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Vol.22130 医師不足地域に有効なテレパソロジー

医療ガバナンス学会 (2022年7月4日 06:00)


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この原稿は、医療タイムスに2022年4月13日に掲載された内容を転載しました。

ときわ会常磐病院
乳腺外科医
尾崎章彦

2022年7月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

■乳がん手術で遠隔の術中迅速病理診断を活用

私たちの乳腺外科では、2019年から、乳がんの手術において遠隔での術中迅速病理診断を行っています。

リンパ節転移を伴わない早期の乳がん手術では、センチネルリンパ節の生検と術中病理診断を行うのがスタンダードです。このセンチネルリンパ節生検の術中病理診断において、遠隔病理診断を活用しているのです。

なお、センチネルリンパ節生検は、高率にリンパ浮腫につながる腋窩リンパ節郭清を避けるために発展してきた手術方法です。腋窩のリンパ節のうち最も乳房に近い位置にあるリンパ節を同定し摘出、手術中に迅速病理検査で転移の有無を判断し、転移がある場合のみ腋窩リンパ節郭清を追加で実施します。この術式が確立されてからすでに数十年が経過していますが、個別化医療の先駆けといえるでしょう。

■遠隔病理診断で転移を確認

一方で、当然ですが、迅速病理診断を行うには、通常、手術を行うタイミングでその場に病理医がいることが必要です。しかし、筆者が勤務するときわ会常磐病院(福島県いわき市)では、数人の病理技師が在籍しているのみで、常勤の病理医がおりません。

そもそも、福島県沿岸部(浜通り地方、面積2969平方キロメートル、人口約44万人)に現在わずか数名の常勤の病理医がいるのみなのです。そこで、遠隔病理診断システム(以下、テレパソロジー)の活用を思いつき、19年9月に導入しました。

具体的に、テレパソロジーとは、センチネルリンパ節生検においては、手術中に、インターネット経由で、摘出したセンチネルリンパ節の凍結切片のホールスライド画像を他施設の病理医に送り、がんの転移の有無を迅速に診断することを指します。

実際、ドイツやイギリスで行われた先行研究においては、術中の凍結切片による遠隔診察の精度は92%以上であったことが報告されています。

当院での精度はいかほどのものだったか。そこで、倫理委員会の承認を得た後、19年9月の導入から20年6月までの期間に実施されたセンチネルリンパ節の遠隔迅速病理診断の成績を評価しました。

なお、当院においては、遠隔画像読影会社株式会社MNESと同じいわき市内にあるいわき市立医療センターに遠隔での迅速病理診断を依頼しており、前者では、クラウド型システムを、後者では、ビデオ会議同時接続型システムが用いられました。

■所要時間を短縮していくことが重要

調査期間中に45人の乳がん患者がセンチネルリンパ節生検を受けていました。永久標本の結果をゴールドスタンダートとして、遠隔での迅速病理診断の結果を比較したところ、このうち、転移陽性の判断が8例(17.8%)、転移陰性の判断が37例(82.2%)でした。永久標本と比較すると、正確に診断されているものは88.9%(40/45)でした。なお、これは先行研究と同様の結果であり、おおむね良好であると判断しました。

一方で、遠隔での術中病理診断に要した平均時間は61分でした。一般に、センチネルリンパ節生検の術中迅速病理診断に要する時間が28分であるとすると、まだまだ改善の余地があることが示唆されました。

手術時間や全身麻酔時間が増加すれば、患者の転帰に悪影響が出る可能性があります。研究期間中に、所要時間に明らかな減少はありませんでしたが、今後より多くの経験を蓄積することで、所要時間を短縮していくことが重要と考えられました。

なお、近年では、乳がんのセンチネルリンパ節生検で転移が指摘された場合においても一定の条件を満たせば、腋窩リンパ節郭清を安全に省略できる可能性も示唆されています。

その点、術中の迅速診断の必要性自体が低下しているという向きもあります。ですので、患者さんのメリットを常に意識しながら、個別に、テレパソロジーの適応の有無を今後も判断していきたいと考えています。

とはいえ、テレパソロジーは、当院のみならず、医師不足に悩む多くの地域において、有用な手段になり得ると確信しています。

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