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Vol1 ミニ移植における真菌感染予防

医療ガバナンス学会 (2004年1月12日 21:00)


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ミニ移植における真菌感染予防

ミニ移植は、血液内科医の関心を集めています。高齢者や臓器障害患者に対する移植が可能になりましたし、また、悪性リンパ腫や一部の固形腫瘍に対する有効性も示唆されています。
ミニ移植の早期の研究では、その安全性が強調されました。しかし、ミニ移植でもGVHDや感染症が問題と考えられるようになり、その対策に重点がおかれつつあります。
最近、JCOにドイツ ボン大学のグループからItraconazole(ITZ)のメタアナリシスが報告されました(1)。この論文の紹介と共に、ミニ移植における真菌感染予防の動向を考察したいと思います。

(要約)
Itraconazoleは、治療中で好中球減少時の血液悪性疾患患者の深在性真菌感染症を予防する: 3,597人の患者のデータ分析からの証拠
Glasmacher A, Prentice A, Gorschluter M, Engelhart S, Hahn C, Djulbegovic B, Schmidt-Wolf IG.
J Clin Oncol. 2003 Dec 15;21(24):4615-26.

背景: 抗真菌剤の予防投与の有効性は、様々な薬剤に対し多くの試験が行われているにもかかわらず、十分納得のいく証拠が得られていない。
方法: 好中球減少を伴う血液悪性腫瘍患者を対象としたITZ予防投与の有効性に関するrandomized controlled
trialsを、データベースとマニュアル検索にて抽出し
、メタアナリシスを行った。
結果: 13のRCTが抽出され、これらの試験には3597名の深在性真菌症患者が含まれていた。
ITZ予防投与は、深在性真菌症、深在性の酵母感染の頻度、および深在性真菌症による死亡率を40%±13% (p=0.002)、53%±19%
(p=0.004)、35%±17%(p=0.04)減少させた。深在性アスペルギルス症はITZ-oral solution (ITZ-OS)を用いた場合のみ減少し(危険度減少率 48%±21%, p=0.02)、カプセル剤ではその傾向は明らかではなかった。有害反応は稀で、3つの研究で低カリウム血症が認められた。また、カプセル製剤と比較し、ITZ-OSを用いた場合には投与中止の頻度が高かった。予防効果は、ITZの有効投与量と関連していた。
結論;: ITZは深在性真菌症の予防に効果的であることが示された。適切な量(少なくとも400 mg/日)のITZ-OS、或いは静注剤(200 mg/日)を用いることが重要である。

(解説)
1)ミニ移植と真菌感染対策
同種造血幹細胞移植は、進行期造血器疾患に対する根治療法として有用性が確立しています。しかし、前処置は少なからぬ副作用を伴うため、その適応は臓器障害のない若年者に限られてきました。近年、ミニ移植が開発され、精力的に研究が進められています。ミニ移植では、前処置による副作用は軽度で、同種移植の適応外と考えられてきた高齢者や臓器障害を有する患者にも移植が可能になりました。また、悪性リンパ腫や一部の固形腫瘍にも有効であることが示唆されました。更に、非血縁ドナーや臍帯血を用いたミニ移植の研究が進み、対象患者、移植症例数は急速に増加しています。
真菌感染は造血幹細胞移植における主要合併症です。近年、アスペルギルス感染の増加が問題となっています。その発症ピークは、移植早期の好中球減少期間と移植後数ヶ月が経過した時期の二峰性を示します。移植後真菌感染症は予後不良であり、その対策は予防に重点が置かれてきました。米国CDCは、2000年に同種造血幹細胞移植の真菌感染予防案を提案し(2)、このガイドラインは、多くの国で汎用されています。しかし、移植を取り囲む状況の変化により、このガイドラインの現状に合わない部分が指摘され、改善が必要とされています。
感染対策が真菌感染予防に重要なことは言うまでもありません。カンジダのような内因性病原体の場合、医療者を介した院内感染を予防することに重点が置かれます。医療者が手洗いを励行し、standard precautionを遵守することが有用です。アスペルギルス感染に関しては、環境対策が重視されます。感染源として、空気、埃、建設現場、空調システム、植物、穀物、香辛料、カーペット、水系システムが挙げられ、病室清掃の励行、外部との遮断、水場の管理、院内の工事現場を陰圧に管理することで感染源への暴露を減らすことが出来ます。CDCガイドラインでは、HEPAフィルターなどの空調設備を用いた環境整備を推奨しています。HEPAフィルターは、空中の0.3μm以上の粒子を99.97%除去するため、これを通じて移植病棟の空気を循環させることにより、アスペルギルス胞子を取り除き感染を抑制します。
しかしながら、ミニ移植後の真菌感染は移植後100日以降に発症し、多くの患者は外来で診断されます。このため、ミニ移植では、病院に附属した器機の有用性は低く
、抗真菌剤の予防投与が有望です。近年、複数の新規抗真菌剤が開発され、臨床開発が進んでいます。
真菌感染症領域で、ITZ-OSなど複数の新規の薬剤が開発されつつあります。この領域において、このように多くの薬剤が同時に開発されたことはなく、数年以内に真菌感染対策は大きく変化することが予想されます。この領域に関しては、Steinbachら、及びWong-Beringerらの総説が秀逸であり一読を勧めます(3,4)。

