医療ガバナンス学会 (2022年7月15日 06:00)
Tansaリポーター
中川七海
2022年7月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
ダイキンから市議団に届いた回答は、「否認」のオンパレードだった。市内の地下水の汚染はダイキンが原因とは限らない、京都大の調査チームによる住民の血液検査は信用できない、そもそもPFOAは土壌から曝露しないーー。
ところがダイキンは、米国では違う顔を見せていた。ダイキンの米国工場周辺の住民たちから訴えられて、4億円超を支払っていたのである。
http://expres.umin.jp/mric/mric_22140-1.pdf
大阪・摂津市にあるダイキン工業淀川製作所=工場のすぐそばを淀川の支流が流れる
●ダイキン「工場敷地外のPFOAは除去しない」
自民、共産、公明、大阪維新などで構成する超党派の摂津市議団への回答には、市内のPFOA汚染に対するダイキンの今後の方針について示したものがあった。日本一のPFOA濃度を記録した摂津市としては、ダイキンに責任を持って汚染を除去してもらう必要がある。だがダイキンの回答は次の通りだった。
「PFOAによる健康被害が発生する状況とは認識していませんので、現時点では対応する考えはありません」
地域住民は汚染の除去を望んでいる。市議団は地域住民の要望に前向きに対応できないかとも質問した。
ダイキンの回答。
「対応する考えはありません」
ダイキンが市議団に送った33項目の回答を整理すると、以下のようになる。(2022年1月31日にダイキン工業が摂津市議団に提出した回答をもとに作成)
http://expres.umin.jp/mric/mric_22140-2.pdf
●ダイキン、米国のPFOA汚染で和解金4億円
工場敷地外のPFOA除去を拒否し、住民の要望にも向き合わないダイキン。だが米国では、住民たちからPFOA汚染で訴えられて、浄化のための費用まで支払っていた。
2005年、米国アラバマ州のテネシー川で、PFOAが検出された。検査を実施したのは、地元の水道局だ。水道局はテネシー川の水を使い、市民に飲料水を提供していた。
PFOAが検出されたテネシー川の上流には、3つのPFOAメーカーが稼働していた。3M、Dyneon(3Mの子会社)、そしてダイキン・アメリカ(ダイキンの子会社、以下「ダイキン」)だ。
2013年、米国当局が動く。有害物質の曝露や健康影響を評価する「有害物質・疾病登録局(ATSDR)」が、水道水を飲んでいた住民121人の血液を分析したのだ。
その結果、住民のPFOA濃度の上昇と、水道水の飲用に関連があったことが判明した。3人の住民と水道局は同年、ダイキンなどPFOAメーカー3社を提訴した。
2018年、原告とダイキンの間で和解が成立する。ダイキンが400万ドル(約4億4000万円)を支払うことが決まった。支払い金は、PFOAを飲料水から除去する費用にも充てられた。
摂津市議団も、この米国での裁判結果を把握しており、ダイキンにこう質した。
「御社がアメリカアラバマ州での裁判で400万ドルを支払って和解したのは、テネシー川をPFOAで汚染し飲料水にできない状況を認めたからではないか」
ダイキンの回答。
「和解金が飲料水の浄化設備費用に使われることは事実ですが、和解によって弊社子会社の責任や違法性が認められたわけではありません」
●バイデン大統領、1兆円のPFAS対策予算に署名
なぜ摂津とアラバマで、ダイキンの態度がこれほど違うのか。
それは、米国では住民たちによる訴訟が相次いでPFOAメーカーが追い込まれた上、当局が厳しい態度を取っているからだ。
2021年11月15日、大統領のジョー・バイデンは、PFOAをはじめとする有機フッ素化合物(PFAS)の調査や浄化のために100億ドル(約1兆1000億円)を支出する法案に署名した。
バイデンが署名した翌11月16日、環境保護庁(EPA)もPFOAに関する新たな見解を公表した。
「最新の科学データと分析によって、これまで認識していたよりもはるかに低い曝露量で、PFOAが健康に悪影響を及ぼす可能性があると判明した」
=つづく
(敬称略)
※この記事の内容は、2022年3月4日時点のものです。
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PFOA汚染と母子(令和の「水俣」No.4)
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★ニュース!
2022年6月30日、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブが主宰する「PEPジャーナリズム大賞2022」において、シリーズ「公害PFOA」が大賞を受賞しました。
本賞は、「インターネット空間の力強いジャーナリズムが、多様にして包容力と活力のある自由主義と民主主義を育てる上で重要な役割を果たす」という理念のもと、インターネット上で発表された報道を対象に選考しています。課題発見部門、検証部門、オピニオン部門の3つが設けられ、各部門から最も優れたものが大賞となります。今年は65作品の応募がありました。
シリーズ「公害PFOA」は、「審査員全員が調査報道として高く評価」。大賞と課題発見部門賞に選ばれました。
詳しくはこちら:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000045968.html