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Vol.22112 「女性支援新法」成立に感謝して

医療ガバナンス学会 (2022年6月7日 06:00)


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神奈川県議会議員
小川久仁子

2022年6月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現在開かれている第208回国会(常会)で、超党派女性議員により議員提案された新法が審議され、可決成立した。
「困難を抱える女性への支援に関する新法」である。
この新法は、DVや貧困により困難を抱える女性を支援保護する根拠法が、売春防止法であることに異議を唱え、困難を抱える女性を支援するために新法を制定するべきだ、とするわれわれ女性の主張が実った結果である。
提案は超党派女性国会議員であったが、携わった女性議員の方々にも感謝を申し上げたい。
また、女性保護事業に関わる民間団体の方々や、女性の権利、地位向上に努力されてきた、お茶の水女子大名誉教授、戒能民江先生を始めとする有識者の方々が、関係省庁に要望活動を繰り返してきた、長い年月の努力の成果といえよう。
神奈川県議会では、2015年(平成27年)7月に「売春防止法の抜本的な改正又は新たな法整備を求める意見書」を全国で初めて国へ提出した。そして、国会に新法プロジェクトチームが設立されたのが翌年だったという事実と、その後の地道な活動が今回の審議に微力ながら効果があったかもしれないと思うと、喜びを禁じ得ない。また、神奈川県女性県議の勉強会から発想し、同県女性幹部職員たちとの意見交換の中で、生まれた意見書である、という点において、画期的である。

まず、その意見書をお読みいただきたい。非常にコンパクトに問題点をまとめている。

売春防止法の抜本的な改正又は新たな法整備を求める意見書
生活困窮や家庭環境の破綻などにより正常な生活を営むことが困難であるなど、保護、援助が必要で、かつ他法で支援できない女性やDV被害者への支援は、女性相談所等の女性保護事業が担っている。このような支援対象のほとんどは、施設設置の根拠法である売春防止法が当初想定していた「売春」とは関わりないが、同法は昭和31年の制定以来抜本的に改正されることなく現在に至っている。
女性の貧困や性被害が大きな社会問題となる中で、女性保護事業の果たす役割はますます大きく、重要になっている。女性を人権侵害から守り、自立に向けて適切な支援を行うため、その根拠となる売春防止法の改正又は新たな法整備を行うことが必要である。また、施設職員の配置基準の見直しや、支援に当たる相談員等の専門職としての明確な位置付け、国や地方自治体の責務の明確化などを行い、国庫負担金の拡充等の財源措置を含めた抜本的な改善が必要である。
よって国会及び政府は、女性を人権侵害から守り、自立に向けて適切な支援を行えるよう、次の事項について所要の措置を講じられることを強く要望する。

1.女性保護事業が、困難を抱える女性達の自立に向けた支援を適切に行うことができるよう、売春防止法の抜本的な改正又は新たな法整備を行うこと。
2.「女性相談所」や「女性保護施設」、「女性相談員」が、女性を人権侵害から守り、自立支援機能を十分に果たせるものとなるよう、財源措置を講じるとともに、職員の配置基準を改めること。

以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
平成27年7月13日

以上を衆議院議長、参議院議長、内閣総理大臣、総務大臣、法務大臣、財務大臣、厚生労働大臣、内閣府特命担当大臣(男女共同参画)あてに神奈川県議会議長名で提出した。

売春防止法については、戒能民江先生の著書「婦人保護事業から女性新法へ」に丁寧に解説されている。売春防止法は制定当初からかなりの課題がある法律であったが、戦後の赤線廃止後の昭和31年に制定されたものだ。街で客を拾う街娼は罰するが、売春・買春ともに罰せられることが無いという矛盾をはらんだ法ではあるが、売春女性を指導更生させる根拠法であった。施行後66年間一度も改正されず、戦後をひきずったまま、DV被害にあった女性達への保護事業の根拠法としても君臨し続けてきた。

売春とDV被害は、全く別物である。そこに至る経過、環境は全く異なっている。売春は、貧困や障がいが原因である場合が多かった。DV被害はパートナーから受ける精神的、身体的暴力から抜け出すことが重要であり、子どもを伴う場合は、困難が増してくる。両者がそこに至る経過、環境は全く異なっており、当該被害女性の心理的ケアも違う側面からのアプローチが求められる。にも拘わらず、女性問題として一緒くたに扱われ、売春防止法を根拠に保護更生と謳っても、不十分な支援しか行えない状態が続いてきたのである。これは、絶対に変える必要がある、という思いであった。

以下、意見書提出前後の経過をのべる。

不詳わたくし、小川くにこは2014年(平成26年)5月に神奈川県議会代108代副議長に選出された。女性副議長は神奈川県議会としても24年ぶりという久々のことであり、女性議員数も増加傾向であったので、予てからの念願であった超党派女性議員の勉強会を始めた。
女性議員の勉強会なので、まず男女共同参画課の女性職員さんたちと、女性保護事業の課題研究から始めた。この勉強会をきっかけに、当時、既に、女性保護事業の抜本的改革を目指して活動をされていた神奈川県職員OBのKさんから、実態の一端ではあるが、衝撃的な事例を知る機会を得た。そのKさんからのご縁で、「全国婦人保護施設等連絡協議会」会長さんやお茶の水女子大名誉教授戒能民江先生との知己を得た。

