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Vol.22125 コロナ禍で問題になる帯状疱疹と乳がん抗がん剤治療中のワクチン接種

医療ガバナンス学会 (2022年6月27日 06:00)


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この原稿は、医療タイムスに2022年2月16日に掲載された内容を改変しました。

ときわ会常磐病院
尾崎章彦

2022年6月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

■コロナ禍で問題になる帯状疱疹

最近のコロナ禍において、帯状疱疹の発症数が増えている可能性がメディアを中心に報道されています。帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる皮膚感染症です。主に小児期にかかった水痘(水ぼうそう)のウイルスが体の中に住みつき、ウイルスが増え始めた時に帯状疱疹を発症します。そのきっかけは、加齢やストレス、過労などによる免疫力低下と言われています。

なお、米国では、年間で100万人が帯状疱疹を発症しており、およそ3割の人たちが生涯のうちに帯状疱疹を発症すると報告されています。

■乳がん患者さんへの帯状疱疹ワクチン投与を提案

筆者は乳がん診療を担当する医師ですが、2021年後半から、乾燥組換え帯状疱疹ワクチン「シングリックス(R)(グラクソ・スミスクライン社)」の投与を、抗がん剤を実施する乳がん患者さんのうち、50歳以上の人たちに提案しています。これは、2021年ごろから、抗がん剤治療中に、帯状疱疹に罹患する症例の数が増加していることを感じていたからです。当然、乳がん患者においては、抗がん剤の投与は、強力な誘引となりますが、最近の報道を目にするにつけ、コロナ禍によるストレス等の上乗せも影響していたのかもしれないと考えています。

 

■延期を余儀なくされた乳がん手術

例えば、筆者が経験した症例を紹介しますと、ある70歳代の乳がん患者さんは、5カ月間にわたる術前抗がん剤終了後に、帯状疱疹を発症しました。左下肢内側に多数の水疱が出現しており、典型的な帯状疱疹でした。

ちょうどパクリタキセルという抗がん剤の副作用である末梢神経障害が下肢に強く出ている時期でもありました。彼女にとっては、ダブルパンチとなり、しびれに高度の痛みが加わり、歩行もままならない状態となってしまいました。

一方で、筆者が診察した時点ではすでに発症から72時間が経過しており、悪化傾向などもないことから、抗ウイルス薬の処方は行いませんでした(なお、添付文書においては、皮疹出現後5日以内に投与を開始することが望ましいとされており、ここについては、ドクターによっても判断が分かれると思います)。

ただし、予定していた乳がんの手術については、延期を余儀なくされました。というのも、帯状疱疹発症直後は、手術を避けることが推奨されているからです。さらなる免疫低下を引き起こし、重篤な合併症を引き起こす可能性が示唆されています。

■帯状疱疹発症後1カ月程度は手術を避けるべき

なお、筆者が調べた限り、発症後、手術を避けるべき期間の長さについて明確なデータは見つけられませんでした。ただ、他の施設の基準などを参照すると、一般に、発症後1カ月程度は手術を避けることが推奨されているようです。

この基準に従って、本症例においても、予定されていた期日よりも1カ月弱、手術を延期しました。幸い、特に手術に伴う合併症や帯状疱疹後神経痛は生じず、術後1年半ほど経過しましたが、現時点では再発も認めていません。

なお、帯状疱疹後神経痛とは、帯状疱疹発症後90日経過後も継続する疼痛と定義されています。帯状疱疹患者の約20%に発症し、高齢患者において、より起こりやすいと報告されています。また、その原因は、神経内のウイルス複製によって引き起こされる炎症反応による、2次的な神経損傷と推測されています。

この患者の他にも複数名、抗がん剤実施中の帯状疱疹発症例を経験し、いずれも抗がん剤治療の中断を余儀なくされました。このような抗がん剤の治療の中断は、長期的に病気の治療に悪影響を及ぼす可能性があり、できる限り避けるべきです。以上のような経験を経て、当科への乾燥組換え帯状疱疹ワクチンの導入を決めました。

■帯状疱疹に対するワクチンの効果

乾燥組換え帯状疱疹ワクチンについては、15年と16年に、グラクソ・スミスクライン社が主導して健康成人に対して実施された第3相臨床試験の結果が、ニューイングランド医学誌に報告されています。

前者が50歳以上の患者に対するワクチンの効果を評価した試験で、後者が特に70歳以上の患者に限った試験でした。

その結果を要約すると、50歳以上の健康成人に対して、帯状疱疹に対するワクチンの効果は97.2%で、70歳以上に限っても91.3%の効果を誇りました。また、70歳以上の健康成人については、帯状疱疹後神経痛も88.8%予防すると報告されています。さらに、プラセボ群とワクチン群において、副作用の発症率などは同等であったと報告されています。

加えて、19年には、Cancer誌に、固形がん患者に対してのワクチンの効果と安全性を評価した第2・3相臨床試験の結果が報告されています。参加者のおよそ半分が乳がん患者であり、その結果は示唆に富みます。

この試験では、サンプルサイズの問題から、固形がん患者における帯状疱疹の実際の予防効果までは評価できていませんが、ワクチン接種によって、抗体価の上昇があったことは、報告されています。なお、安全性については、ワクチン接種群について、プラセボ群よりも副作用がより多かったと報告されています。

論文を読み込むと、実際の診療にワクチンを導入する上での課題も見え隠れします。1つは、ワクチンの接種時期です。

■費用も課題となる帯状疱疹ワクチン

この試験においては、抗がん剤開始当日にワクチンを接種した場合、開始8日以前に接種した場合に比較して、抗体価の上昇が乏しいことが、報告されました(それが予防効果にどのように影響するかについては不明です)。しかし、術前化学療法の患者などにおいては、治療を急いでいるケースも少なくありません。そのため、抗がん剤やワクチンの実施についてインフォームドコンセントを獲得して実際に治療を開始するまでに、1週間ほどの期間を確保できないこともあります。

加えて、常磐病院においては、現状、乾燥組換え帯状疱疹ワクチンの使用実績が乏しく、希望者がいらした際に、その都度ワクチンを取り寄せている状況です。そのため、インフォームドコンセントを確保する当日にはワクチンを接種できず、ワクチン接種のためだけに改めて受診をお願いしています。もちろん、これについては、今後実績が積み重なることで、病院に少量でも在庫を置いてくださるようになる可能性もあります。

いずれにしても、抗体価上昇のために、治療を遅らせるというのはナンセンスです。そのため、可能な範囲で早いタイミングでワクチンを打つようにするというのが、今できる最善の策と言えます。

費用も課題といえます。乾燥組換え帯状疱疹ワクチンは1回当たり2万3000円と高額であり、それを2回接種する必要があります。もちろん保険は効きません。ただでさえ、高額な乳がんの治療をお願いしているところに、さらなる費用負担をお願いすることには、後ろめたい思いもあります。

それらの事情もあり、患者さんにはあくまで「提案」程度で、ワクチンの存在をお伝えすることにし、実際の摂取の是非は、個々の患者さんの判断にゆだねています。今のところ3分の2程度の患者さんが、接種を希望されている印象です。

抗がん剤の実施に際しては、多くの乳がん患者さんが、「ひどい副作用が生じるのではないか」、「体調が悪くなるのではないか」と不安を募らせています。少しでもその不安を和らげられるよう、これからも、できる限りの情報提供を行っていきたいと考えています。

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