2) イトリゾール
1989年にカプセル製剤として開発されたItraconazoleは、fluconazoleと比較しアスペルギルスに対する活性が強いため、アスペルギルス感染の治療に用いられてきました。1996年にはITZの吸収を安定化するため、シクロデキストリンを基剤としたoral solution(OS)が開発されましたが、水溶性が低いためにその静注用製剤化が困難とされ、2001年までは経口剤しか存在しませんでした。わが国では、1993年にカプセル製剤が発売されており、OSと静注製剤は現在臨床開発中です。
ITZは高度に脂溶性のため、脂肪組織・化膿組織への移行は良好ですが、消化管吸収に問題があります。カプセル剤の吸収は特に個人差が大きく、好中球減少患者の吸収率は20%とされています。吸収は胃酸分泌量に依存し、H2ブロッカーを用いて胃液酸性度が低下した場合、低下します。このため、食後投与が推奨されています。或いは、コーラ、クランベリージュースなどの酸性飲料を併用すれば、吸収率は高まります。OS製剤では吸収率は60%程度で、カプセル剤より安定した濃度を維持できます。一方、静注剤の薬物動態は安定しており、OSより有効な濃度を維持しやすいとされています。
ITZは肝臓で代謝され、腎排泄は2%以下です。このため、腎不全時の投与量調節は不要です。しかし、シクロデキストリンは腎排泄のため、静注製剤を用いる場合、腎障害時には注意が必要になります。ITZの蛋白結合率は99%以上で、中枢神経移行は不良です(5%)。半減期は25-50時間と長く、1日1回投与で有効です。
副作用は軽く、約10%に消化器症状、約5%に肝酵素の上昇を認めます。重症副作用としては、58例の心不全が報告されています。ITZはCYP3A4で代謝されるため、民族
差は多くありません。また、ITZは薬物相互作用が強く、種々の薬剤の投与量調整が必要です。制酸剤以外にも、rifampicin, phenytoin, barbituratesはITZ代謝を促進し、cyclosporinを初めとする免疫抑制剤は減量を要します。
真菌感染予防に関しては、多くの臨床試験が報告されています。本メタアナリシスでも述べられたように、カプセル剤とOSを用いた場合の結果が異なることが特徴的です。まず、何れの臨床試験でも、カプセル剤の予防効果は明らかではありません。また、カプセル剤に関する臨床試験の結果をまとめたメタ解析でも、その有用性は示されませんでした。これは、カプセル剤の限界を示唆するものかもしれません。一方、OSを用いた場合、研究により評価が異なります。OS予防投与が真菌感染の
頻度を有意に減少させたという報告が一つと(5)、有意差を認めなかったという報告が7つ存在します(6-11)。しかし、これらの研究を用いた本報告のメタアナリシスでは、真菌感染のオッズは49%に低下しており統計的に有意でした。また、アスペルギルス感染に関しても、発症抑制効果を認めました(1)。