神奈川県は女性相談所やシェルター、さつき寮という女性保護施設を運営している。問題を抱えた女性達を支援するために施策が工夫されてきたが、まだまだ、予算面でも、支援施策面でも、不十分であった。売春防止法を根拠法のままに、DV被害女性を支援するのは不十分であるのは上で述べたとおりである。

しかし、平成13年に新たにDV防止法が制定され、DV被害女性の救済事業を手厚くしてきた。しかし、すべて、売春防止法を根拠にする女性相談所や女性相談員、女性保護施設がDV被害者への対応をしてきたのである。故に、却って、DV被害以外の女性の相談事業、一時保護事業などが、水面下にかくれてしまったという恐れがある。また、DV防止法が制定されても、DV被害を受けた女性を自立まで支援をするには至っていないという専門家の指摘もある。
DV防止法制定により、むしろ、総合的に困難を抱える女性を支援するに足る新しい法の制定が求められることとなったのである。
こういう経過と環境の中で、時代に合わない規則に縛られる女性保護施設の定員割れの現状や廃止にいたる道府県の出現や、売春やDV、貧困など多岐にわたる相談対応を求められる事から女性相談員の確保にも危険信号がともり始めていた。
片や、貧困や自らの精神状態や家庭状況により翻弄されて、性産業に搾取される女性達は現在も後を絶たない。そして、子どもを伴い保護を必要とするDV被害女性達も増加している。こういう女性達を現代において支援するには、新たな視点で、新たな支援を行うにふさわしい根拠法が必要である。
私自身は、勉強会を開始する以前から、女性保護施設の視察を続けていた。東京都が運営委託している「慈愛寮」を訪問した時には、その温かなあり方に感銘をうけた。
若い女性が、妊娠を交際男性に告げた途端にその男性と連絡がとれなくなった、そして悩んでいる間に中絶できない月数になってしまった、という例を聞いた時には、誰にでも起こりえることと感じた。
そういう女性を出産後半年間までは支援するという、この施設のまさに「慈愛」を私は感じた。一組の親子がここで救われたのである。若年出産が増加しているにもかかわらず、こういう施設がなぜ東京都にしかないのだろうか?なぜ神奈川県にはないのだろうか?とも感じた。

この気持ちを形にすべく、私は、神奈川県議会で可決した意見書を、神奈川県選出の自民党全国会議員事務所にFAXで送った。「全国婦人保護施設等連絡協議会」といういかにも自民党らしからぬ名前の団体ではあるけれど、県議会の意見書に沿った要望なので、ぜひ、話を聞いてほしい、との内容をそえた。FAXだけでは、中々、受け止めてもらえない場合も多く、秘書さんに直接お願いしたり、議員さんご本人にお願いしたりと、粘り強い活動を続けた。
また、全婦連会長を女性活躍担当大臣に引き合わせ、この問題へのサポートもお願いをした。
女性医療者の会や女性議員の集まりなどあらゆる機会をとらえて、神奈川県議会が提出した意見書について披露し、それぞれの議会でも取り上げてもらえるように働きかけもした。

この意見書提出後、与党公明党の山本かなえ参議院議員は以前からこの女性支援策について取り組んでこられた方ですが予算委員会で女性支援新法について取り上げ、当時の塩崎厚労大臣から肯定的答弁をえたのである。政府与党の質疑によって、女性支援新法成立への流れが作られたことが、なんといっても素晴らしい。これまで、売春防止法の改正には与党は後ろ向きといわれてきた。売春防止法について語ると有力な男性議員から渋い顔をされるので出世をねらう女性議員は、一切これには触れない、という話もきいたこともある。
残念なこと、と感じていた。

しかし、ついに、売春防止法が改正され、困難を抱えた女性を支援する新法も成立した。
世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数(2021)では世界156か国中120位である日本。まさにそれを象徴するような、新法の成立ではなかろうか?この新法により女性福祉という視点が初めて法に導入される、とも聞いている。やっと、ジェンダーギャップ解消に向けて世界の経済先進国に追いつくためのスタートラインに立てたとおもわれる。
さあ、これからだ!

繰り返しになるが、女性保護事業関係4団体(全国婦人保護施設等連絡協議会、全国婦人相談員連絡協議会、婦人相談所全国連絡協議会、関連民間団体)の方々のたゆまぬ要望活動、戒能民江先生先を先頭に有識者の方々の政府への助言があってこそ、やっとここまできたのであるが、7年という月日を考えると、何とも感慨深い。
が、感慨にひたる暇もなく、これから次がまっているのだ。新法が成立しても施行は令和6年である。全国都道府県は新法にそった女性支援計画を策定する義務をおう。しっかりした計画を策定し、予算付けもしなければならない。私の本当の出番はこれからなのだ。コロナ禍で、女性の経済環境の脆弱さや精神面でのサポートの必要性が明確に浮き彫りになってきた。この新法の価値を広めながら、女性のみならず困難を抱えた方々への支援事業に本格的に取り組んでいきたい。なぜなら、困難を抱える女性を支援することは、社会全体の底上げにつながることであり、困難を抱える女性達と共にいる子ども達の環境を整備することにつながるからである。困難の輪廻を断ち切るために努力を続けたい。

最後に、神奈川県議会において「売春防止法の抜本的な改正又は新たな法整備を求める意見書」を理解し、賛成してくださった県議会の先輩諸氏、国会において「困難を抱える女性の支援に関する法」成立に努力してくださった女性国会議員と賛同してくださった全ての国会議員の方々、関係諸団体の方々に心から深く感謝を申し上げる。

 

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