医療ガバナンス学会 (2022年6月28日 06:00)
出版社・読書日和代表
福島憲太
2022年6月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
医師をはじめとする周囲は、両親に私の障害についてどう伝えたのだろうか。私は物心ついたときから、何をやるにしても「できるはずがない」と言って育てられた。そしてその指摘は多くの場合、的確であった。
京都市内の公立の小中高校を卒業後、大学で臨床心理学を学んだ。大学4年、就職活動のために大学で受けた健康診断の結果の書類には、目が見えにくい私への親切心からか大きな文字で「就労不能」と書かれていた。一般企業等で約10年勤めた私は、その大きな4文字の意味を思い知らされることとなった。
仕事に行き詰まったとき、私の頭に浮かんだのが、私が生まれた後も流行が繰り返されていた風疹だった。どうして流行は繰り返されるのか。調べていくうちにみえてきたのは、風疹に感染したことを恐れた妊婦が中絶する実態がどこにも記録されることなく「消されて」いく、そして風疹排除が済んだ海外から対策の甘さを「笑われる」日本の現状だった。週に1度医学論文を読むために医学部のある図書館に通う以外は自室にこもり、一気に原稿を書き上げた。その熱意が、とある小さな出版社の目にとまった。かけられたのは、思いがけない言葉だった。「うちで働かないか?」
そうして、私はそれまで足を踏み入れたことさえなかった北関東の地に飛んだ。思いがけず得た出版社での仕事は楽しいものだったが、出版業界の厳しさを知ることにもなる。「本の売り上げが伸びず、給与が払えない」という理由で離職せざるをえなくなったのだ。
予想外の出来事だった半面、少人数でも、ひとりでも出版社を経営できるという実感を得られたのは私の中で大きかった。現在は廃業されているようだが、かつて弱視の方が出版社を経営されていたことも頭にあった。2018年6月に出版社・読書日和を起業。知人のつてを頼って、今度は静岡県浜松市に飛んだ。
起業後初めて世に送り出した本が、金子あつしというペンネームでみずから文章を手がけた『風疹をめぐる旅~消される「子ども」・「笑われる」国~』だった。「2020年までに風疹排除」という目標達成の一助になればと思って出したが、目標達成とならなかったのは残念だ。昭和37年度~昭和53年度生まれの男性の方でまだお済みでない方はまず抗体検査を、抗体が不足していないようなら予防接種をお願いしたい。
その後2冊の本を出し細々と事業を続けてきたところ舞い込んだのが、かつて書かれた「就労不能」を覆す本の企画だった。
視覚障害者就労相談人材バンク有志 (著)、『あまねく届け! 光 ~見えない・見えにくいあなたに贈る31のメッセージ~』
31人の視覚障害者がみずからの仕事についてつづった本。会社員、医師、マッサージ師など実にさまざまな仕事をしている、そして実にさまざまな見え方の人の仕事や家族への思いがつづられている。 視覚障害者はもちろん、眼疾患を告知する医師にもおすすめできる一冊となった。
思いがけず病気や障害をテーマにした本の刊行が続いたが、そのことに着目されたのがジャーナリストとして長年精神保健分野の取材を続けている月崎時央さんだ。
5月に刊行したばかりの月崎時央(著)『新版ゆっくり減薬のトリセツ』は、「『向精神薬の減・断薬』について多くの患者さんたちと、それを支援する医師や薬剤師への徹底的な取材をもとに、実際のプロセスと課題についてまとめた」一冊。減・断薬について悩む患者にはもちろん、医療関係者にも読んでもらえたらと思っている。
「就労不能」と大書されてから、およそ18年。そして、出版社を起業してから5年目を迎えた。働くことはこれからも私にとって簡単ではないかもしれないが、地道に本を出す活動を続けていきたい。「読者が待ってる」と信じて。
福島憲太
出版社・読書日和代表
現在は、長崎の戦災孤児収容施設で育った人たちの手記を復刊しようとクラウドファンディングに取り組んでいる
(参考URL)
今こそ誰よりも平和を願う長崎・向陽寮で育った「戦災孤児」の手記を復刊したい!
https://camp-fire.jp/projects/view/590564?utm_source=facebook&utm_medium=social&utm_campaign=fb_sp_share&fbclid=IwAR2YyVMQaVVsT-kcqxwbIZN8hMKLJh4rUpiu7eje5cafmmoydvwFpqjVInk