに、健康的な生活が36分間も失われることになります。

http://expres.umin.jp/mric/mric_22088-1.pdf
[図表1]参考:各食品と健康寿命の増減(1):研究結果を基に筆者作成

http://expres.umin.jp/mric/mric_22088-2.pdf
[図表2]参考:各食品と健康寿命の増減(2):研究結果を基に筆者作成

http://expres.umin.jp/mric/mric_22088-3.pdf
[図表3]参考:各食品と健康寿命の増減(3):研究結果を基に筆者作成
◇ペパロニピザ1枚なら健康寿命は約5分間短縮、二酸化炭素を0.55kg排出

さらに博士らのチームは、5,853の食品や料理について、このような数値の計算を繰り返し、健康栄養指数(Health Nutritional Index)を作成しました。そこから、18の環境要因(オゾン層破壊、輸送中に放出される粒子状物質、水の使用など)を考慮して、各食品の短期的な地球温暖化への影響を考え出しました。その結果、167種類の食品の健康寿命は36分間の損失から33分間の増加まで、短期的な地球温暖化への影響は0.0005~5.7kg -CO2eq(CO2eq:二酸化炭素換算値。地球温暖化係数〔GWP〕に基づき、様々な温室効果ガスの排出量を比較するために用いられる尺度。他のガスの量を同じ地球温暖化係数を持つ二酸化炭素の等量に換算したもの)に及びます。

たとえば、チェダーチーズ1つは、健康寿命を1.4分間短縮し、0.3kg -CO2eqを排出することがわかりました。ペパロニピザ1枚は健康寿命を約5分間短縮し、0.55kg-CO2eqを排出。りんご1個は、健康寿命を13分間延ばし、0.02kg-CO2eqを排出します。

研究者らは、最後に、米国で最も人気のある167の食品について調査結果を発表し、健康と環境の組み合わせに応じて、それぞれの食品を緑、黄、赤の3色に色分けしました(※4)。信号機のように、緑色の食品は健康に有益な効果があり、環境への影響も少ないため、食事で増やすべきで、赤色の食品は減らすべきであるとしました。

緑色:食生活で増やすことが推奨される食品で、栄養的にも環境的にも有益な食品を示しており、ナッツ類、果物、一部の魚介類、全粒穀物、野菜、豆類などが含まれます。

赤色:栄養または環境に大きな影響を及ぼし、食事量を減らすか避けるべき食品が含まれています。栄養面での影響は主に加工肉が、気候やその他の環境面での影響は牛肉や豚肉、ラム肉、加工肉など。

黄色:栄養的にやや有害か、環境への影響が中程度で、緑色と赤色の基準を満たさない中間にある食品です。ほとんどの鶏肉、乳製品(牛乳、ヨーグルト)、卵を使った食品、調理済み穀物(米など)、および温室で生産された野菜は、黄色に該当します。

ほとんどの場合、体に良い食品は環境にも良い傾向にあります。ただし、温室栽培の野菜や、養殖の魚など、栄養価の高い食品でも、地球温暖化への影響が意外に高いものもありました。つまり、栄養的に有益な食品が必ずしも最も低い環境影響をもたらすとは限らず、その逆もまた然りであるということ。

スティリアヌ博士は同大学のニュースに「これまでの研究では、植物性食品か動物性食品かという議論に終始することが多かった」「植物性食品は一般的に優れていることが分かっていますが、植物性食品と動物性食品のどちらにもかなりのバリエーションがあります」と言います。

また、1日の摂取カロリーの10%を牛肉や加工肉から、全粒穀物、果物、野菜、ナッツ、豆類、厳選した魚介類に置き換えるだけで、米国の消費者の食事の二酸化炭素排出量を平均3分の1減らし、1日に健康寿命を48分間延ばせることも明らかになりました。これは、このような限られた食生活の変化で、健康や環境の大幅な改善となります。

MBGによると、博士らの研究は、私たちが一口食べるごとに健康寿命を何分間得たか、失ったかにこだわるように仕向けたわけではありません。むしろは、この研究をきっかけに、健康や地球のために、身近にある赤い食品をほんの少し、緑の食品に置き換えてほしいと願っています。「食生活の小さな変化で、健康や環境に大きな利益」。さっそく、今日の食事からほんの少し、食品を置き換えてみませんか?

※4 https://news.umich.edu/small-changes-in-diet-could-help-you-live-healthier-more-sustainably/

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