最新記事一覧

Vol.22113 ダイキンさんはありがたい(シリーズ「公害PFOA」第4回)

医療ガバナンス学会 (2022年6月8日 06:00)


■ 関連タグ

Tansaリポーター
中川七海

2022年6月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

軍需工場として、大阪・摂津の農村で1941年に建設されたダイキン工業淀川製作所は、フッ素化合物による公害を繰り返した。汚染水で農耕用の牛がバタバタと死に、ガスの漏出では農作物が枯れた。住民が避難を強いられることまであった。

製作所の正門に押し寄せて抗議する農家も出てくる中、ダイキンは地域住民とどう向き合ってきたのか。

●1等賞のエアコンは「ご機嫌取り」

樋口優子(仮名,74)は1970年代後半に、家族とともに摂津市に越してきた。淀川製作所までは歩いて10分ほどの距離だ。

毎年夏休みになると、福引券や飲み物券が付いたダイキンの封筒が自宅のポストに届く。中身は、8月の最終週に開かれる盆踊り大会のチラシだ。娘たちが楽しみにするので、何回か参加したことがある。会場ではグラウンドを囲むように屋台が並び、真ん中には大きな櫓(やぐら)が組まれる。赤い提灯の下、たくさんの人で賑わった。

祭りの目玉は福引だ。1等賞はダイキン製のエアコン。樋口親子は当たったことがないが、近所の人がこんな噂を教えてくれた。
「福引券はダイキンの社員や取引先にも配られるけど、1等のエアコンは地域住民に当たるように仕組まれてるんやで。ダイキンの『ご機嫌取り』らしいで」

盆踊り大会をダイキンが初めて開催したのは、1971年8月のことだ。当初は6000人だった参加者は年を追うごとに増え、2万人を超えるまでになった。淀川製作所の周辺住民やダイキン職員らはもちろん、代々の摂津市長や、当時大阪府知事だった太田房江も足を運んだ。太田の後援会長を、ダイキンの現会長である井上礼之(いのうえ・のりゆき)が務めていた。

http://expres.umin.jp/mric/mric_22113-1.pdf
2018年8月24日に行われた、第47回ダイキン盆踊り大会=「ダイキン盆踊り大会実行委員会」のTwitterアカウントより

●バスの中でも飲み放題

摂津市で暮らすうちに、樋口は近所の人から聞いた「ダイキンのご機嫌取り」が、盆踊り大会だけではないことが分かる。

ある日、自治会からバスツアーの案内が届いた。年に一度ダイキンが主催する日帰りツアーで、参加費は2000〜3000円。淀川製作所周辺地域の自治会に入っていれば1家族1人まで参加できる。毎年200〜300人が参加しており、盆踊りと並ぶ地域の一大イベントだ。樋口は気軽な気持ちで参加した。

淀川製作所内を見学した後は、バスで伊勢神宮などの観光地めぐり。バスの中でも缶ビールなどが飲み放題で、昼食には豪華なお膳と酒が振る舞われた。

夕方、淀川製作所へ戻ってくると手土産が入った紙袋を渡され解散した。樋口の夫の一也(仮名,74)はツアーには参加したことがないが、地域住民の受け止めについてこう言う。
「この辺では、バスツアーのことを『接待』って呼んでる人もいますよ。いろんな被害の罪滅ぼしちゃいますか」

ダイキンは盆踊りやバスツアーについてどう考えているのだろう。コーポレートコミュニケーション室広報グループはTansaの質問に次のように答えた。
「地域の皆様との交流や意見交換が目的です」

●市議9期目のダイキン社員

摂津市にとっても、ダイキンは大切な存在だった。固定資産税など多額の税金を長年にわたって納めてきた。摂津市は財政が安定しており、地方交付税をもらわない年もあるほどだ。

税収だけではない。淀川製作所は設立当初から市内の雇用を支えてきた。正社員やパートタイマーなどの働き口を用意し、関連会社や取引先もたくさん抱えている。家族全員が何かしらダイキンと関わりのある会社で働く家も少なくなかった。まさに、「ダイキン城下町」が広がっていた。

かつて摂津市内の郵便局長として働いていた北山健史(仮名,81)はこう振り返る。
「昔、ダイキンさんからは毎月100万円ほどの取引があってね。毎月ですよ、毎月。ありがたかったですわ」

摂津市職員の一人もこう言う。
「摂津市は、市民からの税収はさほど多くないですが、企業からの税収が多く財源が安定しています。摂津からダイキンが出て行くと困るのは市役所です。職員が盆踊り大会へ行くのも、付き合いですよ」

http://expres.umin.jp/mric/mric_22113-2.pdf
「勤務先」にはダイキン工業株式会社とある。三好義治のFacebookアカウントより

住民は盆踊りとバスツアーで接待し、市の財政も潤すダイキン。だがそれだけではない。摂津市には、ダイキンの社員として籍を置いたまま活動を続ける市議会議員がいる。三好義治(66)だ。ダイキン工業淀川製作所がその歩みを記録するために発行した記念誌には「三好君は普通のサラリーマン」と、三好が1989年に初当選した時のことを紹介している。

淀川製作所が製造していたPFOAの汚染が地域一帯に広がる今、三好はダイキンと住民との間に立ってどちらのために議員活動をしているのだろうか。Tansaは三好を取材した。

――PFOA汚染に関して、何をしているのか。
「僕に市民から問い合わせがあったら、ダイキン工業に連絡してダイキンから行ってもらうというスタンスを持ってますけど、直接僕に問い合わせというのはきてないですわ」

――市民から問い合わせがなかったら動かないということか。
「市民から問い合わせがないのに、何をどうやって動いたらいいんですか」

――摂津市がダイキンに対して対策を求めるよう、市議として摂津市の執行部に話をしているのか。
「なんで、する必要があるんですか」

では、摂津市長を務める森山一正はどうか。森山は2021年12月7日、東京・霞ヶ関へと赴き環境省や厚労省の幹部と面会した。一体何を話したのか。次回、報じる。

=つづく
(敬称略。年齢は2021年12月10日時点)

【Tansaについて】
Tokyo Investigative Newsroom Tansaは、探査報道(調査報道)を専門とするニューズルームです。暴露しなければ永遠に伏せられる事実を、独自取材で掘り起こし報じます。広告収入を受け取らず、独立した立場を守ります。誰もが探査報道にアクセスできるよう、購読料もとりません。NPO法人として運営し、寄付や助成金などで成り立っています。
公式ウェブサイト:https://tansajp.org/

シリーズ「公害PFOA」:https://tansajp.org/investigativejournal_category/pfoa/

取材費を寄付する:https://syncable.biz/campaign/2070

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