3) ミニ移植に用いる抗真菌剤の条件
ミニ移植における真菌感染予防薬は以下の要件を満たす必要があり、これらの条件を満たす薬剤が多くの臨床試験を通じて淘汰選択されていくと考えています。
まず、多くの真菌感染の多くが外来で発症するため、その予防には経口薬の存在が必須である。この点で、カンジンは有望な薬剤ですが、予防薬として汎用される可能性は低いと考えています。一方、消化管GVHDが発症すると、経口摂取不能となることが多いため、静注剤の存在も必須です。このため、ITZは静注剤が完成しなければ、役不足です。
第二の要件としては、アスペルギルスに対する感受性を有することが挙げられます。現在の標準的予防薬であるFluconazole(FCZ)の使用頻度は減少し、ITZやVoriconazole (VCZ)が中心になると考えています。
第三の要件は、薬物相互作用が少ないことです。造血幹細胞移植では多剤を併用します。特に免疫抑制剤の投与量調整は移植の成功に重要です。抗真菌薬と、これらの薬剤との相互作用は少ないことが好ましく、FCZ以降のアゾールは薬物相互作用が強く、今後の検討課題です。
第四の要件は、副作用が少ないことです。FCZは副作用が少ないため、多くの医師に受け入れられてきました。しかし、今後の予防投与に用いられるであろうITZやV
CZは、消化器毒性、視力障害などの有害作用を有し、その発現には個人差を認めます。このため、有害事象の評価は極めて重要です。しかしながら、造血幹細胞移植では、前処置、および免疫学的毒性が強く発現するため、予防薬に用いる抗真菌剤の毒性を単独に評価することは困難です。これらの有害事象の発現は、無作為比較試験を通じて相対的に評価するしかありません。

4) 未解決の問題
まず、耐性の問題が挙げられます。カンジダ属を中心としてアゾール耐性が問題となっています。これは、80年代後半からAIDS患者に対する口腔咽頭カンジダ症の予防として、アゾールが長期使用されたためです。耐性化には、アゾールの標的酵素をコードするERG11遺伝子の変異など、複数のメカニズムが提唱されています。また、アゾールに自然耐性を示すnon-albicans Candida属の分離頻度が増加していることも大きな問題です。アゾール耐性を予防するため、その使用には注意が必要です。カンジダ属と対照的にアスペルギルスやクリプトコッカスでは、薬剤耐性は大きな問題となっていません。
第二に予防投与に用いる抗真菌剤の至適投与量の問題が挙げられます。これに関する情報は皆無です。従来の骨髄破壊的移植では、生着までFCZ 400 mgの予防投与が推奨されてきました。これは、2つの無作為比較試験の結果を根拠としています(12, 13)。また、ITZを予防投与する場合、200
mg/日~400 mg/日という投与量が用いられてきました。何れの薬剤も至適予防投与量を検証するための臨床試験は行われておらず、治療と同量を用いています。FCZの場合、400 mg/日を投与すれば、その血中濃度が自然耐性を有するC. glabrata, C.kruseiのMICを上回るため、理論上は有望です。しかしながら、真菌感染症の治療と予防では必要とされる投与量が異なる可能性があり、副作用対策、経済性を考慮した場合、適切な投与量を明らかにする必要があります。
第3として、予防投与の期間があげられます。CDCは同種移植後の生着までの好中球低下期間は、FCZの予防投与をLevel Aのエビデンスレベルを示し推奨しています(2)。しかしながら、真菌感染予防の至適期間は不明です。Marrらは移植後75日までFCZの予防投与期間を延長することで、予後が改善されたと報告していますが、この研究は単一施設の小規模の報告であり、追試が必要です(14)。また、生着後は常に真菌感染のリスクが高いわけではありません。真菌感染は、GVHDの治療のため、ステロイド投与を受けている時期に好発します。生着後、GVHDが発症するまでは、真菌感染予防のための抗真菌薬は不要かもしれません。
最後に、費用の問題があります。アゾールを初め新規の抗真菌剤は高価です。FCZ 200 mgを前処置開始から移植後75日まで用いた場合、費用は25万円です。高額医療行為であり、その経済性は十分に吟味されねばなりません。深在性真菌症を発症した場合のコストは高く、ハイリスク例に対し必要な期間予防投与することが必要です。現在、予防投与の経済性に関して得られる情報は極めて少ないことが問題です。

