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Vol.22137 消化器領域の未承認薬

医療ガバナンス学会 (2022年7月12日 06:00)


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医療法人社団茶畑会 相馬中央病院 内科
齋藤宏章

2022年7月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

以前からドラッグラグとして、欧米で承認されているのに、日本で承認されていないために、最新の治療が提供できない事態となっていることが問題視されていた。ドラッグラグは解消されつつある、という報道も見かけるが実際はどうなのだろうか。今回は私自身の専門領域である、日本における消化器領域の未承認薬を調べてみた。

データは医薬品医療機器総合機構(PMDA)が発表している未承認薬データベースhttps://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/p-drugs/0013.html)を参考にした。こちらには、2022年6月3日付けで、米国で承認されているが、日本で承認されていない264剤がリストアップされている。欧州のリストも掲載されているが、関係する薬剤は同等であったため、今回は米国のデータのみ参照とした。この中で、消化器に関連する領域では14剤がリストアップされていた。これらは主に、消化器領域の抗がん剤、抗ウイルス薬や抗生剤、それ以外のものに分かれる。今回はその中でも抗がん剤領域に該当する3剤に関して見ていこうと思う。

消化器領域では、主とした抗がん剤に関しては、未承認薬として認識されているものは見当たらなかったが、稀な癌に対する抗がん剤のいくつかは未承認のままである。
一つ目は胆管癌に対する抗がん剤である。キナーゼ阻害薬のインフィグラチニブ(販売名:Truseltiq QED Therapeutics社)はFGFR2(線維芽細胞増殖因子受容体2)融合遺伝子陽性で、先行する治療歴がある切除不能局所進行性、転移性胆管がんへの使用を2021年5月にFDAが迅速承認したが、2022年6月時点では日本では未承認である。胆管癌は稀な癌と表現されることがあるが、日本では2018年には2万2201人が新たに診断されており、決して少なくない(国立がん研究センター統計より)。
海外のデータでは胆管癌患者の約13-17%はFGFR2融合遺伝子陽性であるとされており、FGFR2融合遺伝子は抗がん剤の新たなターゲットとして注目されている。一般的に胆管癌に対しては手術が唯一の根治療法で、薬物治療を行う場合にはゲムシタビン+シスプラチン併用療法やゲムシタビン+S1併用療法が行われるが、治癒を望むことは難しく、予後も厳しいのが現状である。例えば、2019年に発表された1次治療としてのゲムシタビン+シスプラチン併用療法とゲムシタビン+S1併用療法を比較した日本の試験(JCOG1113)では、両者の奏効率、生存期間の中央値はそれぞれ32.4%と29.8%、13.4ヶ月と15.1ヶ月であった。つまり治療に反応する割合が低く、かつ予後も1年程度であるということだ。これ以外の有効な治療薬や、有望な2次治療薬が乏しいのが現状だ。
私も前職では、進行した胆管癌に対する内視鏡によるドレナージ治療にもよく関わっていた。薬剤で病状をコントロール出来る例は少なく、また高齢の方に対して定期的な点滴治療を行うことは困難なことが多かった。インフィグラチニブは内服薬であるが、第2相試験で既に1次治療を行った患者のうち、23.1%に客観的奏効を示し、2次治療以降の使用を期待されている。第3相試験の結果や生存期間への効果など、有効性の検証が必要な薬剤だが、日本では同じくFGFR2融合遺伝子陽性の胆管がんに使えるペミガチニブ(販売名:ペマジール、インサイト・ジャパン社)が2021年6月に国内で販売開始されており、治療の選択肢として注目される。

2つ目は消化管間質腫瘍(GIST)に対する治療薬である。GISTは消化管壁の粘膜下にできる肉腫の一種である。年に10万人1-2人の発生頻度とされる稀な腫瘍とされる。どの消化管にもできうるが、胃や小腸に発生することが多い。GISTも根治的な治療は外科的な摘出術である。一方で、再発や、転移等によって根治的な外科手術が困難な場合には、内科的な薬物療法となり、根治を期待することは厳しい。GISTの80%にKIT、10%に PDGFRAという遺伝子変異が起きていることが知られており、こうした遺伝子変異をターゲットにした薬剤の開発が進んでいる。日本ではGISTの治療に対してはイマチニブ、スニチニブ、レゴラフェニブという3つのチロシンキナーゼ阻害薬、いわゆる分子標的薬が用いられている。KITチロシンキナーゼの働きを阻害する。
イマチニブはほとんど有効な薬剤がなかった中で、治療を開始した約8割の患者に対して治療効果を出したという結果がニューイングランドジャーナル雑誌に2002年に掲載され、日本では2003年にGISTに対する治療が承認された。画期的な治療薬であったが、治療開始後数年で、薬剤の耐性が進んでしまうこと、また上述の他の2剤を含めたこれらの薬剤がもともと効かない遺伝子耐性の存在が課題となっている。米国では、これらの薬剤に加えて、アバプリチニブ(avapritinib)、リプレチニブ(ripretinib)という新しい分子標的薬が使用されている。
アバリチニブはこれまでのチロシンキナーゼ阻害薬が効果をなさないとされるPDGFRAエクソン18変異を有するGISTに罹患した患者43名を対象としたNAVIGATOR試験で効果が実証された。これらの患者のうち、84%に奏効したという結果をもとに2020年1月にFDAに承認されている。アバプリチニブは1次治療でも承認されているが、リプレチニブは前出の3剤の治療後に使用できる薬剤として2020年5月にFDAに承認されている。プラセボ(偽薬)に比べて有意に無増悪生存期間を増やしたという試験結果を受けての承認である。2022年6月ではこれら2剤の薬剤は日本では未承認であり、治療を受けるためには治験に参入する必要がある。これらの薬剤の有効性も大規模な試験での検証が必要とされているが、治療手段が限られているG I S Tにおいては共に国内使用が期待されている。

胆管癌、GISTの未承認薬を紹介したが、これらはいずれも臨床試験としては早い段階で承認をされ、今後の追加の試験での有用性が必要となっている。実際に、アバプリチニブは既存のレゴラフェニブとのG I S Tに対する3次治療を比較した試験(第3相VOYAGER試験)では主要評価項目である無増悪生存期間の改善を認めないなどのネガティブな結果も報告されている。ただし、こうした変異遺伝子をターゲットした個別化医療は近年の個別の遺伝子解析の迅速化によって新興している治療法であり、期待も大きく、日本でも積極的に開発と承認を進めていくべき分野であると思われる。

 

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