文献

1.      Glasmacher A, Prentice A, Gorschluter M, et al. Itraconazole prevents invasive fungal infections in neutropenic patients treated for hematologic malignancies: evidence from a meta-analysis of 3,597 patients. J Clin Oncol 2003;21(24):4615-26.
2.      Guidelines for preventing opportunistic infections among hematopoietic stem cell transplant recipients. Biol Blood Marrow Transplant 2000;6(6a):659-713; 715; 717-27; quiz 729-33.
3.      Wong-Beringer A, Kriengkauykiat J. Systemic antifungal therapy: new options, new challenges. Pharmacotherapy 2003;23(11):1441-62.
4.      Steinbach WJ, Stevens DA. Review of newer antifungal and immunomodulatory strategies for invasive aspergillosis. Clin Infect Dis 2003;37 Suppl 3:S157-87.
5.      Winston DJ, Maziarz RT, Chandrasekar PH, et al. Intravenous and oral itraconazole versus intravenous and oral fluconazole for long-term antifungal prophylaxis in allogeneic hematopoietic stem-cell transplant recipients. A multicenter, randomized trial. Ann Intern Med
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6.      Boogaerts M, Maertens J, van Hoof A, et al. Itraconazole versus amphotericin B plus nystatin in the prophylaxis of fungal infections in neutropenic cancer patients. J Antimicrob Chemother 2001;48(1):97-103.
7.      Harousseau JL, Dekker AW, Stamatoullas-Bastard A, et al. Itraconazole oral solution for primary prophylaxis of fungal infections in patients with hematological malignancy and profound neutropenia: a randomized, double-blind, double-placebo, multicenter trial comparing itraconazole and amphotericin B. Antimicrob Agents Chemother 2000;44(7):1887-93.
8.      Lass-Florl C, Gunsilius E, Gastl G, et al. Fungal colonization in neutropenic patients: a randomized study comparing itraconazole solution and amphotericin B solution. Ann Hematol 2003;82(9):565-9.
9.      Marr KA, Crippa F, Leisenring W, al. e. Itraconazle versus fluconazole for prevention of fungal infection in allogeneic HSCT recipients: Results of randimized trial. Blood 2002;100:215a.
10.     Menichetti F, Del Favero A, Martino P, et al. Itraconazole oral solution as prophylaxis for fungal infections in neutropenic patients with hematologic malignancies: a randomized, placebo-controlled, double-blind, multicenter trial. GIMEMA Infection Program. Gruppo Italiano Malattie Ematologiche dell’ Adulto. Clin Infect Dis 1999;28(2):250-5.
11.     Morgenstern GR, Prentice AG, Prentice HG, Ropner JE, Schey SA,
Warnock DW. A randomized controlled trial of itraconazole versus fluconazole for the prevention of fungal infections in patients with haematological malignancies. U.K. Multicentre Antifungal Prophylaxis Study Group. Br J Haematol 1999;105(4):901-11.
12.     Slavin MA, Osborne B, Adams R, et al. Efficacy and safety of fluconazole prophylaxis for fungal infections after marrow transplantation–a prospective, randomized, double-blind study. J Infect Dis 1995;171(6):1545-52.
13.     Goodman JL, Winston DJ, Greenfield RA, et al. A controlled trial of fluconazole to prevent fungal infections in patients undergoing bone marrow transplantation. N Engl J Med 1992;326(13):845-51.
14.     Marr KA, Seidel K, Slavin MA, et al. Prolonged fluconazole prophylaxis is associated with persistent protection against candidiasis-related death in allogeneic marrow transplant recipients: long-term follow-up of a randomized, placebo-controlled trial. Blood 2000;96(6):2055-61.

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